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2021.09.14
アジア経済
新型コロナ(経済)
シンガポール経済
ワクチン接種の「優等生」ことシンガポール、再び厳しい状況に直面
~接種率は8割弱と大きく進むなかでの感染再拡大、感染対策の難しさが改めて示唆される~
西濵 徹
- 要旨
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- シンガポールは新型コロナウイルスのパンデミックの余波を受けて深刻な景気減速に見舞われたが、昨年後半以降は感染抑制による経済活動の再開や世界経済の回復を追い風に景気は底入れした。ただし、年明け以降は周辺国での変異株による感染再拡大に加え、同国でも感染が拡大して景気に急ブレーキが掛かった。その後は強力な感染対策により感染動向が改善しており、ワクチン接種も進むなかで政府は成長率見通しを上方修正するなど楽観的な見方をみせたが、先月以降は再び感染が急拡大している。政府は行動制限の緩和延期に追い込まれており、先行きの景気回復の道筋に再び不透明感が高まることは避けられない。
シンガポールはアジアのみならず世界でも有数の都市国家であり、世界経済の動向や国際金融市場を取り巻く環境の影響を受けやすい特徴があるなか、昨年は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)による世界経済の減速及び国際金融市場の動揺の余波を受ける形で入手可能な統計上で最大のマイナス成長となるなど深刻な景気減速に見舞われた(注1)。他方、昨年後半以降は欧米や中国など主要国を中心に世界経済の回復が進んだことに加え、全世界的な金融緩和を背景に国際金融市場は『カネ余り』の様相を強めるとともに、世界経済の回復も追い風に活況を呈する展開をみせてきたこともあり、シンガポール経済にとって追い風が吹く展開が続いた。さらに、昨年は同国においても外国人労働者を中心にクラスター(感染者集団)が発生したことを受けて、政府は島国且つ都市国家という地の利を駆使して厳格な国境管理や都市封鎖(ロックダウン)の実施に加え、感染者を対象とする厳格な隔離プログラムの実施などを通じて感染封じ込めを図った。こうした素早い対応も奏功して、一時は感染爆発が懸念される事態に見舞われたものの、昨年後半以降は新規陽性者数が大きく鈍化するとともに、政府は段階的に行動制限の緩和に動いたほか、感染抑制が進んだ国及び地域を対象に出入国制限を緩和するなど幅広い経済活動の正常化を図ってきた。しかし、年明け以降はインドで感染力の強い変異株による感染爆発に見舞われたほか、変異株はASEAN(東南アジア諸国連合)に広がりをみせたことを受けて(注2)、結果的に同国にも流入するなど難しい対応を迫られた(注3)。なお、インドやASEANで変異株が猛威を振るった背景には、ワクチン接種が欧米や中国など主要国と比較して遅れていたことが影響したとみられる一方、シンガポールについては人口規模の小ささに加え、政府による積極的なワクチン確保も追い風に周辺国に比べて接種率は大きく進展してきた。こうした状況にも拘らず感染拡大の動きが広がったことは対策の難しさを改めて示す一方、政府は行動制限の再強化を余儀なくされるなど幅広い経済活動に悪影響が出るとともに、ASEANなど周辺国における感染拡大の影響が外需の重石となる形で、今年4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲7.16%と4四半期ぶりのマイナス成長となるなど景気に急ブレーキが掛かった。その後は強力な行動制限の再強化などを受けて新規陽性者数は再び鈍化するなど感染動向の改善に繋がる動きがみられ、国境封鎖の解除が期待されたことに加え、世界経済の回復の動きも追い風に政府は先月に今年通年の経済成長率見通しを上方修正するなど(+4~6%→+6~7%)、先行きの景気に対して強気の見方を示していた。しかし、先月後半以降は新規陽性者数が再び拡大の動きを強めるなど『第4波』の動きが顕在化している上、変異株による『第3波』以降は医療インフラへの圧力が強まっていることを受けて死亡者数も拡大するなど感染動向が悪化する兆候が出ている。なお、今月12日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は76.50%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)は79.33%と人口の8割弱がワクチン接種を終えているにも拘らず、感染動向に悪化の兆候が出ていることを受けて、政府は今月上旬に予定していた行動制限の一段の緩和を延期して国境再開も棚上げするなど景気回復の道筋は不透明になっている。政府はワクチン接種率の高さや感染者の重篤化が避けられるなかで医療インフラへの悪影響は限定的としつつ、行動制限の再強化に動く必要性はないとする一方、感染対策の強化に向けてワクチン接種率のさらなる引き上げ、ブースター接種の実施、検査の拡充を図る考えを示しており、気の抜けない状況にあることは間違いない。今後は底入れの兆しが出ていた人の移動に再び下押し圧力が掛かる可能性も予想され、先行きの景気は政府の想定に比べて力強さを欠く展開となることも考えられる。


注1 2月18日付レポート「シンガポール、2020年の成長率は▲5.4%と19年ぶりのマイナス成長」
注2 6月15日付レポート「感染拡大の中心地となりつつあるASEAN情勢を考察する」
注3 5月25日付レポート「シンガポール、「優等生」でも気が抜けない新型コロナ対策の難しさ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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阿原 健一郎

