デジタル国家ウクライナ
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過半数届かず、マクロンの憂鬱

~大統領続投も議会運営は前途多難~

田中 理

要旨
  • 19日に行われたフランス国民議会選挙の決選投票では、マクロン大統領を支持する中道の統一会派アンサンブルの獲得議席が過半数に届かなかった。反マクロンを掲げて選挙戦を戦った左派の統一会派NUPESとルペン氏が率いる極右政党・国民連合が大きく議席を伸ばした。アンサンブルは共和党の連立参加や閣外協力を求めるとみられるが、共和党は今のところ協力を否定している。共和党の協力を求めることで、マクロン大統領の二期目の政権運営は右傾化が予想される。共和党の協力が得られない場合、法案毎に異なる政党の支持を求める不安定な議会運営を余儀なくされる。物価高騰による生活苦が解消されたタイミングや大統領の支持が回復したタイミングで、議会の解散・総選挙に打って出る可能性もある。フランスの政治安定は崩れ、マクロン改革の推進力低下が避けられない。

19日に行われたフランス国民議会(下院)選挙の決選投票では、4月の大統領選挙で再選を果たしたマクロン大統領を支持する統一会派「アンサンブル」の獲得議席が初回投票での確定分を含めて245議席にとどまり、定数577の議会の過半数(289議席)の獲得に失敗した(表)。大統領選挙で善戦したメランション氏が率いる左派統一会派「新人民環境社会連合(NUPES)」が131議席と改選前から議席を倍以上に上積みしたほか、大統領選挙の決選投票でマクロン大統領と対峙したルペン氏が率いる極右政党「国民連合」が89議席を獲得し(改選前は7議席)、結党以来で最多の議席を獲得した。反マクロン票をNUPESや国民連合に奪われ、今回の選挙で埋没した伝統的な右派政党の「共和党」は、改選前(120議席)から大きく議席を落としたものの、事前の世論調査が示唆した上限に近い議席を獲得して踏みとどまった。

フランスではかつて大統領と国民議会の選挙周期が異なることで、大統領の出身政党と議会の多数派政党が食い違う「コアビタシオン」が何度か発生している。政治停滞を回避するため、大統領選挙の直後に国民議会選挙を行うように改めた後は、“ねじれ”が解消された。今回はコアビタシオンこそ発生しなかったが、何れの勢力も議会の過半数を確保できなかった(いわゆるハング・パーラメント)。反マクロンを掲げて選挙戦を戦ったNUPESや国民連合が大統領の議会運営に協力することは考えられない。各党の配分議席から考えて、大統領が議会の過半数を確保するためには、共和党に連立参加や閣外協力を求める以外にない。共和党は今のところ大統領の議会運営への協力を否定している。共和党が大統領への協力に応じない場合、法案毎に異なる政党に支持を求める不安定な議会運営を迫られる。現在の政治体制(第五共和制)が初まって以降、大統領の出身政党や支持会派が議会の過半数を確保できなかったのは、1988年のミッテラン大統領時代に1回ある。その際は議会運営がしばしば行き詰まり、改革が停滞した。かつて多くの大統領を輩出した伝統政党である共和党は、2017年の前回選挙後に党内中道派がマクロン大統領支持に回ったうえ、今回の選挙では国民連合の支持拡大に加えて、ゼムール氏が率いる新たな極右政党の台頭もあり、党の右傾化が進んでいる。マクロン大統領の二期目の政権運営は、共和党の協力とNUPESに対抗する必要があり、右傾化が進む可能性がある。

現在のフランスの議会制度は、短命政権が多かった前体制(第四共和政)への反省から、大統領が議会の過半数を確保しやすいように設計されている。国民議会選挙は二回投票制の小選挙区で行われ、初回投票で50%以上の票を獲得する候補がいない場合、登録有権者の12.5%以上の票を獲得した全ての候補が決選投票に進出する。大統領を支持しない有権者の間で票が割れ、大統領の出身政党や支持会派が議席を獲得しやすい。大統領は議会の解散権を持つ。物価高騰による生活苦が解消され、経済や雇用改善の恩恵が多くの国民に行き渡るタイミングや、大統領の支持回復や野党の党勢が低迷するタイミングで、5年の任期満了を待たずに議会を解散し、総選挙に打って出る可能性もある。

(表)フランス国民議会選挙の結果
(表)フランス国民議会選挙の結果

以上

田中 理

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