デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

ジョンソン首相の政治危機再燃

~重量級閣僚が辞任、党首不信任投票の前倒しも~

田中 理

要旨
  • 新たなスキャンダルに揺れる英国では5日、ジョンソン首相の政権運営を批判し、ジャビド保険相とスナク財務相が相次いで辞任した。6月に保守党の党首不信任投票を辛くも生き延びたばかりのジョンソン首相だが、党内の一部には向こう1年の不信任手続きを禁止する内規を変更し、新たな党首不信任投票の早期実施を求める声も浮上している。党首不信任手続きが前倒しされる場合、秋の党大会までにジョンソン首相が辞任する可能性が高まる。

  • こうした政局動向は、物価高騰の家計負担軽減を目指した政府の財政運営やBOEの利上げペースとも無関係ではない。後継の財務相が大型減税を行えば、BOEの利上げペースは加速を余儀なくされる。ジョンソン首相が辞任に追い込まれ、スナク前財務相が後継首相に就任すれば、財政拡張の度合いが限定的となり、BOEの利上げペースもより緩やかなものにとどまろう。

先月6日に保守党の党首不信任投票を辛くも生き延びた英国のジョンソン首相に、政権内の重量級閣僚が反旗を翻した。内務相や財務相経験者で、昨年7月に閣僚に返り咲いたジャビド保険相と、次期首相の最有力候補に名前が挙がるスナク財務相が5日、ジョンソン首相の政権運営を批判し、相次いで閣僚を辞任した。この他にも保守党の副党首を含む4名の議員が党の要職を辞任した。ジョンソン首相を巡っては、新型コロナウイルスの行動制限期間中に政府関係者が飲食・飲酒を伴うパーティーを開催し、ジョンソン首相自身も罰金を科された。先月末には性的不祥事を起こしたピンチャー院内幹事長代理が辞任に追い込まれ、過去にも同様の事件を起こしていた事実を知りつつ、同氏を首相官邸の要職に登用した首相の任命責任が問われていた。この事件を巡っては、過去のピンチャー氏の事件について首相が事前に説明を受けていたことを引退した元政府高官が明かし、その事実を知らなかったと説明してきた首相や政府の姿勢に批判が集まっていた。また、最近では物価高騰による家計負担の軽減措置を巡って、ジョンソン首相とスナク財務相の間の確執の噂も取り沙汰されていた。ジョンソン首相は後任の財務相にザハウィ教育相、保険相に首相官邸の首席補佐官でランカスター公領相を兼務するバークレー元EU離脱担当相を指名した。他の閣僚は今のところ首相を引き続き支持する姿勢を見せており、ジョンソン首相に自ら辞任する意向はない。

保守党の内規によれば、次の党首不信任手続きが可能となるのは先月の投票から1年後の来年6月以降となる。だが、政権内の新たなスキャンダル発覚や今回の重量級閣僚の辞任を受け、党の内規を変更し、党首不信任手続きの速やかな再実施を求める声も浮上している。党首不信任手続きを管轄する非閣僚議員で構成される「1922年委員会」のブレーディー委員長は、内規の変更が技術的に可能であることを認めている。1922年委員会は来週、委員会メンバーの選出を行う。一部の非閣僚議員が内規の変更を求めて委員会入りを目指しているとされる。党首不信任手続きは、保守党に所属する下院議員の15%以上が同委員会に投票実施を求める書簡を提出した場合に行われ、所属議員の過半数が不信任に投票した場合、党首を辞任する。保守党が議会の過半数を握っているため、議会の解散・総選挙は行われず、保守党内で新たな党首を選出し、後継首相に就任する。6月の不信任投票では、41%もの所属議員がジョンソン首相に不信任票を投じた。その後、先月末に行われた下院の2選挙区の補欠選挙で保守党は何れも議席を失い、各種の世論調査でも野党・労働党にリードを許している。高騰する物価と政権の相次ぐスキャンダルに国民の不満が高まっており、保守党内にはジョンソン首相の下で次の選挙は戦えないとの声も高まっている。内規変更で党首不信任が前倒しされる場合、秋の党大会までにジョンソン首相が辞任に追い込まれる可能性が高まる。

こうした政局動向が財政運営やBOEの利上げ継続に与える影響は今のところ不透明だ。辞任したスナク前財務相は、健全な財政運営を重視し、ジョンソン首相が求めていた大型減税に反対してきた。後任のザハウィ氏がジョンソン首相の意向を汲み取るのか、より限定的な家計支援に留めるのかは、今後明らかとなろう。政府が大規模な家計支援に傾く場合、政策ミックスの観点からは、BOEの利上げ幅拡大が見込まれる。他方、ジョンソン首相が退陣に追い込まれ、ブックメーカー調査で後継首相候補の一番手に挙がるスナク前財務相が後継首相に就任する場合、財政拡張の度合いが弱まり、BOEの利上げペースもより緩やかなものにとどまろう。

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ