ニュージーランド、感染封じ込めを背景に景気の堅調さを確認

~NZ中銀の正常化前倒し期待の一方、米FRBも利上げ前倒しでNZドル相場はこう着を予想~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は、主要国で景気回復が進む一方、新興国で感染が再拡大するなど景気に冷や水を浴びせる懸念はあるが、主要国の景気回復は世界経済を押し上げている。ニュージーランドはワクチン接種に手間取るも感染封じ込めを追い風に経済活動の正常化が進んでおり、中銀は将来的な金融政策の正常化を示唆する動きをみせる。年明け以降は企業マインドの改善など景気回復を示唆する動きも影響している。
  • 昨年末にかけての同国景気は躓いたが、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+6.76%と2四半期ぶりのプラス成長となるなど底入れの動きを強めている。幅広く内需の拡大が確認される一方、在庫投資による景気押し上げの懸念はあるものの、足下の企業マインドは製造業、サービス業ともに景気拡大を示唆する動きが続いており、先行きについても景気の底入れを促す展開が続くと期待される。
  • このところの国際金融市場は活況を呈するなかでより高い収益を求めるマネーの動きが活発化しており、NZドル相場は上値の重い展開が続いた。足下の経済の堅調さは将来的な中銀による利上げ観測に繋がる一方、米FRBも利上げの前倒しや量的緩和縮小が見込まれるなど、NZドル相場はこう着状態が続くであろう。

足下の世界経済を巡っては、欧米や中国など主要国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染収束やワクチン接種を背景に経済活動の正常化が進むなど景気回復を促す動きがみられる一方、新興国において感染力の強い変異株により感染が再拡大して行動制限が再強化されるなど景気に冷や水を浴びせる懸念がくすぶっており、好悪双方の材料が混在している。ただし、主要国の景気回復の動きは世界貿易の底入れに繋がるとともに、多くの国で外需をけん引役にした景気回復を促すなど世界経済を押し上げており、経済構造面で輸出依存度が相対的に高い新興国経済にとっては財輸出の押し上げが景気を下支えする動きをみせている。こうしたなか、ニュージーランドでは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて比較的早期に感染封じ込めを目的に海外からの入国制限に動くとともに、全土を対象とする外出制限に動くなど強力な対策が採られ、同国での感染確認は海外からの来訪者が中心となるなど市中感染は抑えられてきた。今年2月には最大都市オークランドで市中感染が確認されたことで行動制限が再強化されたものの、迅速かつ強力な対策が奏功して過去3ヶ月以上に亘って1日当たりの新規陽性者数は10人以下で推移している上、死亡者数はゼロで推移するなど封じ込めが図られている。他方、上述のように主要国ではワクチン接種の広がりが経済活動の正常化を促す動きに繋がっているが、ニュージーランド政府はワクチン確保で後手を踏む対応が続き、2月末にワクチン接種が開始されるとともに着実に前進する動きがみられるものの、今月15日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は6.73%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)は11.76%に留まるなど世界平均(それぞれ9.45%、20.92%)を共に大きく下回っている。しかし、ワクチン接種の遅れにも拘らず上述のように感染封じ込めが進んでいる上、同国同様に感染封じ込めが進む隣国豪州との間で4月には出入国制限が緩和されて隔離なしで双方の往来が可能になるなど、経済活動の正常化に向けた動きは着実に前進している。なお、政府及び中銀は財政及び金融政策の総動員を通じて景気下支えの動きを強めるなか、国際金融市場は全世界的な金融緩和を背景に『カネ余り』の様相を一段と強めるなかで世界経済の回復を追い風に活況を呈しており、より高い収益を求める動きが活発化するなかで同国への資金流入の動きが拡大する流れもみられる。さらに、新型コロナ禍を経た生活様式の変化を反映した住宅需要の高まりに加え、低金利環境の長期化も追い風に不動産価格は上昇傾向を強めており、中銀は4月以降に規制の厳格化に動いたほか 1、先月の定例会合では追加利下げを封じた上で来年後半以降の利上げ実施の可能性を示唆するなど 2、将来的な政策運営の『正常化』を見据えた動きがうかがえる。こうした背景には、昨年末にかけての同国経済は景気回復の流れが躓くなど『踊り場』を迎える動きがみられたものの 3、年明け以降については世界経済の回復も追い風に幅広く企業マインドが大きく上振れするなど景気回復を示唆する動きがみられたことも影響したと考えられる。

図1
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図2
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企業マインドの上振れの動きに呼応するように、雇用・所得環境も改善するなど企業、家計部門双方で景気改善が促される動きが確認されるなか、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+6.76%と前期(同▲3.90%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+2.4%と前期(同▲0.8%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるなど底入れが進んでいる様子がうかがえる。さらに、実質GDPの水準も新型コロナウイルスのパンデミックの影響が及ぶ直前の一昨年末と比較して+0.8%程度上回るなど、同国経済は新型コロナ禍の影響を完全に克服したと捉えることが出来る。なお、内訳をみると世界経済の回復の動きは外需の押し上げに繋がると期待されるなかで財輸出は底堅い動きをみせる一方、世界的に人の移動が制限される状況が長期化するなかでサービス輸出に下押し圧力が掛かる展開が続いており、輸出は前期比ベースで2四半期連続のマイナスとなるなど外需を巡る状況は厳しい展開が続いている。ただし、経済活動の正常化が進んだことに加え、足下のインフレ率は引き続き低水準で推移するなど、雇用回復が進むなかで家計部門の実質購買力が押し上げられていることも重なり家計消費は拡大傾向を強めたほか、公共投資の進捗を反映して政府消費も拡大傾向が続くなど景気を押し上げている。さらに、住宅投資が活発化していることに加え、低金利環境の長期化や国内外の景気回復を追い風に企業部門の設備投資意欲も底入れしており、固定資本投資も拡大傾向を強めるなど、幅広く内需が押し上げられる動きが確認されている。また、分野別の生産の動きも家計消費の堅調さを反映して幅広くサービス業で生産拡大の動きがみられたほか、建設需要の旺盛さは建設業の生産を押し上げている上、財輸出の堅調さは製造業や農林漁業関連の生産を下支えするなど幅広い分野で生産拡大の動きがみられた。なお、足下の成長率の動きをみると、前期比年率ベースで在庫投資は3四半期連続のプラスとなるなど在庫の積み上がりが景気の底入れを促している可能性があるほか、当期についてはその寄与度は+7.7ptと成長率を上回る水準となっていることを勘案すれば、先行きについてはその調整の動きが景気の足かせとなる可能性はくすぶる。ただし、足下の企業マインドは製造業、サービス業ともに景気拡大を示唆する水準で推移していることを勘案すれば、在庫調整の動きにより景気の方向感に大きく下押し圧力が掛かる展開は避けられると見込まれる。

図3
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図4
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なお、足下の国際金融市場は全世界的な金融緩和を背景に『カネ余り』の様相を一段と強めるなか、世界経済は回復感を強める展開が続く一方で、米国では米FRB(連邦準備制度理事会)が緩和政策を長期に亘って維持するとの『市場との対話』を追い風により高い収益を求めるマネーの動きが活発化するなか、低金利環境が続く同国への資金流入の動きは後退して通貨NZドル相場は頭打ちする動きをみせてきた。先行きについては足下の同国経済の堅調さが確認されたことで、将来的なNZ中銀による金融政策の正常化の動きが意識される可能性がある一方、米FRBは利上げ実施の時期を前倒しするとともに、量的緩和政策の縮小を巡る討議を示唆するなど米ドル高圧力が強まる材料もみられるなか、当面はこう着した展開が続くと予想される。

図5
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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