インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国は辛うじてテクニカル・リセッション回避も、内・外需に不安山積

~利上げの累積効果に外需鈍化懸念、構造問題も重なり資金流出懸念もくすぶる厳しい環境が続く~

西濵 徹

要旨
  • 韓国では、商品高や米ドル高に伴うウォン安によりインフレが昂進し、景気回復を追い風とする不動産バブルも重なり、中銀は断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。しかし、足下では物価高と金利高が共存する一方、不動産市況の調整が逆資産効果を招くなど内需を巡る環境は厳しさを増している。他方、世界経済の減速懸念は外需の足かせとなるなど、内・外需双方で景気に下押し圧力が掛かりやすい状況に直面する。
  • こうした状況ながら、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+1.14%と2四半期ぶりのプラス成長に転じるなどテクニカル・リセッションは回避された。しかし、幅広く内需は弱含んでいる上、在庫の積み上がりが成長率の押し上げ要因となるなど内容は見た目以上に厳しい状況にある。中銀は利上げ局面を休止したが、外需は依然として弱含む展開が続いており、当面の景気に一段と下押し圧力が掛かる展開も懸念される。
  • 昨年の国際金融市場では米ドル高に伴いウォン安が進み、一時は13年半ぶりの安値を更新した。その後は米ドル高の一服や中国のゼロコロナ終了も重なりウォン相場は底打ちしたが、足下では対外収支構造の脆弱さや景気を巡る不透明感が相場の重石となっている。金融市場では中銀が年内にも利下げに動くとの観測もくすぶるなか、中銀にとっては口先介入を含めた難しい対応を迫られる局面が続くと予想される。

韓国では、商品高を受けた食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレに加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ウォン安に伴う輸入インフレも重なり、インフレ率が一時24年弱ぶりの水準に上振れしており、中銀は物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされてきた。他方、コロナ禍対応を巡って中銀は、利下げに加え、事実上の量的緩和政策に動くなど異例の金融緩和を実施したが、景気回復も追い風に首都ソウルを中心に不動産市況が急上昇してバブル化が懸念される事態を招いた。こうしたことも、中銀が一昨年以降に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされる一因となる一方、インフレ率は昨年半ばをピークに頭打ちに転じるも依然として中銀目標を大きく上回る推移が続いており、物価高と金利高が共存する状況にある。ただし、断続、且つ大幅利上げの背後で急上昇した不動産市況も昨年半ばを境に頭打ちに転じるとともに、足下においても下落基調に歯止めが掛からない状況が続いている。韓国はアジア新興国のなかでも家計債務のGDP比が突出している上、その大宗を住宅ローンが占めており、物価高と金利高が共存している上、不動産市況の低迷は逆資産効果を通じて家計消費の足を引っ張ることが懸念される。さらに、昨年末以降は同国にとって最大の輸出相手である中国のゼロコロナ終了が外需の追い風になることが期待されたものの、足下の世界経済は欧米など主要国を中心に不透明感が強まっている上、米中摩擦の余波を受ける形で中国向け輸出も頭打ちの動きが続いている。そして、コロナ禍前は外国人観光客の4割弱を中国(含、香港・マカオ)が占めたことから、国境再開を受けて底入れが進むことが期待されたものの、足下の外国人来訪者数は依然としてコロナ禍前のピークの3分の1程度に留まるなど、外需は本調子にほど遠い状況が続いている。昨年の経済成長率は+2.6%となり、コロナ禍の影響で2020年が▲0.7%と23年ぶりのマイナス成長に陥った反動も重なり一昨年が+4.1%と11年ぶりの高い伸びから鈍化したほか、内需に下押し圧力が掛かるとともに、外需の不透明感も高まったことで10-12月は2年半ぶりに前期比年率ベースでマイナス成長に転じるなど景気に急ブレーキが掛かる動きが確認された。さらに、上述のように足下においては利上げの累積効果が幅広く内需の足かせとなる動きがみられるほか、外需にも不透明感がくすぶるなど内・外需双方で景気の重石となる動きも顕在化しており、景気に一段と下押し圧力が掛かることが懸念される状況にある(注1)。

図表1
図表1
図表2
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こうした状況ながら、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+1.14%と2年半ぶりのマイナス成長に陥った前期(同▲1.61%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じており、テクニカル・リセッションに陥る事態は回避されている。ただし、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は+0.8%と前期(同+1.3%)から鈍化して2年強ぶりの低成長となるなど、足下の同国景気は頭打ちの様相を強めていると捉えられる。昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了を受けた経済活動の正常化の動きを反映して、昨年末にかけて下振れした財輸出は底打ちする動きが確認される一方、外国人観光客数の回復の遅れも影響してサービス輸出は低調な推移が続いており、外需を巡る動きはまちまちの展開をみせている。さらに、外需を巡る不透明感を理由に若年層や働き盛り世代を中心とする雇用環境は厳しい状況が続くなか、物価高による実質購買力の下押しに加え、金利上昇に伴う金利負担の増大、不動産価格の低迷による逆資産効果も重なり家計消費は力強さを欠く展開が続いている。そして、外需の不透明感や金利上昇の動きが足かせとなる形で企業部門は設備投資を手控える動きをみせており、こうした動きを反映して幅広く内需に下押し圧力が掛かるなど足下の景気の足を引っ張っていると捉えられる。他方、昨年末にかけては在庫調整の動きが進んだことを反映して在庫投資の成長率寄与度がマイナスとなるなど、景気の足を引っ張ったと捉えられる一方、1-3月については在庫投資の成長率寄与度が前期比年率ベースで+2.31ptと成長率(+1.14%)を上回るなど、在庫の積み上がりが成長率の押し上げに繋がっていることを勘案すれば、実態は見た目以上に厳しいと捉えることが出来る。中銀は利上げの累積効果が家計消費や企業部門の設備投資の足かせとなることを警戒して今年2月に1年半に及んだ利上げ局面の休止に動いているほか(注2)、今月の定例会合においても2会合連続で政策金利を据え置くなど利上げ局面の休止を維持している。他方、大宗の政策委員が追加利上げの可能性に含みを持たせる姿勢をみせているほか、金融市場で高まる年内の利下げ観測を諫める考えを示すなど、物価抑制の観点から金利高の長期化を示唆する動きをみせるなど、政策対応の難しさはこれまで以上に高まっている。さらに、中国景気の底入れによる押し上げが期待された財輸出も4月は上中旬時点で前年比▲11.0%と引き続き前年を大きく下回る伸びで推移するなど回復力に乏しい展開が続いている。国境再開にも拘らず中国人観光客の回復も遅れる展開が続いており、こうした動きが本格化するまでは景気回復の足かせとなる状況も予想される。

図表3
図表3
図表4
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昨年の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)によるタカ派傾斜の動きを反映した米ドル高を反映して通貨ウォン相場は調整の動きを強めたほか、昨年10月には世界金融危機直後となる13年半ぶりの安値を更新する事態に直面した。その後は米ドル高の動きが一巡したことを追い風に、ウォン安の動きは一転する展開をみせるとともに、昨年末以降の中国によるゼロコロナ終了決定を受けた景気底入れ期待もウォン相場を押し上げることに繋がったと捉えられる。しかし、年明け以降は中国による景気回復の勢いが期待ほどに上振れしない展開が続いていることに加え、米中摩擦の余波を受ける形で中国によるいわゆる『嫌がらせ』が外需の足かせとなることが懸念されることも重なり、ウォン相場は頭打ちの様相を強めている。さらに、北朝鮮情勢を巡る不透明感など地政学リスクの高まりも嫌気してウォン相場は上値が抑えられる展開が続いており、輸入インフレ圧力がくすぶる状況にある。そして、コロナ禍を経たサービス収支の悪化に加えて昨年来の商品高による輸入の押し上げ、世界経済の減速懸念を反映した輸出低迷も重なり、足下の経常収支は赤字基調で推移するなど対外収支構造は脆弱さを増しており、ウォン相場を巡っては国際金融市場を取り巻く環境に左右されやすくなっている。昨年の米ドル高局面においては、対外収支の悪化や資金流出の動きも重なり外貨準備高は減少の動きを強めており、IMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準として示す適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に照らすと『適正水準(100~150%)』の下限に迫る事態となった。昨年末以降の米ドル高一服に伴い足下では外貨準備高はわずかに増加しているものの、2月末時点のARAは100%をわずかに下回ると試算されるなど、米国での銀行破たんをきっかけにした国際金融市場の不透明感はウォン相場にとり逆風となりやすい状況にある。足下の景気は内・外需双方で重石となる状況が続いている上、国際金融市場においては年内にも中銀が利下げに動くとの観測がくすぶるなか、当面のウォン相場は上値が抑えられるなど、中銀にとっては口先介入を含めた難しい対応を迫られる局面が続くであろう。

図表5
図表5
図表6
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以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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