イタリアの政治安定は守られた

~大統領が再登板、ドラギ首相が続投へ~

田中 理

要旨
  • 難航したイタリアの大統領選出投票は29日、8回目の投票でマッタレッラ大統領を再任する形で決着した。水面下でドラギ首相の大統領転身の可能性も検討されたが、早期の解散・総選挙を警戒する議員が反対。党派色の強い人物の大統領就任では右派・左派間の意見集約ができず、マッタレッラ大統領が続投を受け入れた。右派ポピュリストが政権を奪取する可能性がある早期の解散・総選挙のリスクは遠退き、ドラギ首相のリーダーシップの下で復興基金の追加拠出に必要な構造改革の継続も期待できる。金融市場にとっては最良のシナリオとなった。ただ、今回の投票ではドラギ政権を支える主要政党間の亀裂も表面化した。今後の政権運営での足並みの乱れが出ないかに注意したい。ドラギ首相は議会任期が満了する2023年6月まで留任する可能性が高まったが、次の総選挙後に右派ポピュリスト政権が誕生するか否かを占ううえで、選挙制度改革の行方に注目が集まる。

イタリア安定の鍵を握る大統領の選出投票は29日、8回目の投票で現職のマッタレッラ大統領を選出した。コロナの感染予防のため、通常1日2回の投票を今回は1日1回としたが、2月3日の大統領任期が近づいたため、28日以降は1日2回に変更した。24日に始まった投票では、主要政党間の意見相違が続き、何れの候補も選出に必要な支持(3回目までは投票権を持つ上下両院議員と地域代表の3分の2以上、4回目以降は過半数)を獲得できなかった。当初、マッタレッラ大統領は続投を否定していたが、主要政党から幅広い支持を得る別の候補がいないことを理由に続投を受け入れることを表明し、759票の支持を集めて再選された(図表1)。これにより後継候補の1人であったドラギ首相の大統領への転身と議会の早期解散・総選挙のリスクが回避された。

投票権を持つ上下両院議員と地域代表は、「同盟」、「イタリアの同胞」、「フォルツァ・イタリア」などの右派政党、「五つ星運動」、「民主党」、「自由と平等」などの左派政党、それ以外の小政党や中道政党の間で候補者の一本化ができなかった。水面下でドラギ首相の大統領転身も検討されたが、大統領転身時の解散・総選挙で議員資格を失う可能性がある議員(次の総選挙では議員定数が約3分の2に削減される)が最後まで反対した。

過去の大統領選出投票では、欧州債務危機時の政局混乱を回避するため、2013年に二期目の続投を決めたナポリターノ大統領(当時)が、7年の任期を待たずに2年で退任したことがある。続投を決めたマッタレッラ大統領はいつまで留任するかを明言していないが、現在80歳と高齢のため、ドラギ首相の首相退任後などのタイミングで大統領の座を譲る可能性がある。8回目の投票では、ドラギ政権を支える主要政党がマッタレッラ大統領の再任に賛成した。ドラギ政権を支持しない右派ポピュリスト「イタリアの同胞」は大統領の再任にも反対し、今後の政権運営でも強硬な反対姿勢を続ける公算が大きい。大統領転身がなくなり、ドラギ首相は2023年6月の議会任期満了まで首相の座に留まる公算が高まった。右派ポピュリストが政権を奪取する可能性がある早期の解散・総選挙のリスクは遠退き、コロナ危機後の経済復興資金を提供する欧州復興基金の追加拠出を手にするために必要な構造改革の継続が期待できる。政治安定と構造改革の継続が担保され、考えられるシナリオの中では、金融市場にとって最もポジティブな形で終わった(図表2)。

最終的にマッタレッラ大統領の続投で結束したが、そこに至る過程ではドラギ政権を支える主要政党間の亀裂も表面化した。今後の政権運営での足並みの乱れが出ないかに注意したい。議会任期満了が近づくに連れ、総選挙を睨んだ党利党略を優先した動きが表面化することが予想される。また、次の総選挙後の政権の行方を占ううえでは、議員定数削減を反映した選挙制度改正の行方に注目が集まる。定数の3分の2を比例代表制、残り3分の1を小選挙区制で選出する現在の選挙制度は、右派会派に有利に働くとされてきた。新たな選挙制度が右派ポピュリスト政権が誕生するリスクを軽減するかを見守りたい。

(図表1)イタリア大統領選出投票の結果
(図表1)イタリア大統領選出投票の結果

(図表2)イタリア政局シナリオのフローチャート
(図表2)イタリア政局シナリオのフローチャート

以上

田中 理

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