底のみえないトルコ・リラ相場に「光」は存在するか

~リラ安によるインフレを警戒したデモも発生、経済の「ドル化」進展で底に「穴」が開くリスクも~

西濵 徹

要旨
  • 足下の国際金融市場ではトルコの通貨リラ相場の「底」がみえない状況が続く。インフレ加速や経済のファンダメンタルズの悪化に加え、米FRBの「タカ派」傾斜という環境のなか、中銀が利下げ実施に動くなど「定石」で考えられない政策運営もリラ安に拍車を掛ける。エルドアン大統領も金融緩和を擁護するなど火に油を注いでいる。大都市ではリラ安によるインフレを警戒してデモが繰り広げられるなど、政権の求心力低下が一段と露わになる動きもみられる。国民の間では経済の「ドル化」を志向する動きもみられるなか、リラ安の進展はそうした動きを一段と加速させる可能性もあり、リラ相場はいよいよ底を見出せない状況に陥るリスクもある。

足下の国際金融市場においては、トルコの通貨リラ相場が『底』のみえない状況に陥りつつある。ここ数年のトルコは、インフレ率が中銀の定める目標を大きく上回る水準で推移してきたほか、足下では国際原油価格の上昇も追い風にインフレ率は加速感を強めるなど目標から乖離する動きをみせている。また、原油高は貿易収支の悪化を通じて経常収支の悪化を招くとともに、外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が想定する国際金融市場の動揺に対する耐性が極めて乏しい水準であるなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが意識されやすい状況にある。さらに、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)が『タカ派』姿勢に傾くとの見方を反映して米ドル高圧力が強まり、結果的にファンダメンタルズが脆弱なトルコの通貨リラに売り圧力が掛かりやすい環境にある。こうしたなか、トルコにおいては中銀が『金利の敵』を自認するエルドアン大統領の『圧力』に屈する形で利下げ実施に傾いている上、今月18日の定例会合においても3会合連続の利下げを行うなど『定石』では考えられない金融政策に動いており(注1)、その後のリラ安圧力に拍車をかける一因になっている。なお、トルコでは2018年のリラ相場の暴落をきっかけとする国際金融市場の動揺(いわゆる『トルコ・ショック』)を機に、事実上の資本規制が敷かれるなど取引のハードルそのものが大きく上昇するなど流動性が極端に低下しており、材料によって相場は大きく上下に振れやすくなっていることに留意する必要がある。他方、こうした状況を除いても、インフレが昂進しているにも拘らずトルコ中銀が利下げ実施に動くという定石では考えられない政策運営を実施していることが、結果的に通貨リラの信認を損なっていることは想像に難くない。こうした状況にも拘らず、エルドアン大統領は引き続き記者会見において「インフレになると投資できない」、「競争力のある為替は投資や雇用を活発化させる」と述べるとともに、「インフレと闘う手段はひとつだけでなく、我々は異なる手段を用いる」、「為替や金利を巡るゲームを静観するとともに『経済独立戦争』で成功する」として国際金融市場でのリラ安圧力を公然と批判する動きをみせている。その上で、「金利は原因でインフレは結果」、「金融引き締めを行ってもインフレは落ち着かない」という『トンデモ理論』を引き続き開陳するなどエルドアン大統領の『変わらなさ』を改めて露呈したと考えられる。これまで国際金融市場においてはエルドアン大統領が口を開けばそのことをきっかけにリラ安圧力が強まる動きがしばしばみられたが(注2)、足下においてはそうした動きに一段と拍車が掛かっているとみられる。こうしたなか、リラ安の進展によりインフレが一段と進展することを警戒して、最大都市イスタンブールや首都アンカラなどで市民がデモを繰り広げる動きがみられる。一昨年の統一地方選では大都市部を中心に野党が躍進するなどエルドアン政権の求心力が低下する動きがみられたが(注3)、足下におけるリラ安の進展や経済の混乱はそうした動きに一段と拍車を掛けている可能性がある。上述のように当局は資本規制を事実上強化する動きをみせているものの、足下では企業部門や家計部門による外貨預金や金預金を通じた事実上の資金逃避が強まる動きも確認されている。このところのリラ安の進展はこうした経済の『ドル化』の動きを一段と加速化させる可能性もあり、国民から見放される動きが強まればリラ相場はいよいよ『底』を見出せない事態に陥るリスクを孕んでいる。

図表
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以上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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