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2023.02.22
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中国の経済活動再開による世界経済への影響
~波及経路と恩恵を受ける国~
田中 理
- 要旨
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- 中国の経済活動再開は、中国向け輸出の拡大と中国人観光客の増加を通じて、世界の成長率を押し上げる一方で、資源価格の上昇により世界景気を下押しする。全体でみれば、成長上振れの影響が上回る。中国の成長加速に加えて、景気の押し上げが見込まれるのは、周辺のアジアやオセアニア諸国、中国依存度が高い中南米やアフリカの一部の国々。これとは別に、ガス価格の上昇一服で欧州が景気後退を回避する可能性が高まっており、2023年の世界景気は当初想定を上回る成長を実現する公算が大きい。こうした世界経済の成長上振れは、物価の高止まりと相俟って、主要先進国中銀の利上げ長期化を招く恐れがある。
徹底した検査と厳しい行動制限で新型コロナウイルスの感染拡大の封じ込めを目指した中国の「ゼロコロナ」政策は、昨年12月に突如として方針を転換。感染者や濃厚接触者の厳格な隔離措置、周辺地域全体の都市封鎖(ロックダウン)、陰性証明の提示義務、国内の移動制限などが相次いで緩和され、年明け直後に入国時の隔離義務撤廃やビザの発給再開により、事実上終了した。方針転換直後の感染再爆発で昨年12月の中国の購買担当者指数(PMI)は大幅に落ち込んだものの、その後は経済活動再開が好感され、春節休暇中の往来再開も好感され、1月は好不況の分岐点である50を4ヶ月振りに上回った(図表1)。こうした中国の予想を上回るペースでの経済活動再開(リオープニング)、欧州のエネルギー危機回避や天然ガス価格の上昇一服などにより、世界経済を取り巻く環境は過去数ヶ月で大きく好転している。

中国の景気回復の恩恵を受けるのはどういった国々だろうか。中国の経済再開は主に3つの経路を通じて他国に波及することが考えられる。第1に中国向けの輸出拡大の影響だ。国際通貨基金(IMF)の貿易統計(Direction of Trade Statistics:DOT)によれば、2021年の財の輸出総額に占める中国向けの割合が多い国は、モンゴル(82.3%)、トルクメニスタン(69.1%)、アンゴラ(60.4%)、ソロモン諸島(56.8%)、コンゴ(45.5%)、コンゴ民主(41.8%)、モーリタリア(41.1%)、チリ(38.9%)、オーストラリア(37.7%)、イラン(34.3%)、シエラレオネ(33.5%)、パナマ(32.4%)、ペルー(32.0%)、ラオス(31.8%)、ニュージーランド(31.7%)、ブラジル(31.4%)、ガボン(31.3%)、イラク(30.9%)、ミャンマー(29.5%)、カメルーン(28.2%)、ウルグアイ(27.2%)、ガンビア(26.7%)、韓国(25.3%)、北朝鮮(24.4%)、赤道ギニア(24.1%)、インドネシア(23.2%)、ガーナ(22.2%)、日本(21.6%)、ブルネイ・ダルサラーム(20.1%)など、主にアフリカ、アジア、オセアニア、中南米諸国が上位に並ぶ(図表2)。

成長率への直接的な影響度を測る中国向け輸出の対国内総生産(GDP)比率では、モンゴル(49.9%)、アンゴラ(27.2%)、コンゴ民主(20.7%)、シンガポール(17.1%)、ブルネイ・ダルサラーム(15.9%)、ベトナム(15.3%)、モーリタリア(13.7%)、マレーシア(12.4%)、ソロモン諸島(12.3%)、ラオス(13.6%)、イラク(12.1%)、チリ(11.5%)、リビヤ(10.5%)、トルクメニスタン(10.4%)、ザンビア(9.7%)、赤道ギニア(9.2%)、韓国(9.0%)、コンゴ(8.6%)、ペルー(8.0%)、ガボン(8.0%)、オーストラリア(7.9%)、カタール(7.5%)、タイ(7.2%)、アラブ首長国連邦(6.3%)、サウジアラビア(6.2%)など概ね同じ国々が並ぶが、産油国や新興経済工業地域(NIEs)諸国がこれに加わる。欧州ではスイス(4.1%)、ドイツ(2.9%)、アイルランド(2.6%)、スロバキア(2.3%)がやや高いが、残りは2%に満たない。G7諸国では日本(3.3%)が最も高く、米国(0.7%)や英国(0.7%)は1%に満たない。アジア諸国の対中輸出の半分程度は第三国向けの加工貿易に用いられ、この部分については中国の需要回復の直接的な影響が及ばない。
中国の経済再開による第二の波及経路は、中国人観光客の流入再開による影響だ。国連世界ツーリズム機関(UNWTA)の統計によれば、コロナ危機以前の2019年に中国からの海外渡航者数は年間の延べ数で1億5千万人以上に上り、世界で最も多かった(図表3)。これが2020年には約2000万人に激減した。中国人による海外での財貨・サービスの支払い総額は、コロナ危機以前に米ドル換算で2500億ドル超に上ったが、2021年はこれが約1000億ドルに減少した。年明け後、中国ではパスポートやビザの発給が再開され、今後は徐々に海外渡航の再開も予想される。中国人観光客の増加は、渡航先の国にとってサービス輸出の増加に相当し、成長率の押し上げ要因となる。

相手国別のサービス収支の細かい内訳を把握するのは困難だが、世界貿易機関(WTO)と経済協力開発機構(OECD)がIMFの国際収支統計などに基づいて作成したパイロット統計(Balanced Trade in Services Datasets: BaTiS)によれば、コロナ危機以前の2019年に、旅行サービス輸出総額に占める中国向けの割合が多かった国は、モンゴル(25.7%)、オーストラリア(17.9%)、ラオス(17.0%)、ソロモン諸島(16.2%)、カザフスタン(13.2%)、ザンビア(12.0%)、ニュージーランド(11.9%)、ミャンマー(11.6%)、ウズベキスタン(10.5%)、ガンビア(10.4%)、コモロ(9.4%)、台湾(9.0%)、スーダン(8.2%)、ベトナム(8.0%)、キルギス(7.9%)、タイ(7.5%)、アフガニスタン(7.5%)、エリトリア(7.4%)、アルメニア(7.1%)、日本(6.8%)、ニューカレドニア(6.7%)、韓国(6.3%)、インドネシア(6.1%)など、こちらもアジア、オセアニア、アフリカ諸国が多い(図表4)。

中国向け旅行サービス輸出の対GDP比率の上位国は、アルバ(2.7%)、モンゴル(2.5%)、アンティグア・バーブーダ(2.5%)、ジョージア(1.4%)、ドミニカ(1.4%)、ソロモン諸島(1.3%)、アルメニア(1.3%)、ガンビア(1.3%)、バヌアツ(1.2%)、カンボジア(1.2%)、バルバドス(1.2%)、バーレーン(1.2%)、バハマ(1.2%)、タイ(1.1%)、モンテネグロ(1.1%)、ニュージーランド(1.0%)、ラオス(1.0%)、キルギス(1.0%)、フィジー(1.0%)、オーストラリア(0.9%)、セントルシア(0.9%)、エリトリア(0.9%)、シンガポール(0.8%)、台湾(0.8%)、サモア(0.8%)、モルディブ(0.8%)、レバノン(0.8%)、コモロ(0.8%)、ベトナム(0.7%)、ジャマイカ(0.7%)など、カリブ海諸国などが加わる。中国向けの財輸出に比べて、旅行サービス輸出の金額そのものは全般に小さいが、コロナ危機下でほぼ全面的に止まっていた中国からの海外渡航再開によるペントアップ需要は無視できない。
中国の経済再開による第三の波及経路は、資源価格の押し上げだ。中国の原油需要はコロナ危機以前の水準を大きく下回っている。経済活動再開で原油需要が回復すれば、需給が引き締まり、原油価格に上昇圧力が及ぶことになる。また、中国はコロナ危機以前に世界最大の液化天然ガス(LNG)の輸入国だった。脱ロシアを進める欧州諸国が、米国や北アフリカ諸国などからLNGを大量に買い付けている。そこに経済活動を再開する中国が参戦することで、LNG需給が一段と引き締まり、LNG価格を押し上げよう。原油やガス価格の上昇は、産油・産ガス国にとっては、海外からの純所得受け取りの増加につながり、成長率の押し上げ要因となる。一方で多くの非産油・非産ガス国にとっては、海外への純所得移転の増加要因となり、成長率を押し下げる。但し、ロシアのウクライナ侵攻後に高騰した原油・ガス価格は、過度な供給不安の後退や主要先進国によるロシア産原油やガスの価格上限措置の導入などを受け、上昇が一服している(図表5)。中国の需要増加による資源価格の押し上げは、限界的には世界経済の押し下げ要因となるが、このところの価格下落の影響を打ち消すほどのものではない。

こうしてみると、中国の経済活動再開は、中国の成長率を押し上げるとともに、中国向け輸出の増加や中国人観光客の増加を通じて、主に周辺のアジアやオセアニア諸国、中国依存度の高い中南米やアフリカ諸国の成長率を押し上げよう。中国や世界の需要回復に伴う資源価格の上昇は、資源国の成長率を押し上げる一方で、非資源国の成長率を押し下げる。本来は資源国と非資源国間の所得移転はゼロサムとなる筈だが、資源国やエネルギー関連企業の超過利得の全てが需要創出に向かう訳ではないことから、全体としては世界の成長率を押し下げる。ただ、これまでの資源価格の上昇一服の影響が出るほか、輸出や観光を通じた中国需要の回復による好影響が資源価格上昇の悪影響を上回ることから、世界経済の回復を後押ししよう。こうした世界経済の成長上振れは、主要先進国中銀の利上げ長期化につながる恐れがある。既に多くの国でインフレ率はピークアウト傾向にあるが、コア物価の高止まりが続いているほか、企業の価格転嫁や賃上げの動きも収まっていない。こうした状況下での中国の経済活動再開は、供給制約の解消を背景に物価の下押し圧力となる一方、財・労働需給の逼迫や資源価格の押し上げを通じてコア物価の押し上げ要因となる。景気の上振れで需要抑制が十分ではないと判断すれば、当初想定よりも長く利上げが続くことになる。
田中 理
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