1. はじめに
金融庁が2025年12月に公表した「地域金融力強化プラン」は、人口減少や産業空洞化が進む中で、地域金融機関が地域経済を支える中核機能であり続けるための総合政策パッケージである。プランには、合併・統合費用への資金交付、公的資金による資本参加、システム共同化支援など、財政支援策が数多く盛り込まれている。しかし、財政支援策頼みには限界があるのではないか。財政支援策は「あった方が良い」が、それ自体が地域金融の競争力や付加価値を持続的に高める訳ではない。収益基盤が構造的に弱いままでは、財政支援終了後に再び経営体力の低下が表面化することになりかねない。従って、本当に重要なのは、地域金融機関が地域に貢献しながら自立的に稼げる仕組みを備えることにある。本稿では、地域金融力強化のために追加すべき打ち手として、「一般事業持株会社化」と「信託兼営」を提言し、論じてみたい。
2. 銀行法の5%ルールと一般事業持株会社化の意義
銀行は、銀行法による議決権保有制限(5%ルール)により、本業以外の事業により健全性を損なうことがないよう、銀行又はその子会社は合算して、国内の一般事業会社の議決権の5%を超えて取得し、又は保有することを禁止されている。但し、5%ルールには例外もある。1998年銀行法改正により当該議決権保有制限を新設した際には、①銀行の証券子会社がその業務として所有する株式、②担保権の実行等の事由により取得した株式、③銀行等の投資専門子会社を通じて保有するベンチャービジネス(VB)会社の議決権、④有限責任組合員が投資事業有限責任組合の組合財産等として所有する株式等がそれにあたる。さらに、1999年には②に「合理的な経営改善計画に基づくデット・エクイティ・スワップ(DES)の場合」が追加された。2008年には、③に「投資専門子会社が事業再生を行う会社の議決権を保有する場合」が追加され、あわせて③のVB会社について、その要件の一つである「設立5年未満」から「設立10年未満」への拡大が図られた。また、2016年銀行法改正により、銀行業の高度化等に資する他業を営む会社(=銀行業高度化等会社)について、認可を取得することにより5%超の議決権の保有(出資)が可能とされた。さらには、2021年銀行法改正により「一定の高度化等業務」を行う銀行業高度化等会社(=一定の銀行業高度化等会社)について、認可基準が緩和されたほか、非上場の地域活性化事業会社に対する議決権100%の出資が可能とされた
しかしながら、これらの拡充策はあくまでも例外措置であって、一般事業会社の金融事業への参入要件に比べると、公平性を欠いた非対称なワンウエイ規制であるとの指摘が従来からなされてきた。そうした中、2026年3月に全国銀行協会が、銀行持株会社から製造業やサービス業と同じ「一般事業持株会社」への将来の移行を検討する必要があるとの内容を盛り込んだ報告書を公表し、注目を集めた(注1)。さらに、一部の地方銀行グループの中には、金融持株会社体制を一般事業持株会社体制に移行させ、銀行業務を中核に据えつつも、非金融・準金融分野を柔軟にグループ内に取り込むことを可能にする組織再編を志向する動きがある。近年、地銀・信金においても、M&A仲介、コンサルティング、人材紹介、デジタル・トランスフォーメーション(DX)支援会社などを傘下に置く動きが広がっているが、これは単なる多角化ではない。地域企業の課題は、資金不足だけでなく、人材不足、後継者問題、販路開拓、DXなど多面的であるからだ。一般事業持株会社体制を採れば、銀行本体では制約のある業務でも、グループとして提供可能となり、「金融+非金融」を一体で提供する地域総合プラットフォームが形成される。一般事業持株会社体制は、財政支援策に依存しないフィー収益の創出源となり、地域金融の自走力を高める点で決定的に重要である。金融庁も「地域金融力強化プラン」の中で、地域金融機関が内外のプレイヤーと連携し、非金融支援を強化する方向性を明確にはしているので、官民の動きは整合的であり、あとはスピード感の問題とも言えるのではないか。
3. 信託兼営の戦略的価値
もう一つの鍵が、信託業務の兼営である。りそな銀行は、歴史的経緯から日本の商業銀行として例外的にフルラインの信託機能を唯一認められており、相続・事業承継・不動産・M&A・企業年金といった分野で強い競争力を発揮してきた。そのノウハウをグループ内外へ展開し、系列地方銀行にも信託業務を広げている。信託兼営の本質は「長期的な資産・事業の管理・承継」に金融機関が深く関与できる点にある。担保付き融資では捉えきれない企業価値や、オーナーの意思を制度的に形にできるため、事業承継や自社株対策において極めて有効である。これは、地域企業の存続そのものを支える機能であり、結果として地域経済の基盤を安定させる。金融庁の地域金融力強化プランが掲げる「地域企業の価値向上」や「事業承継・M&A支援」を本気で実現するには、信託機能は不可欠であり、これを地域金融全体に広げる視点が求められているのではないか。
4. 財政支援策と構造改革の役割分担
ここで重要なのは、合併・統合費用への資金交付などの財政支援策を否定することではない。例えば、合併・統合期やシステム共同化初期において、財政支援策は移行コストを下支えする有効な手段である。ただし、それは時間を稼ぐための手段であって、最終目的ではない。財政支援策で一定の体力を確保した上で、一般事業持株会社化と信託兼営によって収益モデルを転換しなければ、「延命策」に終わる恐れがある。地域金融力強化プランを本当に意味あるものにするには、財政支援に加えて、制度改革・業態進化の必要があり、そのための有力な解が一般事業持株会社化と信託兼営である。
5. おわりに
地域金融力強化は、単に地域金融機関を守る政策では決してない。それは、地域が自立的に価値を生み出し続ける仕組みを金融面から支える力である。財政支援策はその入口にすぎず、出口には「一般事業持株会社化」と「信託兼営」という構造的な転換が不可欠である。銀行が「融資主体」から「地域の長期価値をデザインする存在」へ進化するとき、地域金融は初めて実体を持つことになる。地域金融力強化プランの成否は、この構造転換をどこまで本気で実行できるかにかかっていると言っても過言でない。地域金融力強化プランについて、今後幅広い議論が進むことが期待される。
【注釈】
- 一般事業から銀行業への参入がこれまで多くみられた背景には、非対称な規制の存在があった。仮に今後規制改革が進み、銀行側からも電子商取引などの一般事業に参入することができるようになれば、預金・決済・証券・保険といった金融事業にショッピングなどの非金融事業を加えた、フルセットのオンラインサービスを1つの銀行グループがスマホ上でワンストップで提供できるようになる。グループ内各社間で業種をまたいだ顧客情報の共有と利活用が(利用者の承認の下で)進めば強力な範囲の経済性が発揮され、銀行の競争力強化につながるだろう。銀行グループは利用者の財務状況だけでなく購買行動なども含めてトータルに理解することで、個別顧客に最適化されたサービスや投資助言を提案することができる。銀行はそのような規制緩和が進んだ先の時代を見越して、業務多角化への準備を進めるべきであろう。(全国銀行協会「「グローバルに通用する金融システムの整備に向けて」第2章 他業種との運用資金調達競争と金融機関 エグゼクティブサマリー)。
【参考文献】
-
金融庁(2025)「地域金融力強化プラン」
-
全国銀行協会(2026)「グローバルに通用する金融システムの整備に向けて」
安野 淳
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。