資産運用業協会、資産運用会社、そして資産運用立国

安野 淳

要旨
  • 2026年4月1日、一般社団法人資産運用業協会(以下、資産運用業協会)が発足した。一般社団法人投資信託協会と一般社団法人日本投資顧問業協会の合併により、日本の資産運用業界が長年の分断を克服し、一体化への第一歩を踏み出した。この合併は形式的な再編ではなく、業界改革の起点としての役割が期待されている。
  • 日本の資産運用会社は「規模の論理」に偏重し、独自性や専門性が希薄化してきたのではないか。真の価値は、知的資本の蓄積と長期的な投資家利益の創出能力によって測られるべきである。現状は、日本市場が海外の資産運用会社にとって魅力度が増す一方で、国内の資産運用会社が主役となれていないという「ウィンブルドン化」が懸念されている。日本企業・投資家・経済構造への深い理解を基盤とした「日本ならではの運用力」を競争力の源泉とし、その克服を図る必要がある。
  • 運用資産残高や商品数の拡大だけでは、資産運用の高度化は実現しない。必要なのは、運用哲学の確立、リサーチ力の強化、エンゲージメントの深化、ガバナンス・透明性の向上、新興運用会社の育成など質的改革であろう。日本型の高度な資産運用会社を目指すための提言としては、(1)政府が掲げる17の戦略投資分野への挑戦を、長期的視点で支える存在となる「伴走型資産運用会社」への進化。(2)「アジア地域ファンド・パスポート(ARFP)」を見直し、アジアの戦略投資分野と日本企業を結ぶ投資戦略を構築し、地域金融ハブとしての地位の確立。(3)AI・量子・サイバー・GXなど高度専門領域を理解する人材育成と、データ活用・リスク管理の強化といった、人材・技術・ガバナンスの三位一体改革、の3点に整理される。
  • 「資産運用立国」とは、家計金融資産の成長、企業変革、経済活力の循環を生み出す国家的プロジェクトであり、資産運用業協会には業界の声を束ね、政策対話を深化させ、投資促進と投資家保護の両立を図ることが期待されている。今こそ日本の資産運用会社が主役となる時であり、協会発足はその幕開けである。なお、本日4月1は、資産運用業協会だけでなく、奇しくも「第一生命グループ」が「Daiichi Life Group」に生まれ変わる日でもある。当社グループもまた、資産運用立国の一翼を担って参りたい。
目次

1. はじめに

2026年4月1日、一般社団法人投資信託協会(以下、投資信託協会)と一般社団法人日本投資顧問業協会が合併し、一般社団法人資産運用業協会(以下、資産運用業協会)が発足した。日本の資産運用業界が長年抱えてきた歴史的・制度的な分断を乗り越え、ようやく一つの旗の下に結集した節目の日である。資産運用業協会には初代会長をはじめとして、幹部に日本の資産運用業界そして監督官庁を代表する方々が集った。このことは、資産運用業協会が単なる形式的な合併ではなく、実質的な改革の起点となるべきことを象徴している。本稿では、資産運用業協会の発足を機に、資産運用会社のあり方を再考し、日本が真に「資産運用立国」を実現するために必要な方向性の提言を試みてみたい。

2. 資産運用会社 ~ 大きいことはいいことか

日本の資産運用会社は、長らく「規模の論理」に縛られてきたのではないか。運用資産残高が大きいほど安定的な収益が得られ、信頼性も高まるという考え方は、確かに一定の合理性を持つ。しかし、規模の追求が過度になると、運用の機動性や専門性が損なわれるという副作用も生じうる。欧米の大手資産運用会社が巨大化する中で、劣後した日本の資産運用会社も金融グループ系列内等の合併を繰り返し、規模拡大を志向してきた面がある(注1)。運用哲学の独自性が薄れ、指数連動型商品に偏重する傾向が強まれば(注2)、資産運用会社としての存在意義が希薄化する懸念はないだろうか。規模は必要条件ではあっても、十分条件ではない。むしろ、資産運用会社の価値は「どれだけの知的資本を蓄積し、どれだけの投資家利益を長期的・安定的に実現できるか」によって測られるべきであるように思える。

3. ウィンブルドン化の克服 ~ 日本ならではの運用力

金融庁が過去5回にわたり公表してきた「資産運用業高度化プログレスレポート」では、日本の資産運用業が抱える課題として「ウィンブルドン化」の懸念が指摘されてきた。すなわち、日本市場が海外の資産運用会社にとって魅力的な舞台となる一方で、国内の資産運用会社が主役になりきれていないという構図である。確かに、海外の大手資産運用会社は高度な運用ノウハウとグローバルなネットワークを有し、日本の投資家にとっても重要な存在である。しかし、我が国が単なる「運用の受け皿」として機能するだけでは、国内の資産運用会社が成長する余地は限られるのではないか。日本の資産運用会社が真に競争力を持つためには、海外勢と同じ土俵で戦うだけでは不十分である。むしろ、日本の投資家、日本の企業、日本の経済構造を深く理解し、それを投資戦略に昇華させる「日本ならではの運用力」を磨くことこそが、ウィンブルドン化を克服する道であると考えられる。

4. 量より質 ~ 運用の本質に立ち返る

資産運用業協会の発足は、資産運用会社が「量から質へ」と舵を切る契機となることが期待される。運用資産残高の拡大や商品ラインナップの多様化は、投資家に選択肢を提供するという意味では重要だが、それだけでは資産運用業の高度化にはつながらない。求められるのは、以下のような質的向上である。

  • 運用哲学の明確化と一貫性のある実践

  • 高度なリサーチ力とデータ分析力の強化

  • 企業価値向上に資する投資先企業とのエンゲージメントの深化

  • 長期投資を支えるガバナンス体制の確立

  • 投資家との透明性の高いコミュニケーション

  • 新興資産運用会社の参入障壁を取り払うことによる新陳代謝の活発化

これらは単なるスローガンではなく、資産運用会社が持続的な競争力を維持するための必須要件といえる。質的向上が前提であるならば、量の追求が否定されないのはもちろん当然であろう。

5. 日本ならではの高度化された資産運用会社を目指す

それでは、日本の資産運用会社はどのような方向を目指すべきか。本稿では、次の三点を提言したい。

(1)日本企業の価値創造に寄り添う「伴走型資産運用会社」へ

日本企業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)、気候変動対応(GX)、人的資本経営など、多くの構造転換を迫られている。ここに、政府が掲げる17の戦略投資分野が重なる。量子、AI・半導体、バイオ、グリーントランスフォーメーション(GX)、宇宙、海洋、サイバー、デジタルインフラ、次世代エネルギー、食・農、医療・介護、防災・インフラなど、いずれも日本の産業構造を根底から変える可能性を秘めた領域である。資産運用会社は、これらの戦略投資分野に挑む企業の変革を後押しする「伴走者」としての役割を果たことが求められている。単なる資金供給者ではなく、企業の技術戦略、人的資本投資、国際展開、サプライチェーン強靭化などに対し、長期的視点から助言し、価値創造の軌道を共に描く存在であるべきだろう。エンゲージメントは、単なる対話の回数ではなく、戦略投資分野における企業の挑戦をどれだけ後押ししたかという観点から評価されるべきだ。例えば、GX・脱炭素に向けた移行計画の実効性、半導体・量子・AIなどの研究開発投資の質、医療・介護分野でのデジタル化の進展など、企業の未来価値を左右するテーマにまで踏み込んだ対話が求められる。

(2)アジアの成長を取り込む「地域ハブ」としての進化

「アジア地域ファンド・パスポート(ARFP)」(注3)は、アジア域内でのファンド販売を容易にする枠組みであり、各国の税制・規制の違いといった障壁はあるものの、日本の資産運用会社にとって大きな機会となり得るのではないか。アジア諸国は、まさに前述の17分野と重なる領域で急速な成長を遂げている。AI、半導体、バイオ、エネルギー転換、宇宙・海洋など、アジアの新興国は国家戦略として巨額の投資を進めており、これらの成長を取り込むことは日本の資産運用会社にとって不可欠である。日本がアジアの金融ハブとして存在感を高めるためには、今一度ARFPを見直し、活用することで、

  • アジアの戦略投資分野に投資するファンドの組成

  • 日本の技術・企業をアジア市場へ橋渡しする投資戦略

  • アジアの成長テーマを日本の投資家へ届ける情報発信

を強化すべきである。

日本の資産運用会社がアジアの成長ストーリーを読み解き、17分野を軸にした「アジア×日本」の投資テーマを創出できれば、単なる地域プレイヤーではなく、アジアの成長を牽引するハブとしての地位を確立できる。

(3)人材・技術・ガバナンスの三位一体改革

金融庁が指摘してきたとおり、資産運用業の高度化には人材育成とガバナンス強化が不可欠である。ここにも、17の戦略投資分野が示す方向性が重なる。量子、AI、サイバー、バイオ、GX、半導体など、いずれも高度な専門性を要する領域であり、資産運用会社がこれらの分野を理解し、投資判断に落とし込むには、従来とは異なる人材像が求められる。加えて、AI・データ分析・オルタナティブデータの活用など、テクノロジーの導入は待ったなしだ。特に、AIや量子計算は投資判断の高度化に直結し、サイバー分野は資産運用会社自身のリスク管理に不可欠である。また、GX・エネルギー転換分野では、企業の移行計画を評価するための専門知識が求められる。ガバナンス面でも、戦略投資分野に挑む企業のリスクとリターンを適切に評価し、長期的な価値創造を支える体制が必要だ。資産運用会社自身が、金融テクノロジーへの理解・データ利活用・リスク管理・専門人材育成を三位一体で進めることで、17分野を軸とした新たな投資機会を捉える力が生まれる。

政府が掲げる17の戦略投資分野は、日本の産業構造の未来を示す羅針盤である。資産運用会社は、この羅針盤を読み解き、企業の変革を後押しし、アジアの成長を取り込み、自らも高度化することで、真に「資産運用立国」の中核を担う存在となる。「人と技術の融合」によってこそ、日本の資産運用会社は世界と伍する競争力を獲得できるのではないか。

6. 資産運用立国への道 ~ 協会発足の意義

資産運用業協会の発足は、単なる業界団体の再編ではない。これは、日本が「貯蓄から資産形成へ」を本気で実現し、国民の長期的な豊かさを支えるための基盤を整える第一歩である。協会は、資産運用会社の声を集約し、政策当局との対話を深化させ、業界全体の質的向上を牽引する役割を担うことが期待される。同時に、投資家保護と市場の健全性を確保しつつ、資産運用会社が挑戦できる環境を整えることが求められる。「資産運用立国」とは、単に運用資産残高を増やすことではない。国民の資産が長期的に成長し、企業が資本市場を通じて変革を遂げ、経済全体が活力を取り戻す。その循環を生み出すことである。

7. 最後に ~ 今こそ、日本の資産運用会社が主役となる時

今日という日は、日本の資産運用業界にとって新たな局面の始まりと位置付けられる。規模の論理にとらわれず、ウィンブルドン化を克服し、量より質の向上を追求する。そして、日本ならではの高度化された資産運用会社を育てることこそが、資産運用立国の実現に向けた鍵となる。今後は、日本の資産運用会社が主役となるために、資産運用業協会の旗の下、業界が一体となって未来を切り拓くことを強く期待したい。

さて、本日4月1日は、資産運用業協会だけでなく、奇しくも「第一生命グループ」が「Daiichi Life Group」に、「第一生命経済研究所」は新たな使命を担い、「第一ライフ資産運用経済研究所」に生まれ変わる日でもある。アセットオーナーであり、アセットマネジャーである当社グループとして、そのシンクタンクである第一ライフ資産運用経済研究所として、我々も「資産運用立国」の一翼を担って参りたい。

以 上

【注釈】

  1. 金融庁が、国内の運用受託残高の上位20社を含む、日系大手13社、外資系大手8社、独立系5社の26社から提供されたデータに基づき分析を行った結果、26社の運用受託残高(2024/3末)の合計は686兆円で、国内全体の約70%を占めており、5年前(2019/3末)と比較して運用受託残高・営業利益ともに増加している(金融庁「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2025」)。

  2. 投資信託協会「投資信託概況」等で公表されている公募株式投資信託の純資産総額のアクティブ・パッシブ比率の推移等。

  3. APEC加盟国のうち参加を表明した国・地域が、投資者保護上の要件を満たしたファンド(投資信託等)について、相互に販売を容易にするため、規制の共通化をはかるための枠組み。覚書の発効に伴い、その実施・運営を行うための組織として2016年6月には、ARFP合同委員会が設置され、ルールの策定・更新、参加国間の運用・監督に関する協議、ファンド承認プロセスの調整、パイロット・プログラムの運営を行っている。

【参考文献】

  • 金融庁(2020年、2021年、2022年、2023年)「資産運用業高度化プログレスレポート」

  • 金融庁(2025年)「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート」

安野 淳


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。