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2023.06.15
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中国、景気頭打ちによる金融緩和観測も、当局は難しい対応を迫られるか
~金融緩和の「前裁き」は進むも、人民元安や資金流出を招く懸念もあり、難しい対応を迫られるか~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の中国経済を巡っては、世界経済の減速懸念などが外需の重石となる上、雇用回復の遅れも内需の足かせとなるなど、国内外双方で景気に不透明感が高まっている。他方、中国経済の減速は中国経済におんぶに抱っことなってきた世界経済の足かせとなり、翻って中国経済の重石となる悪循環となり得る。足下の中国の景気減速は、中国経済への依存度が高い国のみならず、世界経済全体にも影響を与え得る。
- 若年層を中心とする雇用悪化が重石となり、5月の小売売上高は前年比+12.7%と伸びが鈍化している。経済活動の正常化を受けて高額品への需要が活発化する動きがみられる一方、不動産需要の低迷は耐久消費財への需要の足かせとなるなど「K字型」の様相を強める。さらに、内外需の頭打ちを受けて鉱工業生産も前年比+3.5%と底入れの動きに一服感が出ている。外需の低迷がハイテク関連の生産の足かせとなっているほか、インフラ投資への期待が後退する動きもみられる。また、固定資本投資も年初来前年比+4.0%と頭打ちしており、民間投資や不動産投資の弱さが足を引っ張る状況が続く。不動産需要の低迷は市況の重石となり、関連業界のみならず経済全体に与える影響も大きいことに留意する必要がある。
- 景気減速懸念が高まるなか、今月に入って以降は大手国有銀行が人民元建預金金利を引き下げ、人民銀行も短期を中心に金利を引き下げており、金融市場では一段の金融緩和に動くとの期待が高まっている。他方、こうした観測は人民元安や資金流出を招く懸念もあるなか、当局は難しい対応を迫られるであろう。
足下の中国経済を巡っては、昨年末以降のゼロコロナ終了による景気底入れが進むことが期待されたものの、年明け直後は経済活動の正常化に春節連休の時期が重なったことで幅広く企業マインドが改善するなど景気底入れの動きが確認される一方、その後は早くも『息切れ』が意識される状況にある。国家統計局が公表しているPMI(購買担当者景況感)は製造業で景気減速が意識される水準で推移する動きがみられるほか、景気回復の動きをけん引してきたサービス業や建設業のマインドも頭打ちに転じるなど、景気底入れの動きに陰りが出ている様子がうかがえる(注1)。この背景には、物価高と金利高の共存により欧米など主要国を中心に世界経済が頭打ちの様相を強めるなど、外需を取り巻く環境が悪化していることが考えられる。さらに、ここ数年の米中摩擦に加え、昨年来のウクライナ情勢の悪化を受けてロシアと欧米などの関係が悪化するなか、中国は事実上ロシアを支援する動きをみせるなど欧米などとの関係が悪化しており、サプライチェーンの再構築などによる『デリスキング(リスク抑制)』の動きが広がるなど、幅広い経済活動の足かせとなる懸念も高まっている。このように外部環境が急速に悪化していることに加え、中国国内においてはコロナ禍を経て若年層を中心に雇用環境が悪化したほか、上述のようにゼロコロナ終了を受けて企業マインドは改善したにも拘らず、雇用調整が示唆される動きがうかがえる。こうした状況を反映して、足下においては輸出が頭打ちの動きを強めるなど外需に下押し圧力が掛かる動きがみられるほか、外需の調整を理由に素材や部材などの調達に下押し圧力が掛かることで輸入も頭打ちするなど、輸出入双方で下振れする動きが確認されている(注2)。2000年代以降の世界経済を巡っては、中国経済の成長に文字通り『おんぶに抱っこ』の様相を強める展開が続いてきたものの、中国経済の変調は世界経済の足かせとなることは避けられず、翻って中国経済の重石となる悪循環に繋がることも考えられる。その意味では、足下における中国経済の減速懸念は、中国経済への依存度が高い国々のみならず、世界経済全体にとっても不透明要因となっていると捉えられる。
なお、上述のように若年層を中心とする雇用環境の悪化が懸念される状況を反映して、5月の調査失業率は5.2%、主要31都市では5.5%に留まるものの、16~24歳の若年層に限れば20.8%と過去最高となるなど、若年層は極めて厳しい状況に置かれている様子がうかがえる。今秋の大卒者数は1,158万人と過去最高水準となることが予定されており、その大宗が労働市場に参入することが見込まれることを勘案すれば、先行きにおける若年層を取り巻く雇用環境は一段と厳しいものとなる可能性も予想される。そうしたなか、家計消費の動向を示す5月の小売売上高(社会消費支出)は前年同月比+12.7%と前月(同+18.4%)から伸びが鈍化しているほか、自動車を除いたベースでも同+11.5%と前月(同+16.5%)から伸びが鈍化している。なお、前年比ベースの伸びが鈍化した背景には、昨年の同時期には上海などでのロックダウン(都市封鎖)が解除されて底入れの動きを強めて伸びが加速した反動が出ていることに留意する必要がある。事実、前月比は+0.42%と前月(同+0.20%)から拡大ペースは加速しているものの、コロナ禍前と比較して緩やかなペースに留まるなど、足下の状況は本調子にはほど遠いと捉えることが出来る。種類別では、地方政府レベルで買い替え促進を目的とする補助金給付などが実施されていることも追い風に、EV(電気自動車)を中心とする新エネルギー車をはじめとする自動車(前年比+24.2%)は引き続き高い伸びで推移しているほか、経済活動の正常化を反映して外食(同+35.1%)、通信機器関連(同+27.4%)、宝飾品(同+24.4%)など高額品に対する需要が活発化している様子がうかがえる。一方、雇用不安が重石となる形で不動産需要が弱含みする展開が続いているなか、建材(前年比▲14.6%)や家電製品(同+0.1%)、家具類(同+5.0%)など耐久消費財に対する需要は力強さを欠く動きが続いており、対照的な動きがみられる。こうした動きは所得階層ごとの消費行動にバラつきが生じていることを反映している可能性があり、足下の家計消費の動きは『K字型』の様相を強めていると捉えられる。

また、上述のように世界経済の減速により外需を取り巻く状況が厳しさを増すとともに、家計消費の回復も道半ばの状況にあることを反映して、5月の鉱工業生産は前年同月比+3.5%と前月(同+5.6%)から鈍化して3ヶ月ぶりの伸びとなるなど、底入れの動きを強めた流れに一服感が出ている。なお、前年比の伸びについては昨年の同時期に大きく伸びが加速した反動が出ていることに留意する必要があり、前月比は+0.63%と前月(同▲0.34%)から2ヶ月ぶりの拡大に転じるなど底入れの動きが続いている。ただし、分野別では製造業(前年比+4.1%)に底堅い動きがみられるものの、外需の低迷やサプライチェーンの再構築などの動きが影響してハイテク関連(同+1.7%)は力強さを欠く動きがみられるなど、生産の足を引っ張っているとみられる。さらに、世界経済の減速懸念を受けた商品市況の調整の動きが重石となる形で鉱業部門(前年比▲1.2%)の生産も弱含んでおり、外需のみならず内需の弱さも生産活動の足かせになっていると考えられる。財別では、需要の堅調さを反映して新エネルギー車(前年比+43.6%)がけん引役となる形で自動車(同+17.3%)は高い伸びが続いている。さらに、中国国内における再生可能エネルギー需要の高まりを反映して、太陽電池(前年比+53.1%)の生産も高い伸びが続いているほか、発電機(同+45.4%)も同様に高い伸びで推移するなど、生産活動を下支えしている。他方、世界的な需要鈍化懸念を反映してマイコン(前年比▲18.8%)は引き続き大幅なマイナスで推移しているほか、スマートフォン(同▲2.5%)が足かせとなる形で移動通信機器(同+3.5%)も力強さを欠く推移が続いている。また、年明け以降はインフラ関連を中心とする公共投資の進捗を期待する動きがみられたものの、5月は鉄鋼(前年比▲7.3%)、銑鉄(同▲4.8%)、鋼材(同▲1.3%)が軒並み弱含んでいるほか、板ガラス(同▲9.4%)やセメント(同▲0.4%)の生産も低迷するなど、建設需要の弱さを反映した動きもみられる。他方、中国が割安なロシア産原油の輸入を拡大させていることを反映して石油加工量(前年比+15.4%)は高い伸びが続いているものの、需要が弱含む推移をみせていることを勘案すれば、先行きは中国国内で精製された石油加工品がアジアなど周辺国に流通することも考えられる。

過去の景気回復局面においては、不動産投資をはじめとする固定資産投資の底入れの動きがそのけん引役となることが多かったものの、5月の固定資産投資は年初来前年比+4.0%と前月(同+4.7%)から伸びが鈍化しており、当研究所が試算した単月ベースの前年同月比も5月は▲7.6%と前月(同▲9.5%)からマイナス幅は縮小するも前年を大きく下回る推移が続いている。前月比は+0.11%と前月(同▲0.82%)から4ヶ月ぶりの拡大に転じているものの、足下の水準は戦略転換を受けて混乱する事態に見舞われた昨年末時点を下回るなど、回復にはほど遠い状況にあると判断出来る。実施主体別では、国有企業(年初来前年比+8.4%)が依然として比較的高い伸びを維持している一方、民間投資(同▲0.1%)は前年を下回る伸びに留まるなど対照的な動きをみせており、ここ数年中国国内において進んでいる『国進民退』の動きが続いていると捉えられる。当局によるゼロコロナ終了を受けてワクチン生産の動きが大きく後退するなど医薬品関連の投資が下振れしているほか、生産活動の低迷を反映して幅広く原材料関連の投資が弱含んでいることも重石になっている。さらに、不動産需要の低迷を反映して5月の不動産投資は年初来前年比▲7.2%と前月(同▲6.2%)からマイナス幅が拡大しており、当研究所が試算した単月ベースの前年同月比でも▲21.5%と前月(同▲16.2%)からマイナス幅が拡大するなど頭打ちの動きを強めている。さらに、主要70都市の新築住宅価格も5月は前月比+0.1%と5ヶ月連続で上昇するも、前月(同+0.4%)からそのペースは鈍化するなど頭打ちしており、前月比が上昇した都市数も46都市と前月(62都市)から減少するなど勢いに陰りが出ている。不動産市況の低迷は昨年来資金繰りに窮する関連業界に直接的に悪影響を与えるとともに、中国経済にとって不動産投資はGDP比で最大2割弱に上ると試算されるなかで景気の足を引っ張るほか、不動産収入が『打ち出の小槌』となってきた地方政府の財政を一段と悪化させるなど、幅広く中国経済の足を引っ張ることが懸念される。

このように足下の中国景気には国内外双方で足を引っ張る要因が山積するなか、今月8日に大手国有銀行4行(中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行)が人民元建預金金利を引き下げており、中銀(中国人民銀行)にとっては景気下支えに向けた一段の金融緩和余地に繋がる動きをみせている。これを受けて、中銀は13日に7日物リバースレポに基づく20億元の資金供給を実施するとともに、昨年8月以来10ヶ月ぶりに7日物リバースレポ金利を10bp引き下げて1.90%としたほか、市中銀行に対する資金供給手段である常設貸出ファシリティー(SLF)の適用金利も一律で10bp引き下げるなど短期金利の抑制に動いている。さらに、中銀は15日に1年物中期貸出制度(MLF)を通じて一部の金融機関を対象に2370億元の資金供給を実施し、適用金利を前回から10bp引き下げて2.65%とする決定を行っている。よって、金融市場においては20日に指標金利である最優遇貸出金利(LPR)や預金準備率の引き下げに動くとの観測が強まるなど、金融緩和を通じた景気下支えに動く可能性が意識されている。他方、こうした見方を反映して金融市場においては人民元安の動きが加速しており、資金流出の動きが加速して景気の足を引っ張るリスクもくすぶるため、当局が『的を絞った』対応に注力せざるを得ない状況も予想される。その意味では政策転換により景気を巡る状況を大きく変えられるものとなるかは、現時点では未知数と捉えられる。

注1 5月31日付レポート「世界経済は中国の景気減速を意識する必要がある、かもしれない」
注2 6月9日付レポート「足下の中国景気はいよいよ「内憂外患」の様相を強める展開」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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