インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ニュージーランドは物価高と金利高、自然災害も重なり「テクニカル・リセッション」入り

~NZドル相場は米ドルには不透明な展開が続くも、日本円に対しては底堅い展開が続く可能性~

西濵 徹

要旨
  • 昨年来のニュージーランド経済は、経済活動の正常化や国境再開に加えて、世界経済の回復を追い風に底入れしてきた。他方、商品高やNZドル安、景気回復による賃金インフレも重なり、インフレ率は一時32年ぶりの水準に加速した。中銀は断続的且つ大幅利上げを余儀なくされており、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなる懸念が高まっている。昨年末以降の景気は頭打ちしており、年明け直後の自然災害の頻発も重なり、今年1-3月は2四半期連続のマイナス成長となるなどテクニカル・リセッションに陥っている。
  • 昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了にも拘らず外需に下押し圧力が掛かる展開が続いている。他方、自然災害からの復興需要や堅調な雇用を反映して家計消費が押し上げられており、公共投資の進捗も固定資本投資を押し上げるなど、内需は底堅く推移している。自然災害の影響で農林漁業や一部のサービス業の生産は下振れしたほか、高金利は製造業の生産の重石となる一方、復興需要は鉱業や建設業の生産を下支えしている。なお、在庫調整の動きが景気の足かせとなるなど、先行きへの明るい材料もみられる。
  • 中銀は先月の定例会合で利上げ打ち止めを示唆する動きをみせている。また、金利上昇に伴い調整した不動産市況は移民による堅調な需要を反映して底打ちしており、中銀は供給拡大を目的に住宅ローン規制の緩和に動いている。ただし、雇用の堅調さに加えて不動産市況の動向も新たなインフレ要因となる懸念があり、中銀は高金利政策を維持せざるを得ないと予想される。NZドルの対米ドル相場は米FRBの政策運営に揺さぶられる展開が続くが、日本円には金融政策の方向性の違いが底堅さに繋がると見込まれる。

昨年来のニュージーランド経済を巡っては、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きを受けて、コロナ禍による景気減速からの回復が進んできた。しかし、商品高による生活必需品を中心とする物価上昇や、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨NZドル安に伴う輸入インフレに加え、景気回復を追い風とする賃金インフレも重なり、昨年のインフレ率は中銀(NZ準備銀行)の目標を大きく上回るとともに、一時は32年ぶりの高水準となった。中銀はコロナ禍対応を目的に、利下げや量的緩和など異例の金融緩和に舵を切るも、インフレに加え、コロナ禍を経た生活様式の変化や景気回復による住宅需要の拡大が不動産市況の高騰を招くなど新たな問題に直面した。よって、中銀は一昨年10月に7年ぶりとなる利上げに舵を切るとともに、その後は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされてきた。結果、昨年半ばをピークにインフレ率は頭打ちに転じているものの、依然中銀目標を大きく上回る推移が続く一方、断続利上げを受けた物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。なお、昨年末にかけては欧米などの景気頭打ちに加え、中国のゼロコロナ戦略を受けた景気減速など外需を巡る環境悪化も重なり、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲2.72%(改定値)とマイナス成長となるなど景気に急ブレーキが掛かっていることが明らかになった(注1)。他方、年明け以降は中国によるゼロコロナ終了を受けた景気底入れの動きが外需を押し上げることが期待されたものの、1月には最大都市オークランド周辺において記録的豪雨により多数の洪水被害や土砂崩れが発生したほか、翌2月にもサイクロンが同国北島に接近して洪水や土砂崩れ、高波などが発生して国家非常事態を宣言する事態に追い込まれるなど自然災害が頻発したことも影響して(注2)、今年1-3月の実質GDP成長率も前期比年率▲0.26%とマイナス成長となっている。同国経済は2四半期連続でマイナス成長となるテクニカル・リセッションに陥るなど、物価高と金利高の共存に加え、自然災害の頻発も重なり深刻な景気減速に直面している。さらに、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も今年1-3月は+2.2%と前期(同+2.3%)から伸びが鈍化しており、足下の同国景気は急速に頭打ちの様相を強めている。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 実質 GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移
図 2 実質 GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移

需要項目別の動きをみると、昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了の動きも追い風に外国人観光客数は緩やかに底入れする動きが確認される一方、欧米など主要国を中心に世界経済は頭打ちの動きを強めたことが鉱物資源や木材など一次産品を中心とする財輸出の重石となっている。結果、財・サービスを併せた総輸出は2四半期連続のマイナスで推移するとともに、マイナス幅も拡大するなど景気の足を引っ張っている。一方、物価高と金利高の共存により実質購買力に下押し圧力が掛かっているほか、世界経済の減速を受けた商品市況の調整の動きを反映して交易条件指数も頭打ちするなど国民所得に下押し圧力が掛かっているにも拘らず、足下の雇用環境は依然として堅調な推移をみせているほか、自然災害からの復興需要の発現を反映して家計消費が押し上げられている。さらに、住宅ローン規制の強化や金利高が重石となる形で住宅投資に下押し圧力が掛かる推移が続く一方、自然災害からの復興需要の発現の動きが後押しして企業部門による設備投資が押し上げられているほか、インフラ関連などを中心とする公共投資の進捗の動きも固定資本投資を下支えするなど、幅広く内需が押し上げられている。なお、内需の堅調さにも拘らず総輸入は前期比でマイナスに転じており、純輸出の成長率寄与度のマイナス幅は縮小している一方、在庫投資の成長率寄与度は▲2.1ptと大幅なマイナスとなるなど在庫調整進展の動きもみられ、先行きに対する明るい材料もある。分野別の生産動向については、自然災害の頻発が足かせとなる形で幅広く農林漁業関連の生産が下振れしたほか、運輸関連をはじめとするサービス業の生産の重石となっている上、金利高が影響する形で製造業の生産も調整の動きを強めている。一方、昨年末以降の国際金融市場では米ドル高の動きに一服感が出るなど金融取引が活発化していることを反映して金融関連などのサービス業の生産に底堅さがうかがえるほか、自然災害からの復興需要の動きを反映して鉱業部門や建設業の生産は下支えされている。

図 3 実質 GDP 成長率(前期比年率)寄与度の推移
図 3 実質 GDP 成長率(前期比年率)寄与度の推移

図 4 雇用環境の推移
図 4 雇用環境の推移

先行きについては、大洪水からの復興発現の動きは景気を下支えすることが期待されるほか、上述のように在庫調整が進んでいる様子が確認されることから、在庫復元の動きが景気を下支えする余力となることも見込まれる。なお、中銀は先月の定例会合において12会合連続の利上げを決定するとともに、一昨年来の利上げ局面の打ち止めを示唆する動きをみせる一方(注3)、先行きについては来年半ばまで政策金利を据え置く高金利政策を維持する考えを示している。他方、中銀による高金利政策の長期化にも拘らず、金利上昇を受けて頭打ちの動きが続いた不動産価格は年明け直後を境に底打ちに転じており、この背景には移民流入に伴い住宅需要が底入れする一方、金利上昇による供給不足が需給ひっ迫を招いている模様である。よって、中銀は今月から住宅ローン規制の緩和に動くなど供給拡大を側面支援する動きをみせており(注4)、IMF(国際通貨基金)も今月終了した4条協議ミッション後に公表した声明において住宅供給の拡大が必要になると言及している。規制緩和により住宅供給が幾分押し上げられる可能性はあるものの、世界的に人の移動が再び活発化するなど当面は移民流入に繋がりやすい環境が見込まれることを勘案すれば、不動産価格が押し上げられることで新たなインフレ要因となることが懸念される。足下における商品市況の調整の動きはインフレ率の一段の鈍化を促すと期待される一方、雇用の堅調さは賃金インフレを通じてコアインフレ率の高止まりを招く可能性があり、中銀は高金利政策を長期に亘って維持せざるを得ない状況も予想される。なお、同国においては今年10月に次期総選挙が予定されるなか、1月に発足したヒプキンス政権を支える与党・労働党と最大野党・国民党の支持率は接戦を演じる展開が続いており、その背景に物価高による国民生活を取り巻く環境が厳しさを増していることも影響しているとみられる。国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営に対する見方が通貨NZドルの対米ドル相場を左右する展開が続いているものの、少なくとも日本円に対しては金融政策の方向性の違いが底堅さを促す状況が続く可能性は高いと見込まれる。

図 5 不動産価格(中央値・前年比)の推移
図 5 不動産価格(中央値・前年比)の推移

図 6 NZ ドル相場(対米ドル・日本円)の推移
図 6 NZ ドル相場(対米ドル・日本円)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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