- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 中国景気は頭打ちの様相を強めるも、当局の「テコ入れ」は光明か
- Asia Trends
-
2023.07.31
アジア経済
米中関係
アジア経済見通し
アジア金融政策
中国経済
中国景気は頭打ちの様相を強めるも、当局の「テコ入れ」は光明か
~中国にも世界にも追い風となり得る一方、構造問題の行方には引き続き注意を払う必要がある~
西濵 徹
- 要旨
-
- 中国経済は、昨年末のゼロコロナ終了を受けて一旦は底入れの動きを強めたが、その後は頭打ちの動きを強めるなど息切れしてきた。若年層を中心とする雇用悪化や不動産市況の低迷が内需の足かせとなるとともに、世界経済の減速懸念や中国を念頭にした経済安全保障の動きは外需の重石となっている。結果、景気は頭打ちの動きを強める一方、中銀の利下げは小幅に留まるなど景気への影響は限定的となってきた。
- このように足下の景気は頭打ちの様相を強めるなか、製造業の企業マインドは内・外需を巡る不透明感が重石となる状況が続いており、雇用調整圧力は家計部門に悪影響を与える懸念がくすぶる。非製造業の企業マインドも一段と頭打ちしており、なかでも建設業は2020年3月以来の低水準となるなど深刻な状況に直面している。雇用を取り巻く状況は幅広く悪化するなど内需を取り巻く環境は一段と悪化している。
- 共産党は中央政治局会議で内需喚起に動く方針を明らかにしており、政府も内需拡大に向けた取り組みを明らかにするなど、景気の「テコ入れ」に動く姿勢をみせている。中国の景気底入れの動きは中国のみならず、世界経済にとっても追い風になると期待される。ただし、社会保障や地方財政などの構造問題が取り残されれば、資産バブルや債務問題を一段と困難なものにするリスクもあり、その行方に注意が必要である。
中国経済を巡っては、昨年末以降のゼロコロナの終了を受けて一旦は底入れの動きを強めたものの、その後は再び頭打ちの様相を強めるなど景気に対する不透明感が強まっている。その背景には、当局によるゼロコロナへの拘泥が長期化して若年層を中心に雇用が悪化している上、ゼロコロナ終了にも拘らず雇用改善が進まず家計部門が貯蓄志向を強めて財布のひもを固くしており、ペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)を超える形で需要拡大に結び付きにくい状況が続いていることがある。また、中国経済にとっては不動産投資がGDPの約2割を占めるなど、その動向が景気を大きく左右する傾向があるなか、上述のように家計部門が節約志向を強めるなかで不動産需要に下押し圧力が掛かることで不動産市況は低迷が続いている。ここ数年、中国では企業部門を中心とする過剰債務問題が潜在的な金融リスクを招くことが懸念されてきたなか、不動産セクターは最もレバレッジ比率が高く、不動産市況の低迷はバランスシート調整圧力や資金繰りを巡る懸念に繋がりやすい。こうした状況は銀行セクターの貸出態度の悪化を通じて幅広く企業部門の資金繰りに悪影響を与えており、雇用調整の動きを通じて家計部門の財布の紐を一段と固くする悪循環に陥っていると考えられる。さらに、コロナ禍からの世界経済の回復をけん引してきた欧米など主要国景気が物価高と金利高の長期化を受けて頭打ちの様相を強めるなど、中国経済にとって外需をけん引役にした景気回復も困難になっている。そして、ここ数年の米中摩擦に加え、コロナ禍やウクライナ情勢の悪化を契機とするデリスキング(リスク低減)を目指した世界的なサプライチェーンの見直しの動きも中国の製造業にとって逆風となっている。このように、足下の中国経済については内・外需双方で景気の足を引っ張る動きが顕在化しており、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+3.2%(前期比+0.8%)とプラス成長を維持するも、1-3月(前期比年率+9.1%)から拡大ペースは鈍化するなど、景気は頭打ちの様相を強めている(注1)。なお、中銀(中国人民銀行)は6月に10ヶ月ぶりに銀行の貸出金利の指標となる最優遇金利(LPR)の1年物、及び5年物をともに引き下げる金融緩和に動いたものの、利下げ幅は10bpと小幅に留めるなど景気を大きく押し上げることは期待しにくい状況にある。

このように、製造業を中心とする企業を取り巻く環境は一段と厳しさを増す様相を呈していることを反映して、31日に国家統計局が公表した7月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.3となり前月(49.0)から+0.3pt上昇するなど底打ちしているものの、4ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準(50)を下回るなど、依然として力強さを欠く動きが続いている。足下の生産動向を示す「生産(50.2)」は2ヶ月連続で50を上回る水準を維持しており、生産活動は拡大しているものの、前月比▲0.1pt低下するなど早くも頭打ちの様相をみせている。先行きの生産に影響を与える「新規受注(49.5)」は同+0.9pt上昇するも、4ヶ月連続で50を下回る推移が続いている上、「輸出向け新規受注(46.3)」も同様に4ヶ月連続で50を下回るとともに同▲0.1pt低下しており、内・外需双方で受注動向が弱含んでいる。供給懸念などを理由に原油をはじめとする国際商品市況が底入れの動きを強めていることを反映して「調達価格(52.4)」は前月比+7.4ptと大幅に上昇しており、企業部門は急激なコスト上昇圧力に直面している。こうした動きを反映して、「出荷価格(48.6)」も同+4.7pt上昇するなど一部に価格転嫁の動きが確認されているものの、家計消費が弱含む推移をみせて価格競争が激化するなかでコスト上昇分を製品価格に充分に転嫁出来ていない様子もうかがえる。受注動向は弱含んでいるものの、「完成品在庫(46.3)」は前月比+0.2ptとわずかに上昇するも依然として50を大きく下回る水準に留まるなど在庫復元余力は大きいものの、原材料などの「購買量(49.5)」は同+0.6pt上昇するも依然50を下回る推移が続いており、当面は大幅な生産拡大に向かいにくい状況を反映している。さらに、生産活動が頭打ちの様相を強めていることを反映して「雇用(48.1)」も5ヶ月連続で50を下回る推移をみせるなど調整が続いている上、前月比も▲0.1ptと低下するなど調整の動きを強めるなど、家計部門を取り巻く状況は一段と厳しさを増すことも考えられる。

また、製造業とは対照的にサービス業や建設業など非製造業の企業マインドは堅調な動きをみせてきたものの、非製造業PMIは3月をピークに頭打ちの動きを強めており、7月は51.5と引き続き50を上回る水準を維持するも前月(53.2)から▲1.7pt低下するなど一段と頭打ちして昨年12月以来の低水準となっている。なかでもコロナ禍以降も景気のけん引役となる動きをみせてきた「建設業(51.2)」は前月比▲4.5pt低下している上、その水準はコロナ禍の影響が最も色濃く現われた2020年2月(26.6)以来となるなど、足下の状況は極めて深刻な事態に直面している様子がうかがえる。その一方、「サービス業(51.5)」も前月比▲1.3pt低下して昨年12月(39.4)以来の低水準となっており、ゼロコロナ終了により底入れした景気回復の動きは早くも一巡していると捉えられる。足下の経済活動に下押し圧力が掛かるとともに、先行きに影響を与える「新規受注(48.1)」も前月比▲1.4pt、「輸出向け新規受注(47.7)」も同▲2.3pt低下してともに50を下回る水準で推移するなど、内・外需双方に下押し圧力が掛かる様子がうかがえる。非製造業においても原油をはじめとするコスト上昇の動きが顕在化しており、「投入価格(50.8)」は前月比+1.8pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなどコスト上昇圧力に直面している。こうした動きを反映して「出荷価格(49.7)」も前月比+1.9pt上昇するなど価格転嫁の動きが広がっており、製造業に比べて価格転嫁がしやすい状況を反映していると捉えられるものの、依然として50を下回る水準で推移しており、ディスインフレ基調を一段と強める流れが続いていると捉えられる(注2)。さらに、内・外需双方に不透明感が高まっていることを反映して「業務活動期待(59.0)」は前月比▲1.3pt低下して昨年12月以来の水準となるなど、企業部門の期待がしぼんでいる様子がうかがえる。また。こうした将来期待の悪化を受けて「雇用(46.6)」も5ヶ月連続で50を下回る推移をみせるなど調整圧力がくすぶるとともに、前月比も▲0.2pt低下するなど調整の動きを強めており、幅広く家計部門を取り巻く環境は厳しさを増していると捉えられる。

なお、共産党は先日開催した中央政治局会議において、当面の政策運営を巡ってマクロ経済政策の調整を強化するとともに、内需拡大に注力する方針を明らかにしている。穏健な金融政策と積極的な財政政策を堅持した上で、不動産セクターや地方政府債務を巡る不透明感が金融リスクに発展する懸念があるなか、マクロ調整を的確、且つ強力に推進することで景気下支えを図るほか、民間投資の活発化にも取り組む考えを示している。こうした動きに呼応するように、政府も内需拡大策を公表しており、具体的にEV(電気自動車)を中心とする新エネルギー車の普及を目的に税優遇政策の継続を図るほか、電気製品や家具など耐久消費財に対する需要喚起に取り組むとしている。さらに、不動産需要の喚起を目的に若年層など住宅取得が困難な層を対象に支援を拡充するとともに、住み替えによる需要喚起を目的に規制緩和を通じてローン金利や頭金比率の引き下げに動くなどの取り組みを強化する方針を明らかにしている。また、企業部門に対する支援を巡っても、補助金給付や減税、手数料の引き下げなどを通じたコスト抑制による支援を強化する考えを示している。こうした景気の『テコ入れ』を目的とする政策支援の動きは頭打ちしている中国景気を押し上げることが期待されるほか、中国経済に文字通り『おんぶに抱っこ』の様相を強めてきた世界経済にとっても追い風となることは間違いない。ただし、ここ数年の中国においては企業部門の信用残高がGDP比で日本のバブル期を上回る水準で推移するなど過剰感が懸念されてきたものの、家計部門における信用残高も過去数年急上昇しており、その背後で不動産投資が拡大してきたことが影響している。一連の景気刺激策を通じて家計消費をはじめとする内需が喚起されることは中国のみならず、世界経済にとっても望ましいと捉えられる一方、社会保障をはじめとする制度改革のほか、独自財源の乏しい地方財政を巡る状況に対する改革などがおざなりにされた状況が続けば、過去と同様に不動産をはじめとする資産バブルを招く可能性はくすぶる。仮にそうした事態に陥れば、社会経済格差のさらなる拡大を招くことで習近平指導部が主導する『共同富裕』は事実上棚上げを余儀なくされるほか、その後の過剰債務問題への対応は一段と困難になることも懸念される。その意味では、短期的な景気刺激策の行方のみならず、構造改革など中長期的な課題への対応の行方にもこれまで以上に注意を払う必要性が高まっていると言える。
注1 7月18日付レポート「足下の中国経済は依然プラス成長を維持、「どこ」を見るかで見え方は変わる」
注2 7月10日付レポート「中国経済はいよいよデフレの「一歩手前」まで迫りつつあるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
台湾・6月輸出、先進国向けは拡大も、中国本土向けは下振れ(Asia Weekly) ~原油高一服でアジアのエネルギー価格は下振れするも、幅広くインフレ圧力が強まる流れ~
アジア経済
西濵 徹
-
マレーシア中銀、6会合連続金利据え置きで様子見姿勢を維持 ~中東情勢への警戒感を弱め、景気と物価の安定を重視している模様~
アジア経済
西濵 徹
-
中国経済は苦境に直面も、経済的威圧をやめることはない ~原油高一服後も需要低迷と価格転嫁難が景気、株価の重しとなる展開~
アジア経済
西濵 徹
-
ブラジル・フラビオ上院議員も米国の関税政策に反対表明へ ~懲罰的関税が米国の影響力低下を加速させる皮肉な結果となる可能性も~
新興国経済
西濵 徹
-
ニュージーランド中銀、約3年ぶりの利上げでNZドル相場はどうなる? ~長期で緩やかな引き締めサイクルへ、NZドル安への警戒感にも注意~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
マレーシア中銀、6会合連続金利据え置きで様子見姿勢を維持 ~中東情勢への警戒感を弱め、景気と物価の安定を重視している模様~
アジア経済
西濵 徹
-
中国経済は苦境に直面も、経済的威圧をやめることはない ~原油高一服後も需要低迷と価格転嫁難が景気、株価の重しとなる展開~
アジア経済
西濵 徹
-
ニュージーランド中銀、約3年ぶりの利上げでNZドル相場はどうなる? ~長期で緩やかな引き締めサイクルへ、NZドル安への警戒感にも注意~
アジア経済
西濵 徹
-
フィリピン・サラ副大統領への弾劾裁判開始 ~弾劾の行方は不透明だが、経済を無視した政局争いを市場はどうみるか~
アジア経済
西濵 徹
-
ベトナム、4-6月GDPは前年比+8.39%に加速も、目標のハードルは高い ~市場を取り巻く環境は改善するなか、先行きは「身の丈」が重要になるか~
アジア経済
西濵 徹

