インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

フィリピン中銀、レモロナ新総裁下の初会合では再利上げに含み

~ペソ安に為替介入を仄めかすもそのハードルは高く、政府には高過ぎる目標の修正が望まれる~

西濵 徹

要旨
  • 17日、フィリピン中銀は定例会合を開催して主要政策金利を3会合連続で据え置いた。昨年の同国では商品高に加え、米ドル高に伴う輸入インフレや賃金インフレが重なりインフレが加速し、中銀は大幅利上げを余儀なくされた。しかし、インフレ率は頭打ちに転じたほか、商品高の一巡や米ドル高の一服も重なりインフレは鈍化しており、中銀は5月に1年に及んだ利上げ局面を休止させた。同行は先月総裁が交代したため、今回はレモロナ新総裁の下での初会合となったが、必要に応じて再利上げに含みを持たせる慎重姿勢をみせた。他方、足下の同国景気は躓く動きをみせており、政府が掲げる成長率目標実現のハードルは極めて高いなかで難しい政策対応を迫られている。足下で進むペソ安に為替介入を仄めかす姿勢をみせるも、現実にはそのハードルは高い。政府には現実に即した目標修正と穏当な政策運営が望まれる状況にある。

フィリピンでは、感染一服による経済活動の正常化が進む一方、昨年は商品高による生活必需品を中心とする物価上昇、国際金融市場における米ドル高に伴う通貨ペソ安を受けた輸入インフレ、景気回復を追い風とする賃金インフレも重なり、インフレ率は大きく上振れした。よって、中銀は昨年5月に2年半ぶりの利上げに舵を切るとともに、その後も物価と為替の安定を目的に米FRB(連邦準備制度理事会)に歩調を併せる形で断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。しかし、中銀の積極利上げにも拘らず、その後もペソ安は収まらずインフレも昂進するなど、物価高と金利高の共存状態が長期化して景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。インフレ率は今年1月に約14年ぶりの高水準となったものの、頭打ちに転じている上、その後は商品高の一巡や米ドル高の一服などインフレ要因が後退していることも重なり頭打ちの動きを強めている。こうしたことから、中銀は今年5月に1年に及んだ利上げ局面の休止に動き、その後もインフレが鈍化したことを受けて翌6月も政策金利を維持するも『ハト派』姿勢に傾く兆候をうかがわせた(注1)。先月に任期満了を迎えたメダラ前総裁の後任には、政策委員を務めたレモロナ氏が昇格しており(注2)、同氏の経歴から中銀業務や政策、国際金融、金融市場に精通していることを勘案すれば、新体制の下でも極めて正統的な政策運営がなされると見込まれる。他方、足下の同国景気を巡っては、世界経済の減速懸念が外需の足かせとなり、経済活動の正常化を受けたペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)の一巡に加え、利上げの累積効果が家計消費の重石となり丸3年ぶりのマイナス成長となるなど、予想外の形で『躓いて』いることが確認された(注3)。なお、同国経済は外需面で中国への依存度が比較的高く、中国が団体旅行の解禁を決定するなど景気の追い風となり得るほか、インフレも頭打ちの動きを強めるなど実質購買力の押し上げに繋がる動きもみられる上、金利高にも拘らず企業部門による設備投資は底堅い動きをみせるなど、先行きの景気に対して過度に悲観する必要性は低いと見込まれる。しかし、同国政府は今年の経済成長率目標を6~7%と高めに設定しており、年前半の成長率が+5.3%とこれを下回るなか、目標達成に向けて財政、及び金融政策に対する負荷が強まる懸念もくすぶる。こうしたなか、中銀は17日にレモロナ新体制下で初の定例会合を開催し、主要政策金利である翌日物リバースレポ金利を3会合連続で6.25%に据え置く決定を行った。会合後に公表した声明文では、先行きの物価動向について「最新の見通しではインフレ率は10-12月に目標域に回帰する」としつつ、インフレ見通しを「今年は+5.6%、来年は+3.3%、再来年は+3.4%」と従来見通し(今年は+5.4%、来年は+2.9%、再来年は+3.2%)からいずれも上方修正している。その上で、インフレ期待を巡って「今年は安定している上、来年と再来年はわずかに低下している」としつつ、「インフレを巡るリスクは上向きに傾いている」として「必要に応じて金融引き締めに動く用意はある」と再利上げに含みを持たせる考えをみせた。一方、足下の景気が上述のように躓く動きをみせていることを念頭に「経済成長の見通しは困難(challenging)と認識している」との考えを示した。なお、会合後に記者会見に臨んだレモロナ総裁は先行きの政策運営について「必要に応じて引き締め再開の用意はある」とする一方、「預金準備率を引き下げる可能性はあるが現時点でその時期は不明」とした上で「少なくとも次回会合で金融緩和に動くことはない」との考えをみせた。そして、先行きの景気動向について「ペントアップ・ディマンドの一巡により経済活動は落ち着いた推移が続く」との見方を示した上で、政策スタンスの決定を巡っては「国内事情をより優先する」としつつ、「足下のスタンスは景気に対して抑圧的ではなく、経済成長に影響を与えるのは時期尚早」との見解を示した。他方、足下で再び調整の動きを強めているペソ相場を巡って「市場環境に応じて為替介入に動く用意はある」としつつ、「市場で決定される為替レートを支持する」と述べるなど慎重に動く考えを滲ませており、現実問題として金融緩和のハードルは極めて高いのが実情と捉えられる。政府や中銀にとっては高過ぎる成長目標を維持するよりも、適時適切に修正を行った上で穏当な政策運営を図ることが望まれる。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 ペソ相場(対ドル)の推移
図 2 ペソ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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