インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

メキシコ中銀は米FRBのタカ派傾斜にまだ付き合えるかもしれない

~物価高と金利高の共存も景気は堅調を維持、ペソ相場は引き続き米国経済の動向に左右される~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は景気減速が意識される一方、世界的なインフレを受けた米FRBなどのタカ派傾斜は世界的なマネーフローに影響を与えるなか、多くの新興国は資金流出に直面している。メキシコでは商品高に加え、景気回復の動きも追い風に足下のインフレは上振れしており、中銀は物価及び為替の安定を目的に米FRBに追随する形でタカ派傾斜を強めてきた。物価高と金利高の共存は景気に冷や水を浴びせることが懸念されるが、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+4.18%と4四半期連続のプラス成長で推移するなど景気の底入れが続いている。中銀の米FRBへの追随に加え、足下の景気の堅調さや移民送金の動きはペソ相場の堅調さに繋がるなど、資金流出に直面する他の新興国とは対照的な動きがみられる。中銀内では将来的な利上げ打ち止めの検討を求める動きがある一方、金融市場では今後も米FRBに追随可能との見方もあり、ペソ相場は米国経済及び米FRBの動向など外部環境に左右される展開が続くであろう。

足下の世界経済を巡っては、中国の『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足かせとなる動きがみられる上、商品市況の上振れによる世界的なインフレに加え、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜も重なり主要国景気も頭打ちするなど、全体的に景気減速が意識されつつある。また、米FRBなどのタカ派傾斜は国際金融市場において世界的なマネーフローに影響を与えており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出が強まる動きがみられる。なかでも、1990年代の米FRBの利上げ局面では、隣国のメキシコが通貨危機に追い込まれ、その後はブラジルなど中南米に加え、アジア、ロシアでの通貨危機や経済危機が連鎖する事態に発展した経緯がある。ただし、当時のメキシコなど通貨危機に陥った国々は通貨を米ドルにペッグ(固定)する固定相場制を採用し、投資資金の受け入れを目的に実勢より高水準で固定する『背伸び』状態にあったなか、資金流出に伴う通貨安に対して為替介入を通じた為替安定を図る必要があり、結果的に外貨準備が枯渇して通貨の切り下げを迫られたという背景がある。一方、その後のペソ相場は変動相場制に移行しており、制度的には米FRBのタカ派傾斜に伴う米ドル高がペソ安を促す局面にも拘らず為替介入を行う必要性はなくなっている。しかし、このところの商品高は同国でも食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いている上、コロナ禍の一巡による景気回復の動きもインフレ圧力に繋がっており、足下のインフレ率、コアインフレ率ともに20年強ぶりの水準に加速して中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いている。よって、中銀は昨年6月に物価抑制を目的に利上げに舵を切ったほか、その後は物価及び為替の安定を目的に断続的な利上げに動いており、9月の定例会合においても11会合連続の利上げを決定するとともに、利上げ幅は直前の米FRBの決定に歩を併せて75bpの大幅利上げを決定した(注1)。同国経済は輸出の8割を米国向けが占める上、GDPの約4%に及ぶ移民送金の大宗を米国からの流入が占めるなど米国経済への依存度が極めて高く、米国経済の堅調さは同国経済を下支えすることが期待される。一方、昨年6月以降の利上げ幅は累計で525bpに及ぶなど物価高と金利高の共存は景気に冷や水を浴びせる懸念がある上、左派のロペス=オブラドール政権の下では様々な面で『反ビジネス』色の強い政策運営が採られており、対内直接投資の先細りなどが足かせとなる形で他の新興国に比べてコロナ禍からの景気回復の足取りが遅れる展開が続いてきた。さらに、年明け以降の商品高は産油国である同国経済の追い風になることが期待されるものの、ここ数年は産油量が減少傾向を強めるなかで総輸出に占める原油の割合は1割を下回っており、対外収支や財政面での足かせとなる懸念もくすぶるなど経済のファンダメンタルズを巡る不透明さに繋がっている。こうした状況ながら、7-9月の実質GDP成長率(速報値)は+4.18%と4四半期連続のプラス成長で推移するなど底入れの動きを強めているほか、実質GDPの水準もコロナ禍の影響が及ぶ直前の2020年1-3月をようやく上回るなどマクロ面でその影響を克服していることも確認されている。農林漁業や鉱業など第1次産業の生産拡大の動きが景気をけん引しているほか、製造業やサービス業の生産も底堅く推移するなど、米国経済の堅調さが景気を押し上げる展開が続いている。結果、足下の金融市場においては米FRBのタカ派傾斜の後退を期待した米ドル高が一服する動きがみられることに加え、上述のように中銀は米FRBに歩調を併せる動きを維持しているほか、同国景気の堅調さも追い風に通貨ペソ相場は底堅い動きをみせるなど、多くの新興国が通貨安に直面するなかで対照的な状況にある。なお、足下のペソ相場が堅調な推移をみせている背景には、米国経済が堅調な推移をみせており、なかでも雇用環境の堅調さを追い風に移民送金の流入が引き続き旺盛な動きをみせていることが影響している。先行きについては、米FRBが物価抑制に向けて「何らかの痛み」を甘受する姿勢を貫いた場合、それに伴う米国経済の減速と雇用環境の悪化は移民送金の下押し圧力となることが懸念されるほか、米国経済への依存度の高さを勘案すれば同国経済も下振れが避けられず、結果的にペソ相場を取り巻く状況が一変する可能性はくすぶる。中銀内には先行きの政策運営を巡って将来的な利上げの打ち止めの検討の必要性を訴える動きもみられる一方、金融市場においては上述のように足下のインフレは依然高止まりしている上、景気の堅調さが確認されたことで米FRBの動きに追随する『余力』は充分との見方もある。当面のペソ相場は、引き続き米国経済の動向や米FRBの動きなど外部環境の影響を受ける展開が続くであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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