インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

豪州、物価高と金利高の共存は着実に景気の足かせとなりつつある

~国内外双方で景気の不透明要因が増すなか、豪ドル相場は米ドルの行方が左右する展開が続こう~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。世界的なインフレの動きは豪州でも生活必需品を中心とするインフレを招くなか、不動産バブル懸念も重なり中銀は断続的な利上げ実施を余儀なくされている。ただし、国内外で景気に対する不透明要因が山積するなか、中銀は利上げペースを後退させており、物価抑制を目的に金融引き締めに動く一方で景気に配慮せざるを得ない難しい状況に直面している。
  • 豪州経済には国内外に不透明要因が山積しているが、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+2.61%とペースこそ鈍化するも4四半期連続のプラス成長となるなど、底入れの動きが続いている。国境再開や世界経済の底入れの動きは外需を押し上げており、物価高と金利高の共存にも拘らず雇用改善の動きは家計消費を下支えしている。一方、不動産需要の頭打ちや企業部門の設備投資意欲は後退するなど、金利上昇の影響は着実に顕在化している。物価上昇の動きが広範に及んでいるほか、賃金上昇圧力が強まっている様子も確認されており、物価高と金利高の共存状態が長期化する可能性が高まっていると判断出来る。
  • 中銀は一段の利上げに含みを持たせているほか、インフレの長期化が見込まれることを勘案すれば、内需を取り巻く環境に不透明感が増すことは避けられない。世界経済がスタグフレーションに陥る懸念も重なり、先行きは内外需双方で景気への下押し圧力が強まると見込まれる。こうしたなか、当面の豪ドル相場については米FRBの政策運営とそれを受けた米ドル相場の動向に左右される展開が続くと予想される。

足下の世界経済を巡っては、中国による厳格な行動制限を伴う『動態ゼロコロナ』戦略への拘泥が中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足かせとなる動きがみられるほか、ウクライナ情勢の悪化による供給不安を理由とする商品高は世界的なインフレを招くなど、コロナ禍からの景気回復の動きに冷や水を浴びせている。さらに、世界的なインフレを受けた米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜の動きは、物価高と金利高の共存を招いている上、世界的なマネーフローに影響を与えることで国際金融市場に動揺を与えており、そのことが世界経済の足かせとなる動きもみられる。このように世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。また、世界的なインフレの動きは豪州においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いている上、コロナ禍からの景気回復の動きも追い風に不動産市況が急騰してバブル的な状況が懸念されたため、中銀(豪州準備銀行)は5月に約11年半ぶりの利上げに舵を切るとともに、昨日(6日)の定例会合においても8会合連続の利上げ実施に動く事態に追い込まれている(注1)。なお、中銀による断続的な利上げ実施を受けて、バブル的に急上昇した不動産市況は頭打ちに転じているほか、足下では前年比でもマイナスに転じるなど調整の動きを強めている。豪州では、銀行セクターの資産の約3分の2を住宅ローンが占めるなど依存度が極めて高く不動産市況の動向が貸出態度に影響を与えやすいなか、このところの市況調整の動きは景気の足かせとなることが懸念される。さらに、足下の国際金融市場においては米ドル高の動きに一服感が出て調整が続いた豪ドルの対米ドル相場は底打ちしており、商品市況の上振れの動きに一服感が出ていることも重なり、インフレ率やコアインフレ率は伸びが鈍化する兆しがみられる。このようにインフレに頭打ちの兆しが出ている一方、国内外で景気に対する不透明要因が山積していることを受けて、中銀は6日の定例会合において8会合連続の利上げ実施を決定するも、利上げ幅は3会合連続で25bpと小幅利上げに留めるなどタカ派姿勢を後退させている。ただし、先行きの政策運営を巡っては、金利上昇に伴い不動産市況は調整の動きを強めるなど景気に対する不透明感が高まる動きがみられるものの、一段の利上げ実施に含みを持たせる姿勢をみせるなど、難しい対応を迫られる状況に直面している。

このように足下の豪州経済を巡っては、国内・外双方に不透明要因が山積する状況に直面していることを反映して、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+2.61%と4四半期連続のプラス成長で推移するなど底入れの動きが続いているものの、前期(同+3.54%)から拡大ペースは鈍化するなど頭打ちの兆しが強まる動きもみられる。なお、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は+5.9%と前期(同+3.4%)から伸びが加速しているものの、これは昨年の7-9月が感染再拡大を受けた行動制限の再強化の動きを反映して景気に急ブレーキが掛かった反動が出たことが影響している点に留意する必要がある(注2)。なお、年明け以降の同国では度々感染動向が悪化する事態に見舞われたものの、ワクチン接種の進展を受けて経済活動の正常化を図る『ウィズコロナ』戦略が採られていることに加え、国境再開により外国人観光客などの受け入れを拡大させるなどポスト・コロナに向けた取り組みを前進させている。こうした動きを反映して来訪者数は底入れのペースを強めてコロナ前をうかがう水準に回復しており、観光関連や教育関連をはじめとするサービス業の生産を下支えする展開が続いている。また、上述のように世界経済の減速懸念が強まっているにも拘らず、豪ドル安による価格競争力の向上を追い風に財輸出も底堅く推移しており、財及びサービスの両面で外需の堅調さが景気底入れの動きを後押ししている。また、物価高と金利高の共存により実質購買力に下押し圧力が掛かりやすい状況にも拘らず、雇用の改善が続いていることを反映して家計消費は堅調な推移をみせており、引き続き景気底入れの動きをけん引する展開が続いている。一方、金利上昇の動きを受けて不動産需要は頭打ちの様相をみせている上、国内外で景気の先行きに対する不透明感が高まるなかで企業部門による設備投資需要も大きく後退しており、固定資本投資に下押し圧力が掛かっている。また、物価上昇の動きが広範に及んでいることを反映してGDPデフレーターは2000年のGST(財・サービス税)導入以降で最も高い伸びとなっているほか、従業員報酬も2006年以来の大幅な伸びとなるなど賃金上昇圧力が強まっている様子が確認されている。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

ただし、先行きについては上述のように中銀が一段の金融引き締めに含みを持たせているほか、足下のインフレ率及びコアインフレ率はともに伸びが鈍化する兆しがみられるものの、依然として中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いており、目標域への収束に時間を要すると見込まれることを勘案すれば、物価高と金利高の共存が家計消費など内需に冷や水を浴びせることは避けられそうにない。さらに、世界経済がコロナ禍からの回復の動きを強めていることを追い風に上振れしてきた商品市況は足下で頭打ちの動きを強めており、こうした動きを反映して交易条件指数も昨年末を境に頭打ちするなど、国民所得の拡大を通じて内需を押し上げる動きが徐々に後退する兆しもみられる。このように内需を取り巻く状況は厳しさを増すことが予想されるなか、世界経済がスタグフレーションに陥る懸念が高まることは外需の足かせとなることは避けられず、先行きの景気は一段と頭打ちの様相を強める懸念が高まると予想される。こうした状況のなか、当面の豪ドル相場については米FRBによる政策運営の行方、それを踏まえた米ドル相場の動向に左右される展開が続くことは避けられないであろう。

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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