インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

フィリピン中銀、次期総裁に政策委員のレモロナ氏の昇格を発表

~豊富な経験を勘案すれば正統的な政策運営が行われようが、難しい対応に直面する可能性は高い~

西濵 徹

要旨
  • フィリピンでは、昨年に久々の高成長を記録するなどコロナ禍からの回復が進む一方、商品高や米ドル高に加え、景気回復の動きも重なりインフレが昂進した。中銀は物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされたが、インフレ率は年明け直後に14年ぶりの高水準となるなど、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。ただし、インフレ率は今年1月をピークに頭打ちに転じており、商品高の一巡やペソ安一服も重なりその後もインフレは鈍化するなか、中銀は利上げ局面を休止させている。メダラ現総裁は来月2日に任期満了を迎えるが、大統領府は次期総裁に政策委員を務めるレモロナ氏を指名することを公表した。レモロナ氏はニューヨーク連銀やBISでの勤務のほか、大学で教鞭をとるなど豊富な経験を有しており、現体制下での積極利上げを支持してきたことを勘案すれば、正統的な政策運営が採られると予想される。他方、足下ではコアインフレ率が高止まりしており、インフレ収束に時間を要することで一段の金融引き締めを迫られる可能性もあり、次期体制は早々から難しい対応が求められよう。

フィリピンでは昨年、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に、久々の高成長を実現するなどコロナ禍で疲弊した同国経済は大きく底入れした。他方、商品高による生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安による輸入インフレ、景気回復による賃金インフレも重なり、インフレ率は大きく上振れする事態に直面している。中銀は昨年5月に利上げ実施に動くとともに、その後は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされた。ただし、中銀による大幅利上げにも拘らず、インフレ率は年明け直後に一時14年強ぶりの高水準に加速しており、物価高と金利高が共存することで底入れの動きを強めた景気に一転冷や水を浴びせる懸念が高まっている。なお、昨年末以降は米ドル高の動きに一服感が出ているほか、商品市況の上振れの動きも一巡していることも追い風に、インフレ率は今年1月(前年比+8.7%)をピークに頭打ちに転じている。さらに、足下においては世界経済の減速懸念を受けた商品市況の調整の動きも重なり頭打ちの動きを強めているものの、依然として中銀目標(2~4%)を大きく上回る推移が続いている。こうした状況ながら、中銀は先月の定例会合において10会合ぶりに政策金利を据え置いて約1年に及んだ利上げ局面の休止を決定している(注1)。その後もインフレ率が一段と鈍化していることを受けて、中銀は今月22日の定例会合においても2会合連続で政策金利を据え置いており、当面のインフレ見通しを下方修正するとともに先行きの政策運営を巡って『ハト派』姿勢を強めている様子がうかがえる(注2)。なお、中銀総裁を巡っては、昨年の大統領選を経たマルコス現政権の発足を受けて当時のジョクノ総裁が財務相に転任したのを機に政策委員であったメダラ現総裁が就任するも、メダラ氏の任期は元々来月2日までとされた。これは中銀総裁の任期は6年とされており、ドゥテルテ前政権下の2017年に就任したエスペニリャ元総裁が2019年に任期途中で死去したことを受けて、ジョクノ氏が任期満了まで務めるべく総裁に就任するも、上述のようにジョクノ氏も任期途中に交代したため、メダラ氏の任期は1年足らずとされた。さらに、メダラ氏は22日の定例会合の翌日に受けたテレビインタビューにおいて、総裁任期についてマルコス大統領から再任の打診を受けていないと述べるなど、任期満了での退任が濃厚になっていた。こうしたなか、大統領府は23日に中銀の次期総裁に現在政策委員を務めるエリ・レモロナ氏を指名することを公表し、来月に正式に就任する見通しとなった。レモロナ氏はニューヨーク連銀で14年、国際決済銀行(BIS)で19年の勤務経験のほか、その後も銀行勤務や大学で教鞭をとった経歴を有するなど中央銀行業務や政策運営、国際金融、金融市場に精通しており、メダラ氏の総裁就任に際して後任の政策委員に就任した経緯がある。さらに、レモロナ氏は政策委員としてメダラ現体制による積極的な利上げ実施を支持してきたことを勘案すれば、レモロナ氏の総裁就任に際しても極めて正統的な政策運営が行われる可能性は高いと見込まれる。なお、メダラ氏は足下のコアインフレ率が高止まりしているにも拘らず、先行きのインフレ見通しを巡って楽観的な見方を示していたものの、ペソ相場は国際金融市場を取り巻く環境に左右されやすいことを勘案すれば一段のタカ派姿勢を迫られることも考えられる。足下の景気は物価高と金利高の共存が内需の足かせとなっている上、中国景気が早くも息切れの様相をみせるなど外需を取り巻く環境も厳しさを増しており、レモロナ新体制は早々から難しい政策対応を迫られることが予想される。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ