イタリア安定の鍵を握る大統領選出投票が迫

~注目されるドラギ首相の去就と解散・総選挙の有無~

田中 理

要旨
  • イタリアでは24日からの大統領選出手続きを控え、各党が候補者の調整に追われている。有力候補のドラギ首相が大統領に選出されても、後継首相候補が上下両院で信任されれば、議会の解散・総選挙は回避できる。その場合も、構造改革の推進力低下と政権基盤の弱体化が懸念される。

イタリアでは2月3日にマッタレッラ大統領が7年の任期を迎え、1月24日に後継大統領の選出手続きが開始される。投票は無記名で行われ、630名の下院議員、315名の上院議員と終身議員(現在は6名)、58名の地域代表の約1000名が投票権を持つ。投票は週末も含めて1日1回行われ、3回目までの投票では有効投票の3分の2以上の支持を得た候補が、4回目以降の投票では過半数の支持を得た候補が選出される。最近の世論調査では、ドラギ首相を後継大統領に推す声が圧倒的に多い(図表1)。ドラギ首相は今のところ自身の進退について明言を避けているが、昨年12月に大統領就任に含みを持たせる発言をした。投票日が迫る18日にはマッタレッラ大統領、大統領選出投票を取りまとめるフィコ下院議長と相次いで面会し、出馬に向けた動きとの見方もある。

投票権を持つ議員の間には、ドラギ首相退任時の議会解散を警戒する声もある。イタリアでは2019年の法改正と2020年の国民投票で、次の総選挙から議員定数を約3分の2に削減することが決まっている。また、2018年の選挙で初当選した議員が議員年金を受給する権利を獲得するのは今年秋。失職の恐れがある議員の間では、早期の総選挙を回避したいとの思惑が働く。特に議会最大勢力の反エスタブリッシュメント政党の「五つ星運動」は、2018年に政権を率いた後に連立パートナーで右派ポピュリストの「同盟」や、ドラギ政権不支持に回った別の右派ポピュリスト政党「イタリアの同胞」、最近ではレッタ元首相を幹事長(党首)に据えて党勢が回復気味の中道左派政党でかつての政権与党の「民主党」に支持を奪われている(図表2)。五つ星運動は国民から人気の高い非政治家で法学者出身のコンテ前首相を党首に迎えた後も引き続き党勢低迷に苦しんでおり、早期の解散・総選挙につながるドラギ首相の大統領就任に反対している。

現地メディアではドラギ首相以外にも複数の大統領候補の名前が挙がるが、今のところ選出に必要な会派を超えた広範な支持が得られそうな候補は見当たらない。中道右派政党「フォルツァ・イタリア」を率いるベルルスコーニ元首相が出馬を表明し、同盟やイタリアの同胞も支持を表明したが、民主党や五つ星運動が党派色が強すぎるとして難色を示している。選出の望みが遠退くなか、ベルルスコーニ氏が初回投票を前に出馬を取り止めるとの観測も浮上している。19日に会談した民主党、五つ星運動、民主党から分離した「自由と平等」の左派陣営も、候補者の一本化が出来ずにいる。初回投票が近づくなか、各党の代表者が党派を横断して面会を重ねている。

左派陣営がドラギ首相支持で固まる場合、同氏の首相退陣時に議会の解散・総選挙が行われないことを条件とする可能性がある。他方、出馬を取り止める可能性が取り沙汰されているベルルスコーニ元首相は、後継大統領候補の選出で「キングメーカー」的な役割を演じることを画策しているとの見方もある。無記名投票という性質と政治的な思惑から、過去の大統領選挙の投票では想定外の人物が選出されることが多くみられた。第二次大戦後に共和制に移行して以来、12回の大統領選出投票のうち、初回投票で決まったのは僅か2回、投票が10回以上に及んだことも4回、20回以上に及んだことも2回ある(図表3)。選出手続きの開始後に新たな候補が浮上することや、初回投票でほとんど支持を集めていなかった候補が最終的に大統領に選出されたことも少なくない。

24日に投票が始まり、投票を繰り返しても過半数の支持が得られる人物がいない場合、改めてドラギ首相を大統領に推す声が高まる可能性がある。その場合もドラギ首相の後継首相が上下両院で信任されれば、議会の解散・総選挙を行う必要はない(図表4)。議会の解散権を持つ大統領にドラギ氏が就任する場合、コロナ禍克服と経済復興に向けた重要局面での政局不安定化とポピュリスト政権誕生につながる総選挙を回避しようと考える可能性が高い。ドラギ氏の大統領就任と首相退任が決まれば、イタリアの政治安定が崩れるとの不安から金融市場に動揺が広がろうが、解散・総選挙が回避されることが確認されるとともに、市場の動揺は比較的早期に収まるとみられる。

問題はドラギ氏に代わる後継首相候補が議会の信任が得られずに政権が発足できない場合や、後継首相が就任した後もドラギ首相ほどの幅広い支持が得られずに政治安定に綻びがみられる場合だろう。前者の場合、解散・総選挙が避けられず、イタリアに再びポピュリスト政権が誕生する可能性が高まる。後者の場合、改革の推進力が低下するとともに、近い将来に政権運営が行き詰まり、任期前の議会解散につながる不安が拭えない。注目のイタリア大統領の選出投票は24日に迫っている。

以上

田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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