フィリピン中銀、外部環境を条件に次回会合での利上げ停止に含み

~インフレ昂進が続くなか、国際金融市場の不透明感の行方に配慮せざるを得ない難しい局面が続く~

西濵 徹

要旨
  • 23日、フィリピン中銀は定例会合で9会合連続の利上げ実施に動くも、利上げ幅を25bpに縮小する決定を行った。昨年の同国は内・外需の底入れを追い風に46年ぶりの高成長を記録した。ただし、商品高や景気回復に加え、米ドル高によるペソ安も重なりインフレが上振れしている。さらに、中銀の断続利上げも重なり、足下では物価高と金利高が共存する上、移民送金も頭打ちするなか、国際金融市場の不透明感など景気に悪影響を与える材料が散見される。他方、米ドル高の一服を受けて通貨ペソ相場は底入れしており、米FRBの利上げペースの鈍化も利上げ幅の縮小を後押ししたとみられる。中銀は先行きの政策運営について、外部環境如何を理由に次回会合での利上げ局面の停止に含みを持たせた。他方、足下のインフレ率は高止まりしており、国際金融市場を取り巻く環境に不透明感がくすぶるなかで難しい政策対応が迫られるであろう。

フィリピン経済を巡っては、昨年の経済成長率が+7.6%と46年ぶりの高成長となるなど、感染一服による経済活動の正常化や国境再開に加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に、内・外需双方で景気の底入れが促される動きが確認されている(注1)。他方、ウクライナ情勢の悪化をきっかけとする商品高は同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレに加え、景気回復の動きも重なり幅広くインフレ圧力が強まるなか、中銀は物価安定を目的に昨年5月に3年半ぶりの利上げに動いた。さらに、その後は国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安が輸入インフレを招く懸念が強まったため、中銀は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅な利上げを迫られるなど難しい対応を迫られてきた。結果、物価高と金利高が共存するなど実質購買力に下押し圧力が掛かる事態となっているほか、足下では欧米など主要国景気に不透明感が強まっていることを反映してGDPの1割を占める海外移民労働者からの送金流入額も頭打ちするなど、景気底入れのけん引役となってきた家計部門を取り巻く状況は悪化している。昨年末以降の国際金融市場では米ドル高の動きに一服感が出ていることを反映して、昨年9月に最安値を更新したペソの対ドル相場はその後に一転底入れの動きを強めており、足下においては依然として前年同時期に比べて安値水準で推移しているものの、輸入インフレ圧力は幾分後退していると捉えられる。他方、直近2月のインフレ率は前年比+8.6%と前月(同+8.7%)から幾分伸びが鈍化するも依然14年強ぶりの高水準で推移しているほか、コアインフレ率は同+7.8%と加速の度合いを強めるなど現行基準で最も高い伸びとなっており、ともに中銀の定めるインフレ目標(2~4%)を上回る推移が続きインフレ収束にはほど遠い状況にある。なお、同国にとって最大の輸出相手である中国でのゼロコロナ終了は外需面で景気の追い風となることが期待される一方、足下の国際金融市場では米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が高まるなか、米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営に影響を与える兆しもみられるほか、ペソ相場の行方を左右する動きもみられる。中銀は先月の定例会合において、直前に米FRBが利上げ幅の縮小(50bp→25bp)に動いたにも拘らず、インフレの鎮静化にほど遠い状況が続いていることを理由に、8会合連続の利上げに加え、利上げ幅も2会合連続で50bpとするタカ派姿勢を維持した(注2)。上述のように足下はインフレ収束にほど遠い状況にあるものの、政府内では国際金融市場の混乱による影響を様子見する観点から利上げ局面の休止を示唆する動きもみられるなか、中銀は23日の定例会合において9会合連続の利上げに動くも、利上げ幅を25bpに縮小させて主要政策金利(翌日物借入金利)を6.25%とする決定を行った。会合後に公表した声明文では、物価動向について「インフレ期待がわずかに上振れしており、インフレ見通しを巡るリスクも今年、及び来年にかけて上方シフトしている」とした上で、「さらなる金融引き締めが必要と認められる」との認識を示した。また、「金融引き締めの貫徹が物価上昇圧力の解消を促す」としつつ、「景気動向に注視しつつ、必要に応じて物価を巡るリスクに対応する準備を行っている」との姿勢をみせる一方、「次回の政策対応についてはデータ次第である」との考えをみせた。その上で、先行きの政策運営について「金融市場を巡る新たな動揺が無ければ、正しい方向にシフトさせる」とした上で「外部環境が改善すれば次回会合では利上げは行わない」として利上げ局面の終了に含みを持たせるとともに「国際情勢が判断に影響を与える一方、米FRBの政策運営も注視するが重要な要素ではない」として、あくまで物価動向や外部環境を重視する考えを示した。足下のインフレ率は高止まりしている上、国際金融市場を巡る不透明感など資金流出懸念もくすぶるなかで中銀にとっては当面難しい政策対応を迫られる局面が続くことは避けられないであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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