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IMFがパキスタンへの支援実施で「実務者合意」、経済立て直しは進むか

~IMFからの支援受け入れに目途も、事態打開には課題山積の状況は変わっていない~

西濵 徹

要旨
  • パキスタンは外貨不足による対外債務のデフォルトが懸念される状況が続くなか、IMF からの支援受け入れに向けて同国政府は長期に亘る協議を続けてきたほか、支援受け入れに向けた条件クリアに向けた努力を続けてきた。先月末には中銀が追加利上げに動くとともに、議会も受け入れ条件を満たすべく修正した予算案を承認するなどの取り組みを進めてきた。こうしたなか、IMF は先月 29 日付で 30 億ドル規模の支援実施に向けた実務者レベルでの合意に至った旨を公表した。政府や中銀の取り組みを好感する一方、外貨節約を目的に実施された輸入規制がインフレなど副作用を招いたことを批判する向きもみせた。支援実施に目途が立ったことで状況は多少改善することが見込まれるが、輸出は本調子にほど遠く外貨不足の懸念はくすぶる。地政学リスクも懸念されるなかで同国を巡る状況には今後も注意を払う必要があると言える。

パキスタンを巡っては、外貨準備の不足を理由に対外債務がデフォルト(債務不履行)に陥る懸念がくすぶる。昨年来の商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ルピー安に伴う輸入インフレも重なり、インフレ率は大きく上振れして中銀目標から乖離する展開が続いてきた。中銀は物価と為替の安定を目的に、断続且つ大幅利上げを余儀なくされたほか、足下では商品高の動きが一巡している上、米ドル高の動きも一服しているにも拘らず、インフレは一段と加速するなど収束の見通しが立たない状況が続いている。さらに、同国においては昨年、豪雨の影響で大洪水が発生して一時は国土の3分の1が冠水する事態となるなど経済に壊滅的な打撃を与える事態に見舞われたほか、年明け以降も北西部や中部を中心に豪雨により停電状態に陥るなど、極めて厳しい状況が続いている。こうしたなか、同国政府はデフォルト回避に向けてIMF(国際通貨基金)からの支援受け入れの再開に向けた協議を断続的に行ってきたものの、IMFは融資実行の前提条件に外部から多額の追加的な資金支援の確約を求めてきた模様である。同国政府はアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビア、中国に対して資金支援を要請するとともに、燃料補助金の廃止をはじめとする財政政策面でも引き締めに舵を切るなどの動きをみせてきた。さらに、不足する外貨の節約を目的に広く国民に対して節電要請を行うなどの取り組みに加え、割安なロシア産原油の輸入に動くとともに、その決済に人民元を利用するなど『何でもあり』の対応をみせてきた(注1)。また、中銀は先月 26 日に緊急会合を開催して 100bp の利上げを実施して政策金利は 22.00%と過去最高水準に達しているほか、その前日(25 日)に議会はIMFからの支援受け入れ条件を満たすべく修正した 2023-24 年度予算案を承認するなど、支援受け入れに向けた『前裁き』の動きを活発化させてきた。こうした動きも後押しする格好となり、IMFは先月 29 日付で同国に対するスタンドバイ取極に基づく約 30 億ドル規模(22.5 億SDR)の融資実行に関して実務者レベルで合意に至ったことを公表している。なお、公表文では今月中旬までに実施予定の理事会での承認を目指すとしており、昨年の大洪水を経て長期に亘ってこう着状態が続いてきた状況は前進したと捉えられる。また、公表文においては上述した 2023-24 年度予算案について、社会的弱者の支援強化を図る一方、歳入増に向けて課税ベースの拡大や累進性改善に向けた取り組みを強化することで基礎的財政収支の改善を見込むことを評価しており、こうした動きも支援実施を後押ししたと捉えることが出来る。一方、足下の同国経済を巡って「大洪水やウクライナ情勢の悪化に伴う国際商品市況の高騰など外的ショックに加え、幾つかの政策失敗の影響で経済は停滞している」として、外貨節約を目的とする輸入規制の実施がインフレを招く一因になっていることを指摘するとともに、今後はこうした対応が撤廃されることを期待する姿勢をみせている。ただし、5月末時点における外貨準備高は 26.13 億ドルと月平均輸入額の 0.5ヶ月分に留まるなど危機的状況が続いている一方、昨年の大洪水が尾を引く形で足下の輸出額は依然として大洪水の前を大きく下回る推移が続くなど『本調子』にほど遠い状態にある。その意味では、IMFによる支援実施に目途が立ったことで状況は多少改善することは期待されるものの、実態としてはデフォルトに陥る懸念がくすぶる状況は変わっていないと捉えられる。南アジア地域における地政学を巡る動きは、地域情勢のみならず、シーレーンを通じて日本経済にも影響を与えることが懸念されるなか、その動向には引き続き注意を払う必要がある。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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