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- イタリア新政権の予算案
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イタリアの新政権が閣議決定した来年度予算案は、前政権時代の計画から赤字拡大を見込むが、EUの財政規律の達成に向けて、前年対比での赤字縮小を見込む。赤字拡大分の多くは、エネルギー高に対する生活支援策で、大規模減税や年金改革などの公約は部分実現にとどまる。欧州委員会から抜本的な計画見直しを求められることはなさそうだ。
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不安要素としては、経済成長の想定が甘すぎることや、エネルギー価格が再高騰した際に財政や景気が悪化する恐れがあることだ。また、今後、景気が悪化することもあり、来年以降は、公約実現に向けた政治的な圧力が高まりやすい。政権発足後に連立パートナーの支持率が低迷しており、連立内の不協和音やEUに懐疑的な主張が改めて表面化する恐れもある。
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イタリアで10月に誕生したメローニ首相が率いる右派3党による連立政権は22日、来年度予算案を閣議決定し、EUの政策執行機関である欧州委員会に提出した。欧州委員会は提出された予算案を精査し、そのまま承認するか、部分的な修正を求めるか、抜本的な見直しを求めるかを決定する。通常の予算策定サイクル(ヨーロッピアン・セメスター)では、10月15日までに各国政府が予算案を提出し、11月末までに欧州委員会が意見表明をする。今回はイタリアの新政権の発足と新たな予算案の提出が遅れたことで、12月入り後に意見表明がずれ込みそうだ。来年度の予算を執行するには、欧州委員会の意見を反映した予算案を12月末までに議会で可決する必要がある。
新たな予算案では、2023年の財政赤字の対GDP比率の計画が4.5%と、2022年の5.6%から低下するが、ドラギ前政権が9月に策定した3.4%の目標から1.1%ポイントの赤字拡大を見込む(図)。赤字拡大の多くは、生活必需品に対するVATの軽減、低所得者に対するエネルギー料金負担の軽減、中小企業に対する資金繰り支援など、エネルギー価格の上昇に対応した家計・企業支援に充てる。連立を組む右派政党が選挙公約で掲げたフラット税の導入拡大や年金の支給開始年齢引き下げなどの施策については、五つ星運動政権が導入した市民所得の廃止やエネルギー企業の超過利潤に対する課税強化で一部財源を捻出したうえで、規模を大幅に圧縮し、自営業者などに的を絞り、部分実現を目指す。
メローニ新政権の予算案は、ドラギ前政権時代に比べて財政赤字が拡大するが、財政赤字の対GDP比率を3%未満とするEUの財政規律の達成に向けて、前年対比での赤字削減を計画する。大幅な財政悪化につながる減税や歳出拡大を公約から圧縮したこともあり、欧州委員会から全面的な計画の見直しを求められることはなさそうだ。金融市場では、新政権の現実的な財政運営方針により、EUとの全面衝突が避けられるとの見方から、イタリアの国債利回りが大幅に低下し、ドイツとの利回りスプレッドが縮小している。
不安要素もある。予算案の前提となる成長率の見通しは2023年に+0.6%と、成長減速後もプラス成長を見込む。足許のイタリア経済は、物価高による家計購買力や企業収益の圧迫が重石となり、景気に急ブレーキが掛かっている。代表的な企業景況感であるイタリアの総合PMIは7月以降、好不況の分岐点を割り込んでいる。IMFが10月に発表した最新の世界経済見通しでは、2023年のイタリアの成長率を▲0.2%とマイナス成長転落を予想している。政府の予算案の経済想定は楽観的過ぎる可能性がある。エネルギーを取り巻く環境も不透明だ。代替調達先の確保を進めた結果、イタリアのロシア産天然ガスへの依存度は低下している。ただ、ロシアがウクライナ向けの天然ガス供給を絞っており、同国経由でのイタリア向けのガス供給も細る可能性がある。足許の天然ガス相場は、欧州各国のガス備蓄の積み増し、代替調達先の確保、節電の取り組みが奏功し、価格上昇が一服している。だが、今年の冬のガス需給は暖冬に助けられた面もあり、来年以降もガス不足への警戒が燻る。資源価格に再び上昇圧力が及んだ場合、家計・企業支援が膨らむとともに、景気悪化が長期化し、財政に悪化圧力が及ぶことになる。
ひとまず金融市場の動揺回避や国際社会からの信頼獲得を目指すメローニ政権だが、このまま景気の低迷が続けば、変化を求めて政権を託した有権者の失望を招く恐れがある。今年は年内の予算成立を優先した形だが、来年以降は公約実現に向けた政治的な圧力が高まりやすい。政権発足後、メローニ首相が率いる右派ポピュリスト政党・イタリアの同胞の支持率が一段と高まっている一方、連立に加わる右派ポピュリストの同盟や中道右派のフォルツァ・イタリアの支持が低迷している。党勢回復を目指した連立内の不協和音も高まりやすい。支持回復に向けて、拡張的な財政運営やEUに懐疑的な主張が改めて表面化する恐れがある。

田中 理
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