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ポルトガルの安定に綻び

~予算不成立で来年初に前倒し総選挙へ~

田中 理

要旨
  • 来年度予算案が否決されたポルトガルでは、近く議会を解散し、来年早々にも前倒しで総選挙が行われる可能性が高まった。かつての欧州債務危機に見舞われた同国は近年、安定した財政運営が評価されてきた。今回の政局流動化で直ちにポルトガルの財政を取り巻く環境悪化につながる訳ではない。だが、総選挙後の安定政権の樹立が困難な場合や政治空白が長期化する場合、ポルトガル関連資産に対する評価を見直す必要が出てこよう。

ポルトガル議会が27日に2022年予算案を賛成108、反対117、棄権5で否決したことを受け、2023年10月の議会任期満了を待たず、来年早々にも議会の解散・総選挙が行われる可能性が高まった。2015年の総選挙後に誕生し、2019年に再選されたコスタ首相が率いる中道左派の社会党(PS)政権は、議会の過半数を確保していないが、強硬左派の左派ブロック(BE)、ポルトガル共産党(PCP)、環境政党・緑の党(PEV)が閣外協力し、これまで想定以上に安定した政権運営を続けてきた(図表1)。だが、コロナ危機後の家計支援と財政健全化の両立を目指した来年度の予算審議では、より一層の所得分配の強化や財政拡張を求める両党が政権支持を取り止め、予算案の成立が暗礁に乗り上げた。両党は9月の地方選で惨敗し、党勢回復に向けて低所得者層の取り込みを強化している。議会の解散権を持つデ・ソウザ大統領は、予算が成立しない場合、議会を解散し、総選挙を行う以外にないと発言している。同国では通常、議会の解散から2ヶ月後に総選挙を行うため、来年の1月か2月に総選挙が行われる可能性が高い。その間、コスタ首相が暫定政権を率いるが、来年度予算の成立は総選挙後の新政権に委ねられる。

強硬左派や共産党が閣外協力するコスタ政権は、誕生当初はまだ欧州債務危機の爪痕が残り、財政拡張に舵を切ると不安視されたが、その後も健全な財政運営を続け、コロナ危機が起きる以前の2019年には初めて財政黒字に転換していた。欧州債務危機の克服、危機克服に向けて取り組んだ構造改革の成果、政治安定、堅実な財政運営が評価され、同国の国債利回りは低下基調を辿り、最近ではイタリアやスペインを下回っている。また、ポルトガルはコロナ危機後の復興資金をEU加盟国に提供する欧州復興基金からGDP比で10%近い資金を受け取る予定で、他の南欧諸国や中東欧諸国とともに最大の受領国の1つだ。既に8月に全体の13%に相当する初回資金を受け取っているが、追加の資金拠出は復興計画に盛り込まれた目標達成が条件となる。今回の政変で予算成立と復興基金の追加拠出が遅れることになろう。その場合も直ちにポルトガルの財政を取り巻く環境悪化が不安視される訳ではない。ただ、最近の世論調査では近く総選挙が行われる場合も、政権を率いる社会党やかつての政権与党で中道右派の社会民主党(PSD)が、単独で議会の過半数を獲得することは難しい(図表2)。総選挙後の安定政権の樹立が困難な場合や政治空白が長期化する場合、ポルトガル関連資産に対する評価を見直す必要が出てこよう。

図表
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以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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