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スコットランド首相辞任が持つ2つの意味

~独立問題と英政権交代の鍵を握る~

田中 理

要旨
  • 英国スコットランドのスタージョン第一首相は15日、首相とスコットランド議会最大勢力のスコットランド国民党(SNP)の党首を辞任することを表明した。スコットランドの英国からの独立を重要な政治目標としてきた同氏の辞任により、独立運動が勢いを失う可能性がある。後継首相・党首の選出と後継者が独立問題にどう対処するかに注目が集まる。カリスマ的な指導者であったスタージョン氏の辞任が、スコットランドの選挙区で圧倒的な強さを見せてきたSNPの支持にどう影響するかにも注目が集まる。SNP台頭以前にスコットランドで最大勢力だった労働党は、SNPからの議席奪還を目指している。実現すれば、次の英国の総選挙での労働党の勝利と保守党からの政権奪取を確実なものにするだろう。

英国のスコットランドでは、自治政府を率いるスタージョン第一首相が15日、スコットランド首相と議会最大勢力であるスコットランド国民党(SNP)の党首を辞任する意向を発表した。スタージョン氏は1999年にスコットランド議会に初当選。前任のサモンド首相・SNP党首の下、2004年にSNPの副党首、2007年に自治政府の副首相となった。2014年にスコットランドの英国からの独立の是非を求める住民投票が反対多数で否決され、サモンド氏が責任を取って首相と党首の座を退いた後、女性として初の首相と党首に就いた。同氏はスコットランドでのSNPの政治基盤を固め、2015・17・19年の英国総選挙のスコットランド選挙区や2016・21年のスコットランド議会選でSNPを勝利に導いてきた。8年間の通算在位はスコットランドに自治政府が設置されて以来で最長となる。後任の首相と党首が選出されるまでの間、首相と党首にとどまる。退任後も引き続き政界にとどまる意向を伝えている。同氏は辞任を決断した理由として、「適切な時期が来れば後任に譲ることを考えていた」と説明するが、英国からの独立の是非を問う住民投票の再実施の方針が英国政府によって阻止されたことに加えて、最近ではスコットランド議会が性別変更手続きを簡素化したものの、英国政府がその法制化を阻止したことなどを巡って、批判に晒されていた。

スタージョン氏の辞任は今後の英国政局にとって2つのインプリケーションを持つ。1つはスコットランドの独立を重要な政治目標としてきた同氏の辞任により、独立運動が下火となるかどうか。スコットランドでは2016年の英国のEU離脱の是非を問う国民投票で、EU残留支持が多数を占めた。同氏は英国のEU離脱でスコットランドを取り巻く環境が変わったとし、独立の是非を問う住民投票の再実施を英国政府に求めてきた。英国の最高裁判所は昨年11月、スコットランド議会に一定の自治を認める法律は、スコットランドとイングランドとの連合関係について定めたものではなく、英国議会の同意なしにスコットランド議会が英国からの独立の是非を問う住民投票を実施することができないとする判決を下した。同氏は投票再実施に向けて、次の総選挙を独立の是非を問う事実上の住民投票と位置づけ、そこで圧倒的多数の支持を取り付け、英国政府に正式な投票実施を要求していく方針だった。現在、後任候補として名前が挙がっているのは、自治政府のフォーブス財務相、スウィーニー副首相、ロバートソン憲法・外交・文化相、ユーサフ健康・社会保障相、英国議会でSNPの議員代表を務めるフリン氏など。これらの後継候補が独立投票にどれだけの意欲を持っているのかは定かでない。

スタージョン氏の辞任が持つもう1つの政治的な意味合いは、2025年1月の議会任期満了を待たずに2024年中の実施が有力視される英国の次回総選挙で、最大野党・労働党が勝利する確率を高める可能性があることだ。スコットランドの有権者はイングランドと比べて社会民主主義的な志向が強く、SNPもスコットランドの独立のみを訴えるのではなく、社会福祉の拡充や労働者の権利保護などを重視する中道左派政党だ。保守党サッチャー政権下での炭鉱閉鎖などの政策に反発。英国の支配政党とスコットランドの有権者の選択が食い違うことに強い不満を抱いてきた。スコットランド議会が設置され、SNPが政治基盤を固める以前は、スコットランド選挙区の議席の多くは労働党が持っていた。カリスマ的なリーダーであるスタージョン氏の党首辞任により、労働党はスコットランドでの党勢回復を目指している。スキャンダルが相次いだジョンソン政権の末期や、政策迷走で早期退陣を余儀なくされたトラス前首相の下、保守党の支持率は史上最低圏に落ち込み、スナク首相の就任後も労働党に20%ポイント余りのリードを許している。スコットランド選挙区をSNPから奪還すれば、労働党の勝利はより確実なものとなる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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