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2022.05.24
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IPEF(インド太平洋経済枠組み)は13ヶ国の参加で始動
~企業間取引や投資受け入れの期待が後押しか、今後は台湾の扱いにも注意が必要になろう~
西濵 徹
- 要旨
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- 米バイデン政権が主導するIPEF(インド太平洋経済枠組み)を巡っては、関税を交渉対象から外したことでアジア新興国の関心が高まらないことが懸念された。アジア新興国では中国経済が存在感を増す一方、ここ数年は米中摩擦の激化、コロナ禍を理由に中国に揺さぶられる事態に直面しており、米中の間でバランスを採りたいとの思惑も高まってきた。こうしたこともあり、23日の協議開始時点では13ヶ国が参加し、ASEANからも7ヶ国が参加した。インドが参加した背景には、中国への警戒感に加え、関税を交渉対象から外したことも影響した可能性がある。また、アジア新興国にとってはIPEFを通じたルール策定により日米企業との取引や投資受け入れ拡大を目指したいとの打算が働いた可能性もある。内実を整えるには参加国の協力深化が不可欠な上、供給網の強靭化の観点では今後は台湾の扱いについて正面から取り組む必要性は高い。
米バイデン大統領による就任後初めての来日に併せる形で正式な発足を表明したIPEF(インド太平洋経済枠組み)を巡っては、23日に参加国による協議が実施された。なお、これに先立つ形で今月13日に開催された米国とASEAN(東南アジア諸国連合)との特別首脳会議において、米バイデン大統領はIPEFを紹介したものの、その際にはASEAN諸国の間では芳しい反応は得られなかった模様である。その理由として、米国の国内事情が影響してIPEFでは関税の引き下げ及び撤廃など従来の経済連携協定で盛り込まれる条件は交渉の対象外とされており、仮にIPEFに加盟した場合においても米国市場へのアクセス改善に繋がらず、直接的な経済的利益に乏しいことが影響したと考えられる(注1)。さらに、近年の中国経済の高成長を追い風に、ASEANをはじめとするアジア新興国は中国経済との関係を深化させており、足下ではASEAN諸国の中国向け(含、香港及びマカオ)輸出額は米国向けと日本向けを併せた額を上回る事態となっている。ただし、ここ数年は米中摩擦が激化の度合いを強めるなかでアジア新興国は米中両国の間で揺さぶられる展開が続いてきたほか、一昨年来のコロナ禍に際しては中国に起因するリスク(チャイナ・リスク)が改めて意識されるなど難しい状況に直面している。こうしたなか、IPEFは、①デジタル含む貿易、②クリーンエネルギー・脱炭素・インフラ、③供給網の強靭化、④税制・反汚職の4分野を柱にルールを策定する枠組みとしている。米バイデン政権がIPEFの発足に動いた背景には、中国がアジア太平洋地域への影響力拡大の動きを想定以上の速さで加速化させる動きをみせるなか、トランプ前政権によるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱を受けて米国のアジア太平洋地域における存在感が低下している状況の打開を目指したものと考えられる。他方、アジア新興国のなかには中国の存在感が拡大する背後で、中国による経済的な影響力を背景とする傍若無人な対応への警戒感が高まる動きもみられ、米国による取り組みに参加することでバランスを採りたいとの思惑も見え隠れした。こうしたなか、23日に開催された協議には、米国や日本のほか、インド、豪州、ニュージーランド、韓国、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシアの13ヶ国が参加しており、ASEAN内からも7ヶ国が参加した。IPEFにインドが参加した背景には、今回の協議がインドも参加するQuad(日米豪印戦略対話)に併せて開催されたことが影響している可能性があるとともに、インドも中国の脅威を警戒する向きを強めるなか、IPEFが関税引き下げや撤廃を交渉の対象外としたことで参加のハードルが低かったことも考えられる。事実、インドは関税引き下げによる中国からの輸入拡大への警戒を理由にRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)から離脱しており(注2)、隣国スリランカがデフォルト(債務不履行)状態に陥るなかで中国が一段と関与を強めるなど地政学リスクに晒されていることも参加を後押ししたと考えられる(注3)。さらに、貿易面では中国の存在感が高まっているものの、ASEAN諸国及びインドなどにとっては依然として対内直接投資の面では米国や日本などの存在感が高いことから、IPEFを通じたルール策定に参画することで日米などの企業との取引や投資の受け入れが活発化するとの『打算』も参加を後押しした可能性が考えられる。アジア太平洋地域においては、ルールを含む貿易の自由化を目指すCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)やRCEP、デジタル経済に関するルール作りを目指すDEPA(デジタル経済パートナーシップ協定)が乱立しており、これらには中国が参加ないし参加を目指す動きをみせるなど存在感を高めるなか、米国はIPEFを通じて中国への対抗と存在感の巻き戻しを目指したと言える。その意味では、IPEFが13ヶ国の参加を通じて協議を開始したことは米国にとって一定程度の『失地回復』に繋がったことは間違いない。ただし、IPEFは連邦議会の承認プロセスを要しない特殊な形で協議が進められるため、今秋に予定される中間選挙で米バイデン政権及び与党・民主党が厳しい状況に直面するなか、次期政権の行方如何では構想自体が大きく揺れ動く可能性は否めない。『一歩目』は成功裏にスタートしたと捉えられるものの、その内実をきちんとしたものとしていくためには、参加国間の協力関係を醸成する取り組みが欠かせない。さらに、今回は中国に配慮する形で台湾が参加メンバーから外されたものの、IPEFが目指す供給網の強靭化という観点では台湾は重要な存在であり、そうした問題にも正面から取り組む必要性はこれまで以上に高まるであろう。


注1 5月18日付レポート「米主導のIPEF(インド太平洋枠組み)はアジアを惹きつけられるか」
注2 2020年11月17日付レポート「RCEP、「インド抜き」ながら8年越しで合意に至る」
注3 4月7日付レポート「スリランカ、ウクライナ問題が駄目を押してデフォルト不可避の状況に」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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