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財務諸表監査人と GHG 排出量保証業務実施者の現状

~サステナ情報開示と GX-ETS を両睨みする「保証の担い手」の決着を~

加藤 大典

目次

1. 時価総額3兆円以上企業の現状

2025年7月17日、「金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ中間論点整理」(以下、中間論点整理)が公表され、サステナビリティ開示基準の適用と保証制度の導入に向けたロードマップが示された。開示基準は、時価総額の大きな企業から順次、最も早くは2027年3月期から義務化され、第三者保証は、開示基準の適用開始時期の翌年から義務化される。

そこで今回、今般のサステナ情報開示・保証制度が真っ先に導入されるプライム市場上場の「時価総額3兆円以上」の企業に注目し、2025年3月末時点で時価総額3兆円以上であった2025年3月末決算の57社を対象に、2024年3月期の有価証券報告書の開示日・財務諸表監査人と、2024年度分のGHG排出量(Scope1・2)(以下、GHG)の保証取得日・保証業務実施者について確認した(注1)。

以下、確認できた結果とともに私見を述べる。

2. 時価総額3兆円以上企業のGHG保証は、4大監査法人系とそれ以外が半々

今般のサステナ情報開示・保証制度の実施にあたっては、開示企業、財務諸表監査人、サステナビリティ情報の保証業務実施者の、3者間の適切な連携が不可欠である(資料1)。そこでまず、対象57社について、3者関係が今後どのように構成されていくのか、その発射台ともいえる現状について確認するべく、2024年3月期の財務諸表監査人と、2024年度分のGHGの保証業務実施者を一覧化した(資料2)。

図表
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図表
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図表
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財務諸表監査人は5監査法人であった。対象57社のうち56社(98%)が4大監査法人(注2)によるもの、1社(2%)が4大監査法人以外によるものであった。但しこの1社も、2025年6月以降、4大監査法人の1社が担当することになると公表されており、それを加えると、対象57社の全てが4大監査法人に財務諸表監査を任せる状況である。

一方、GHGの保証業務実施者は、資料2に記載してはいないが、4大監査法人系(注3)の4社を含め14社であった。対象57社のうち28社(50%)が4大監査法人系4社による保証で、うち18社(32%)は財務諸表監査と同一の4大監査法人系、10社(18%)は異なる4大監査法人系によるものであった。4大監査法人系以外は29社(51%)であり、財務諸表監査の担い手と異なる担い手という観点で見ると39社(68%)であった。

3. 現在のGHG保証の取得タイミングでは有価証券報告書への記載は間に合わない

次に、2024年3月期の有価証券報告書の開示日と2024年度分のGHG保証取得日を確認し、一覧化した(資料3)。

図表
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有価証券報告書の開示日前にGHG保証を取得していたのは、対象57社のうち4社あった(注4)。32社(56%)は31日以上経った後にGHG保証が取得されていた。

これまでGHG保証の取得は、CDP(国際的な環境NGO)などの外部評価対応や、各社のサステナビリティレポートなどの発行スケジュールを意識して取得されることが多かったと思われる。しかし今後は、有価証券報告書の開示(現状の多くは6月中旬~下旬)に向けた、有価証券報告書の作成タイミングを意識したGHG保証の取得が必要となる。なお、有価証券報告書の開示に関しては、2025年3月28日に金融担当大臣から発出された「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」において、「実務上の課題があるため企業負担の合理的な軽減策を含め対応策の検討等と行っている」旨が示されつつ「本来、株主総会の3週間以上前に行うことが最も望ましい」と明記されている(注5)。

以上を踏まえれば、開示企業は、保証業務実施者さらには財務諸表監査人とも連携して、GHG保証の取得のタイミングを、現状より相当程度前倒しした実務を構築する必要があると思われる。

4. 法定の開示や保証に向けた実務を構築していくために

最も早く対応していくこととなる時価総額3兆円以上企業は、2027年3月期の有価証券報告書での開示義務化に向けたドライラン(本格実施前のリハーサル)を、2026年3月期の有価証券報告書において行うことが想定されるが、2025年4月より既に、当該事業年度が始まっている。また、2028年3月期における保証義務化に向けては、2027年3月期(2026年4月~2027年3月分)のGHG排出量を含むサステナビリティ情報に対してドライランを行うことが想定される。2026年4月以降のサステナビリティ情報に関して、時系列に手前から対応をしていこうと考えれば、2025年度中から保証業務実施者とともに準備を進めていく必要があり、今、まさにそのタイミングを迎えている。

ここで問題となるのが、「誰を保証業務実施者として実務の構築を進めていけばよいか」ということである。中間論点整理にあるが、第三者保証の担い手については、「監査法人に限定すべきでない」と「限定すべき」という真っ向から対立する意見を含め、さまざまな意見が出されており、結論はまだ出ていない。ワーキング・グループで継続検討し、本年中を目途に結論を出すこととなっている。一方、経済産業省の小委員会では、2026年度から義務化される排出量取引制度(GX-ETS)について、対象事業者の排出量実績を第三者が確認する「登録確認機関制度」の導入が、現在、検討されている。「サステナビリティ情報開示」と「排出量取引」の両制度の主目的は異なるが、義務化対象企業から見れば、第三者からの保証の取得という点では類似する業務を行う必要があり、労力や費用面での無用な負担は可能な限り回避したいだろう。義務化対象企業が、いち早く、かつ適切に準備を進められるよう、「誰が保証の担い手になりえるのか」、今後の議論の動向が注目される。

以 上

【注釈】

  1. 2025年7月に確認した。

  2. ここで4大監査法人とは、有限責任あずさ監査法人、EY新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、PwC Japan有限責任監査法人の4社を指す。

  3. ここで4大監査法人系とは、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、EY新日本有限責任監査法人、デロイトトーマツサステナビリティ株式会社、PwCサステナビリティ合同会社の4社を指す。

  4. 但しいずれも1~3日前の取得であった。

  5. 有価証券報告書の株主総会前開示の対応状況に関しては、河谷(2025)を参照されたい。


【参考文献】

・ 金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(2025)「中間論点整理

・ 金融担当大臣(2025)「株主総会前の適切な情報提供について(要請)

・ 産業構造審議会イノベーション・環境分科会排出量取引制度小委員会(2025)「第1回 資料3 事務局資料

・ 加藤大典(2025)「サステナビリティ情報の開示と保証に関する検討への期待~金融審のWG等における大局的な視点による戦略的議論を~

・ 加藤大典(2025)「[サステナビリティ情報法定開示の段階適用の背景にはリソース不足も~GX推進スキル標準(GXSS‐P)などを活用したGX人材の『育成』が必要~」(https://www.dlri.co.jp/report/ld/485544.html)

・ 河谷善夫(2025)「有価証券報告書の株主総会前開示の対応の確認~サステナ情報の開示と整合的で実のある制度の導入を~

加藤 大典


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

加藤 大典

かとう だいすけ

総合調査部 主席研究員
専⾨分野: 環境

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