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2023.03.01
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豪州景気は物価高と金利高の共存を受けて頭打ちの様相を強める
~中国のゼロコロナ終了が追い風となる期待の一方、物価を巡る動きは中銀の政策対応を困難に~
西濵 徹
- 要旨
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- 豪州経済はコロナ禍による悪影響を克服する一方、商品高や景気回復を受けたインフレや不動産市況の上昇を受けて、中銀は断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされてきた。足下のインフレ率は頭打ちの兆しが出るも依然高止まりしており、中国のゼロコロナ終了に伴う商品市況の底入れはインフレの高止まりを招き得る。他方、利上げの副作用も顕在化するなど景気を取り巻く状況に急速に不透明感が高まる兆候も出ている。
- 内・外需に不透明感が高まるなか、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+1.93%と一段と鈍化している。外需は底堅さを維持するとともに、堅調な雇用は家計消費を下支えする一方、金利高により設備投資や住宅投資は下振れしている。内・外需の不透明感を反映して製造業や建設業の生産は弱含んでいるほか、幅広い経済活動の低迷を示唆する動きもみられるなど、豪州経済を取り巻く状況は厳しさを増している。
- 昨年の経済成長率は+3.6%と堅調な推移が続いたが、今年はゲタのプラス幅が一段と縮小している上、物価高と金利高の共存による悪影響も懸念される。中国によるゼロコロナ終了は外需面で景気の追い風になると期待される一方、商品市況の底入れはインフレや対外収支の悪化に繋がるとみられる。中銀はタカ派姿勢を維持したが、好悪双方の材料が混在するなかで政策対応はこれまで以上に困難が増すと予想される。
豪州経済を巡っては、国内においてはコロナ禍の一巡を受けた経済活動の正常化が進むとともに、国境再開の動きも追い風に家計消費をはじめとする内需をけん引役に景気が底入れの動きをみせる一方、最大の輸出相手である中国が『ゼロコロナ』に拘泥する展開をみせたことで外需に足かせが掛かる展開が続いてきた。他方、昨年来のウクライナ情勢の悪化を受けた商品高による世界的なインフレの動きは、同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いている上、昨年の国際金融市場における米ドル高を反映して同国通貨豪ドル相場が調整して輸入インフレ圧力が強まる動きに繋がった。さらに、コロナ禍対応を目的に同国でも財政、及び金融政策の総動員による景気下支えが図られたが、景気の底入れが進むなかで不動産市況のバブル化が懸念される事態となったほか、雇用改善を追い風にコアインフレ率も加速の度合いを強めてきた。こうしたことから、中銀(豪州準備銀行)は物価安定を目的に昨年5月に約11年ぶりとなる利上げに動くとともに、その後は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げの実施を余儀なくされる対応が続いてきた。ただし、その後もインフレ率は中銀の定めるインフレ目標(2~3%)を上回る推移が続いており、物価高と金利高が共存することによりコロナ禍からの景気回復をけん引する家計消費など内需に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。中銀は先月の定例会合において9会合連続の利上げを決定するも、景気に配慮して利上げ幅を抑える一方、先行きについて賃金と物価の連鎖的な上昇を警戒して追加利上げに含みを持たせるなどタカ派姿勢を強調している(注1)。なお、足下のインフレ率は頭打ちする兆しがうかがえるものの、依然としてインフレ目標を大きく上回る状況は変わっておらず、金融市場においては昨年末以降における中国によるゼロコロナ終了を理由に商品市況が底打ちする動きがみられるなど先行きもインフレの高止まりに繋がる展開が予想される。他方、昨年来の利上げ局面が長期化していることを受けて、住宅価格は頭打ちの動きを強めるなど家計部門にとっては逆資産効果が消費の足かせとなり得るほか、銀行セクターを巡っても資産の3分の2を住宅ローンが占めるなかで貸出態度の悪化が幅広い経済活動の重石となることが懸念される。このように、コロナ禍からの景気回復をけん引するとともに、欧米など主要国を中心に世界経済を取り巻く不透明感が強まるなかで景気を下支えしてきた家計消費をはじめとする内需を巡る状況は急速に厳しさを増している。

昨年末にかけては、中国による突然のゼロコロナ終了に伴い中国経済が頭打ちの様相を強めるなど、外需を巡る不透明感が強まったことに加え、上述のように物価高と金利高の共存により内需に足かせが嵌められる状況となっている。こうした展開を反映して、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+1.93%と5四半期連続のプラス成長となるも前期(同+2.77%)から伸びは鈍化しているほか、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+2.7%と前期(同+5.8%)から鈍化するなど頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。なお、需要項目別では突然のゼロコロナ終了に伴う中国経済の混乱やそれを受けたアジア新興国景気の頭打ちなどの悪影響が懸念されたものの、米国経済の底堅さなどが輸出を下支えする展開が続いている。また、物価高と金利高の共存による下押しが懸念されるも、堅調な雇用環境を追い風に家計消費は底堅い動きを維持する一方、金利上昇や世界経済を巡る不透明感の高まりを反映して企業部門による設備投資需要は下振れしているほか、家計部門による住宅需要も弱含んでおり、固定資本投資は減少の動きを強めている。なお、固定資産投資の減少の動きは輸入の重石となっていることを反映して、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで+4.42ptと成長率を大きく上回るなど、足下の景気実態は見た目以上に厳しい状況にあると捉えられる。その一方、在庫投資の成長率寄与度は前期比年率ベースで▲1.98ptと在庫調整が進む動きも確認されるなど、好悪双方の材料が混在する状況にある。また、分野別の生産動向を巡っても、鉱業部門の生産は引き続き底入れの動きを強める展開が続いているほか、国境再開による外国人観光客数の底入れを受けた観光関連や運輸関連をはじめとするサービス業の生産にも底堅い動きがみられる。その一方、先行きの外需に対する不透明感の高まりや企業部門による設備投資需要の低迷などを反映して製造業の生産は弱含む動きが続いているほか、建設需要も低迷している上、電力部門をはじめとする公益関連の生産も大きく下振れするなど、幅広い経済活動が弱含んでいることを示唆する動きもみられる。


なお、昨年通年の経済成長率は+3.6%と前年(+5.2%)から伸びは鈍化するも引き続き堅調な推移が続いたことが確認されている。昨年の経済成長率についてはゲタが+1.9ptと大幅なプラスであったものの、今年についてはゲタのプラス幅は+0.9ptに縮小しているほか、物価高と金利高の共存が家計消費をはじめとする内需の足かせとなる懸念が高まっているにも拘らず、上述のように中銀は物価抑制を目的に一段の金融引き締めに含みを持たせる姿勢をみせるなど、先行きの内需を取り巻く状況は一層厳しさを増す可能性が高まっている。中国によるゼロコロナの終了を受けて年明け以降における中国景気は底入れの動きを強める様子がうかがえることから、豪州経済にとっては財輸出の約3割を中国(含、香港・マカオ)向けが占めるとともに、コロナ禍前の2019年時点では外国人短期来訪者の約2割を中国(含、香港・マカオ)からの来訪者が占めていたことを勘案すれば、先行きは中国景気の底入れの動きが外需面でプラスに寄与することが期待される。他方、中国景気の底入れ期待を受けて、昨年末以降に世界経済の減速懸念を反映して頭打ちの動きを強めた商品市況は底打ちしており、先行きは一段と底入れの動きを強めることになれば、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレ再燃に繋がる可能性がある。そうなれば輸出同様に輸入が押し上げられることで対外収支の悪化を招く可能性があり、国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)による一段の利上げ、且つ高金利状態の長期化が意識される形で米ドル高が再燃するなか、中銀によるタカ派姿勢の堅持にも拘らず豪ドル相場は頭打ちするなど輸入インフレに繋がることも懸念される。その意味では、豪州経済に好悪双方の材料が混在するなかで中銀の舵取りはこれまで以上に複雑、且つ困難になることも予想されるなど、厳しい政策運営を迫られる展開が続くであろう。

注1 2月7日付レポート「豪中銀、賃金と物価の連鎖的上昇を警戒して一段の利上げに言及」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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