インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシア中銀、市場動揺への耐性に自信をみせるも、外貨準備に不安

~中銀は漸進的な引き締めを維持、米FRBのタカ派傾斜のなかで経済・市場の動きは政局も左右~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は商品高によるインフレが強まるなか、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜は世界的なマネーフローに影響を与えている。マレーシアでは力強い景気回復が確認される一方、外貨準備高は金融市場の動揺への耐性に充分とは言えず、インフレが顕在化するなかで通貨リンギ安が進むなど、一段のインフレ昂進に繋がるリスクに直面している。中銀は5月、7月と断続的に利上げを行い、8日の定例会合でも3会合連続の利上げ実施を決定した。中銀は先行きも漸進的な金融引き締めを維持する考えを示す一方、金融市場では米FRBのタカ派傾斜に伴う米ドル高がリンギ安を招く懸念はくすぶる。同国では政局を巡る動きが喧しさを増しているが、政局に影響を与える実体経済や金融市場の動向を注視する必要性は高まっている。

足下の世界経済を巡っては、昨年来のコロナ禍からの回復に加え、年明け以降はウクライナ情勢の悪化による供給不安も重なる形で幅広く商品市況が底入れしており、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレ圧力が強まっている。世界的にインフレが顕在化するなか、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めており、国際金融市場においてはマネーフローが変化しており、なかでも経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国で資金流出が強まっている。マレーシアは東南アジア有数の資源国であるなか、商品市況の上振れの動きは輸出額の押し上げや交易条件の改善が実体経済の追い風になると期待される一方、外貨準備高は慢性的にIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無として示す適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)は『適正水準』を下回るなど耐性は乏しいと判断出来る。さらに、鉱物資源や電子部品関連を中心に輸出額は拡大して財貿易収支は黒字幅が拡大する一方、コロナ禍を経た外国人観光客の回復の遅れはサービス収支の赤字幅拡大を招き、経常黒字幅は縮小するなど国内の資金余剰感は後退している。なお、足下の景気は外需の堅調さに加え、感染一服を受けた行動制限緩和によるペントアップ・ディマンドの発現が家計消費など内需を押し上げるなど、力強い回復が確認されている(注1)。しかし、同国は東南アジアでも経済の外需依存度が極めて高く、世界経済を巡る不透明感が強まるなど外需への悪影響が懸念される上、国内では生活必需品を中心とするインフレが強まり、中銀は5月及び7月と断続的な利上げ実施を余儀なくされるなど、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念もくすぶる。また、国際金融市場を取り巻く環境変化やそれに伴う米ドル高を受けて、このところの通貨リンギ相場は調整圧力が強まる展開が続くなど、輸入物価の押し上げが一段のインフレ昂進を招く懸念も高まっており、中銀は物価と為替を安定させる観点から金融引き締めを迫られているとみられる。ただし、足下では米FRBはQT(量的引き締め)加速や大幅利上げによる一段のタカ派傾斜を示唆したことで国際金融市場においては米ドル高圧力が強まっており(注2)、先行きは商品高も相俟ってインフレが一段と昂進する可能性も高まっている。こうしたなか、中銀は6日に開催した定例会合において政策金利を3会合連続で25bp引き上げて2.50%とする決定を行った。なお、会合後に公表した声明文では、世界経済について「コスト上昇や世界的な金融引き締め、中国のゼロ・コロナ戦略が足かせとなるも拡大が続いている」ものの、先行きは「多くの国々での金融引き締めや中国のコロナ禍対応に加え、コスト上昇圧力や欧州のエネルギー危機の懸念、金融市場環境の急激な収縮による下振れリスクに直面する」との認識を示した。一方、同国経済については「政策支援により堅調な拡大が続いている」としつつ、先行きは「世界経済の鈍化による外需の減速が予想されるが、仮に国際金融市場のボラティリティが高まっても国内金融市場は耐性が充分で景気を下支えする」とした上で、「景気の下振れリスクは世界経済の動向や地政学リスク、サプライチェーンの混乱に拠るものが大きい」との見通しを示した。また、物価動向については「7-9月にピークアウトが見込まれる」としつつ、先行きのインフレ見通しは「価格制限や補助金などの政策動向やウクライナ情勢に伴う商品市況に左右される」として引き続き外部環境の影響が大きいと見込まれる。その上で、今回の決定について「景気見通しの明るさを反映して一段の政策調整に動いた」とした上で「金利水準は依然緩和的で景気を下支えする」とし、先行きは「事前に決まった形ではなく景気及び物価の状況に応じて対応し、物価安定と持続可能な景気回復を担保すべく慎重かつ段階的に行う」とこれまで同様に前進的な金融引き締めを続ける考えをみせている。中銀は国際金融市場の環境変化への耐性に自信をみせているものの、上述のように外貨準備高は決して充分とは言えない状況にあり、仮に世界経済の減速と国際金融市場の動揺が重なれば、真っ先に新興国を取り巻く環境は厳しくなることは避けられない上、経済のファンダメンタルズが脆弱、かつ構造面で外需依存度が極めて高い同国は難しい状況に追い込まれると予想される。足下の同国では政局を巡る動きが喧しさを増す兆しがうかがえるものの(注3)、政局の動きに影響を与える実体経済や金融市場を取り巻く環境にも注意を払う必要性はこれまで以上に高まっている。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ