よりよい未来をつくる主権者になろう!(全3巻) よりよい未来をつくる主権者になろう!(全3巻)

この先、日本でも16歳選挙権を導入するのか

~人口減少社会に「若い世代の声」をより反映していくために~

西野 偉彦

要旨
  • 本稿では、2025年7月にイギリスが16歳選挙権の導入を表明したことを踏まえ、日本でも将来的に選挙権年齢をさらに引き下げる可能性を検討する。オーストリアなど国や地方で16歳選挙権を導入した諸外国では、若い世代の投票率も高く、選挙権年齢引き下げに伴う政治的リテラシーを育む教育が充実している。
  • 日本では急速な少子高齢化の進行に伴い、若者の人口割合が小さくなり、その声が政策に届きにくくなる懸念がある。そうしたなか、第一生命経済研究所による調査では、Z世代の政治への関心は高まりつつあり、社会の意思決定(ルール決め)に関わる意欲も高い。
  • また、若い世代だけでなく、高齢世代の多くも「社会の意思決定に若者が積極的に参加すること」を支持している。若い世代の意見をさらに反映する仕組みづくりは、将来の負担の偏りを是正し、社会の持続可能性にもつながる。
  • その前提として、日本では「18歳選挙権10年」の検証が必要である。高等学校を中心に主権者教育が広がったが、現実の政策を議論する授業などは十分とはいえない。10代の投票率は依然として全体より低く、まず18~19歳の政治参加を底上げする工夫が欠かせない。政治的中立性を守りつつ、社会の意思決定への参加を重視するような、より実践的な主権者教育の拡充が重要だ。
  • 将来的な日本での16歳選挙権の検討に向けては、三つの柱が鍵となる。第一に、学校内外で実践的な主権者教育を充実させること。第二に、民法と公職選挙法との整合性を図り、教育現場で混乱を生じさせないように法律と環境を整備すること。第三に、選挙権年齢引き下げに関する社会的な合意を形成すること。
  • こうした論点を克服することで、選挙権年齢の更なる引き下げにより、若者がより早い時期から政治参加できる環境が整うだろう。それによって、人口減少社会に伴う民主主義の基盤づくりが期待できるのではないか。
目次

1. はじめに

2025年7月、イギリス政府は選挙権年齢を18歳以上から16歳以上に引き下げる、いわゆる「16歳選挙権」の導入を正式に表明した。2029年までに行われる次期総選挙での導入に向けて、関連法案の成立を目指すとしている。主な目的は、16歳や17歳から社会人として労働・納税する若者が政治参加する権利を担保することである。既に、イギリスの地方部ではスコットランドやウェールズで16歳選挙権が実施されているが、イギリス全土としては現行の18歳選挙権が導入された1969年以来の選挙制度改革となる。16歳以上に選挙権が付与されるのは世界的にみても最年少水準であり、イギリス政府の導入表明はインパクトをもって受け止められる。

若者が政治に関心を持ち、社会の意思決定に関与することは、イギリスのみならず民主主義国の根幹を支えるうえで重要である。特に、昨今は若年層がSNSなどを通じて政治や選挙に関する情報にアクセスしやすくなり、政治への関心が高まっている。実際、若者の政治への関心が低いとされてきた日本においても、Z世代(18~27歳)の政治的関心は高まりつつあると考えられる。この傾向は、第一生命経済研究所が2025年3月に全国の男女18~69歳の1万人を対象に実施した調査でも明らかになっており、「政治に関心がある」について、Z世代の「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計は他の世代と比べてもほぼ変わらない(資料1)。

こうした状況を踏まえ、本稿では、2025年7月にイギリスが16歳選挙権の導入を表明したことを機に、日本でも16歳選挙権を将来的に導入する可能性について多角的に検討したい。

図表
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2. 人口減少社会における若者の政治参加

日本では、少子高齢化が急速に進行しており、若年層の人口比率は年々低下している。総務省によると、2020年時点で15歳未満人口は約1,500万人であり、全人口の11.9%である一方、65歳以上の高齢者は3,600万人を超え、全体の28.6%を占めている(注1)。さらに、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、2070年には日本の総人口は約8,700万人まで減少し、高齢化率は38.7%に達するとされている(注2)。

このような人口構造の変化は、政策決定において高齢者層の影響力が強まる可能性を意味し、若者の声が反映されにくくなる恐れがある。実際、年金や医療といった高齢者向けの政策が重視される一方で、教育や奨学金などの若者に関わる分野の政策は、検討の優先度が低かったことも指摘されている。現役世代の負担が増加し、社会保障制度の持続可能性にも疑問が呈されるなかで、若年層の政治参加はますます重要性を増している。

前述のように、現在の日本では若い世代の政治への関心は高まりつつあるが、それに関連して、若者が社会の意思決定に参画する機運も醸成されている。第一生命経済研究所における同調査によると、「社会やコミュニティのルール決めに若者が積極的に関わる方がよいと思う」について、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の割合の合計は、全体で58.7%と過半数に上った(資料2)。本調査で最も若いZ世代後期(18~22歳)では65.6%と、他世代に比べても最多だが、加えて注目すべきは、本調査で最も高齢にあたる新人類世代(60~69歳)でも63.6%に達している点だ。つまり、若者が社会の意思決定に関わり、その声を反映させることを、当事者である若い世代だけではなく高齢世代も肯定的に捉えているということである。

2022年にこども家庭庁が設立され、子どもや若者の声を社会に反映させる「こどもまんなか社会」が目指されているが、この調査結果はその機運を裏付ける傾向といえるだろう。こうした状況を踏まえて、日本における16歳以上への選挙権年齢引き下げは、若者の政治参加をさらに推進する施策として検討に値するのではないか。

図表
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3. 海外における16歳選挙権導入の示唆

国際的にみると、冒頭で紹介したイギリス以外でも、16歳選挙権の導入は徐々に広がりを見せている。オーストリアでは、2007年に国政選挙において16歳選挙権が導入された。同国では選挙権年齢を引き下げるにあたり、16歳の政治への関心やリテラシーの未熟さを指摘する声を受け、国による調査を行っている。この調査結果を踏まえ、選挙権年齢引き下げを実施した結果、2008年の選挙では16〜18歳の投票率が77%に達した(注3)。

ただ、オーストリアでは16歳選挙権の導入に伴って、全ての学校で14歳までに政治に関する教育を必修化することが条件とされた。実際、学校に各党から政治家を招き、生徒との対話集会や政策テーマに関する議論を積極的に実施するなど、政治的中立性を担保しつつ若者が政治を「自分事」として捉えるような教育が行われている。

また、ドイツでは一部の州で地方選挙における16歳選挙権が認められており、オーストリアと同様に、若い世代が社会参画するうえで必要な教育が実施されている。たとえば、新しい公園づくりに子どもが大人とともに関わったり、小学校の校庭に設置する遊具の検討に児童が携わることができる制度を設けている自治体がある。子どもたちは年齢が低い段階から、日々の生活に関係することがどのように決められていくのかを知る機会を得ると同時に、その意思決定プロセスに関わる経験を通じて、「自分の行動が社会を変える力になる」ことを実感できるのである。

このように、16歳選挙権を国もしくは地方で導入している国では、若者の政治への関心を高める教育や社会参画が整備されていることが特徴的である。その意味で、16歳選挙権の導入を表明したイギリスでは今後どのような取組みが実施されていくのかも注目される。

もちろん、16歳選挙権を地方レベルで導入しても、若者の政治的未熟さや極端な思想への傾倒を懸念する声などは根強く、それが一因となって国レベルでの導入が難航しているケースもある。日本でも将来的に16歳選挙権の導入を検討するうえでは、このような国々の事例や課題を参考にする必要があるだろう。

4. 「18歳選挙権10年」を迎えた日本の現状

日本では16歳選挙権を検討する前段階として、まず18歳選挙権の現状を整理する必要がある。2025年は、日本で18歳以上への選挙権年齢引き下げを盛り込んだ改正公職選挙法が成立して10年にあたる。18歳選挙権を導入する際に課題となったのが、若年層の政治的リテラシー(政治的判断力・批判力)や社会参画意識をどのように育成するのかということだった。そこで、高等学校などを中心に取り組むこととなったのが「主権者教育」である。

主権者教育とは、「国や社会の問題を自分のこととして捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく」ための教育である(注4)。その代表例として、各政党のマニフェスト(政権公約)を比較検討しながら投票について学ぶ「模擬投票」や、国会や地方議会で議論されている政策について考える「模擬議会」などが挙げられる。2022年度からは高等学校などに新科目「公共」が導入され、その中に主権者教育が位置付けられた。2023年に公表された文部科学省の調査によると、国公私立高等学校等のうち94.9%で主権者教育を実施している(注5)。

それでは、「18歳選挙権10年」の間、18・19歳の投票率はどのように推移してきたのだろうか。2015年6月から2025年7月までに、国政選挙は補欠選挙を除いて計7回実施されたが、10代の投票率はいずれも50%未満である(資料3)。

図表
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2022年7月の参議院議員選挙以降、国政選挙での10代の投票率は上昇傾向にあるものの、全体と比べると依然として10ポイント以上低い傾向が続いている。こうした状況を踏まえると、現状の日本ではまず18・19歳の投票率を向上させることが必要である。

5. わが国における16歳選挙権の論点と展望

日本での将来的な16歳選挙権の導入に向けては、18・19歳の投票率向上の他にも、いくつかの課題を検討する必要がある。

第一に、主権者教育の内容の改善である。前述の文部科学省による調査では全国の高等学校等の9割以上で実施されている主権者教育だが、その内訳をみると、「公職選挙法や選挙の具体的な仕組み」は76.1%に上っている一方で、「模擬選挙等実践的な学習活動」は38.2%、「現実の政治的事象についての話し合い活動」は29.3%にとどまっている(注6)。今後は政治的中立性を担保しつつ、「ルール決め」などの学校内外における意思決定プロセスへの参画や、現実の政策課題を取り上げた学習活動などに重点を置いた主権者教育に転換していくことが求められる。

第二に、関連する法律の整備である。2022年4月より成年年齢が引き下げられたが、仮に16歳選挙権が導入された場合、16・17歳は未成年のまま選挙権を得ることになるため、民法との整合性が問われる。また、高校に在籍する生徒の大半が選挙権を得ることになるため、校内での政治的活動の範囲や制限について明確なガイドラインを整備することも不可欠だろう。教育現場で混乱を生じさせないように、関連する法律と制度を整えることが重要だ。

第三に、社会的な合意形成である。選挙権年齢の更なる引き下げは、世代間対立を助長しないように、広範な議論と理解が不可欠である。実際、2025年7月の参議院選挙の投票行動をめぐり、「若者は選挙に関連するSNSなどの情報リテラシーが不足しているのではないか」と指摘する声もあがっている。ただ、情報リテラシーをどう身に付けるかについては、若者に限ることでなく、世代を問わず考えるべき論点である。また、前述のとおり、第一生命経済研究所による調査で、高齢世代の多くが「社会やコミュニティのルール決めに若者が積極的に関わる方がよいと思う」と回答していることから、16歳選挙権の導入に向けて丁寧な議論を積み重ねれば、社会的な合意が形成される可能性は十分にあるだろう。

こうした課題を乗り越えることで、日本においても16歳選挙権の導入は現実味を帯びてくる。主権者教育の充実、法律と環境の整備、社会的な合意形成という三つの柱を着実に進めることで、若者がより年齢の低い段階から政治に参加する機会を広げ、持続可能な民主主義の基盤を築くことが求められる。

世界に先駆けて人口減少社会に突入した日本だからこそ、若い世代の声を社会にどのように反映していくかは喫緊の課題となっており、その意味で16歳選挙権の可能性を検討すべき時期に来ているのではないだろうか。

以 上

【注釈】

  1. 総務省統計局(2021年)「令和2年国勢調査 人口等基本集計結果」

  2. 国立社会保障・人口問題研究所(2023年)「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要」

  3. Yahoo!ニュースオリジナル特集(2015年)「世界に学ぶ『18歳選挙権』」。筆者が本特集に取材協力した。

  4. 総務省(2011年)「常時啓発事業のあり方等研究会」最終報告書

  5. 文部科学省(2023年)「令和4年度主権者教育(政治的教養の教育)に関する実施状況調査の結果について」

  6. 同上


【参考文献】

西野 偉彦


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西野 偉彦

にしの たけひこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 教育(子ども・若者の学校教育から社会人の学び直しまで)、Z世代やα世代の生活行動・価値観・社会参画

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