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2025.07.25
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推し活消費はウェルビーイングの第一歩?
~なぜ私たちは「推し」に満たされるのか~
髙宮 咲妃
- 要旨
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- 「推し活消費」は有名人やアニメ、ゲーム等のキャラクターや鉄道等、応援する対象にお金を使うことを指し、若い年齢層を中心に広がっている消費形態だ。2021年に「推し活」が流行語大賞にノミネートされて以降、日常生活において広く一般に知られるようになった。
- コロナ禍においては、リアルイベントの中止に伴い、オンラインでのライブ配信や仮想空間でのフェスといった形態の推し活も登場し、日本だけでなく、世界的にも収益機会が拡大している分野である。
- 特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会では、クリエイターエコノミー関連サービスとしての投げ銭等の消費行動については他者のための社会的消費であるとしている。
- 日本では寄付文化が根付いておらず、国際的にも寄付金額の対GDP比は小さい。その理由の一つとして、自分の寄付がどのように役立っているのか実感しにくい点が挙げられる。
- 一方、「推し活」は応援する対象(推し)が身近なため、グッズ購入や投げ銭といった自分の消費が、直接相手を支え、喜ばせているという「満足感」を得やすい特徴がある。
- 推し活消費のような他者のための消費行動は、個人の主観的なウェルビーイングを高める効果があることが様々な研究で知られている。ウェルビーイング分科会/ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会にて2025年1月に行ったアンケート調査でも寄付などの利他的な行動をとる人は、そうでない人に比べて主観的なウェルビーイングが高い傾向にあることが示され、この関係が裏付けられた。
- 限られた収入や資産の中で満足度の高いお金の使い方を模索する上で、「推し活」は幸福感を高めるための有効な選択肢となり得るだろう。
1. 推し活消費とは
2021年に「推し活」という言葉が流行語大賞にノミネートされた。それ以来、推し活は、日常生活においても広く一般に使われるようになってきている。推し活消費とは、有名人やアニメ、ゲーム等のキャラクターや鉄道等、応援する対象にお金を使うことを指し、若い年齢層を中心に広がっている消費形態である(髙宮, 2025)。
また、「推し活」に着目してグッズやイベントの機会を提供する企業や団体も増えている。日本銀行が2025年1月に発表した地域経済報告で、物価高を受けた消費者の節約志向の影響が引き続きみられるなか、推し活といった「こだわり消費」の好調さが指摘されているなど、推し活市場が日本経済に与える影響も大きくなっていることが示唆される。
さらにコロナ禍においては、リアルイベントの中止に伴い、オンラインでのライブ配信や仮想空間でのフェスといった形態の推し活も生まれた。これはクリエイターエコノミー(個人の情報発信やアクションによって形成される経済圏)とも呼ばれ、クリエイターと消費者(ファン)との相互交流が広がる中で、現在でも収益機会が拡大している分野である。実際に、Dimension Market Researchのレポート(2025年3月発表)によると、世界のクリエイターエコノミー市場規模は2025年に1兆9,331億米ドルに達し、2034年末には17兆7,886億米ドルにまで成長すると予測されている等、世界的にも成長期待の高い市場として注目を集めている。
2. 推し活消費は「社会的消費」?
特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会では、クリエイターエコノミー関連サービスとしての以下の3つの消費行動については、倫理性は伴わないものの、他者のための社会的消費(注1)であるとしている。

消費者庁が2022年度に実施したインターネット消費者トラブルに関する調査研究においてクリエイターエコノミー関連サービスについても調査されている(資料1)。この調査のなかで、配信中に投げ銭をする理由として一番多かった回答が「配信者に喜んでもらいたいから」、次点で「配信者が継続的に活動できるよう支援したいから」となっており、「配信者(他者)」を支援したい欲求からくる消費行動だということがうかがえる結果となっている。

3. 「寄付」は進まないのになぜ「推し活消費」は増加するのか
日本の寄付金額の対GDP比は、米・英などの先進国はもとより、新興国と比べても格段に小さい(資料2)。これには宗教的な背景(寄付を義務づけるような教え)や、日本は社会保障制度が比較的充実しており、困窮者は国や自治体がある程度助けるべきという考えがあること、税制上のメリットが少ないことなど、様々な要素が複合的に影響していると考えられる。

このように、日本において寄付が進まないにも関わらず、推し活消費はなぜ増加しているのか。行動経済学の観点から、人は寄付する際に寄付をしたことによる「満足感」が「実際に支払うコスト」よりも大きければ寄付をし、小さければ寄付をしない、というように、満足感と費用を天秤にかけると言われている。
この寄付をしたことによる満足感のなかで最も代表的な満足感として知られているのが「利他性」からくる満足感だ。相手が喜んだり、相手の状態が良くなったりと、相手の満足感が高まると自分自身も満足感を感じるというプロセスである(資料3)。

このプロセスを元に、寄付が進まない理由、推し活消費が増えている理由を考えてみる。一つは、そもそも日本人は疎遠な対象には利他的ではないということだ。こういった利他性を国際比較したデータを紹介する。資料4は、米国、ドイツ、シンガポール、日本の思いやりの水準(他者のためなら、自分の利益をどれだけ犠牲にできるかを数値化したもの)を比較したグラフである。日本人が見知らぬ外国人に対して抱く思いやりの水準は0.16と、家族に対するものが0.72に対して約5分の1であり、アメリカ等の諸外国と比較しても低い水準であることがわかる。

一方、推し活消費については、配信者や有名人のライブ配信でリアルタイムにコメントを送れる機能の活用や、アニメキャラのキーホルダー、Tシャツ等、推しをモチーフにしたグッズを身に付けることを通じて、いわゆる社会貢献活動を行う団体への寄付と比較して支援する対象が身近な存在のため利他性が育まれやすいと考えられる。
寄付が進まないもう一つの理由としては、寄付をした後の相手(寄付先)の満足感が見えにくい点だ。また、支援者が満足感を感じるのは、寄付をしたその時点ではなく、寄付金が課題解決に役立った将来の時点である、という時間差の問題も指摘されている。配信時の投げ銭等の推し活消費は対照的に、目の前で「配信者(相手)の満足感」が感じられることによって、自分の満足感につながりやすい、つまり「推し活消費(寄付)」につながりやすいものと思われる。
4. 推し活消費(社会的消費)でウェルビーイングになるのか?
推し活消費とウェルビーイングについて説明するにあたり、まず寄付とウェルビーイングの関係からひも解いていく。
寄付が幸福感に与えるポジティブな効果については、すでにさまざまな研究結果が蓄積されており、寄付者は非寄付者に比べて、幸福感が高い傾向にあることが知られている(髙宮,2021)。実際に、ウェルビーイング分科会/ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会にて2025年1月に行ったアンケート調査でも同様の傾向が見られた。
資料5は、主観的ウェルビーイングを被説明変数とし、年間で1円でも寄付をおこなったかどうか、および主観的ウェルビーイングに影響を与え得る年齢、性別、未既婚、学歴、世帯年収等の属性を説明変数とし、重回帰分析を実施した場合の標準偏回帰係数(β)を示している。各説明変数の標準偏回帰係数を計算することで、元の説明変数の基準を揃えて、被説明変数に対する説明変数の影響度の大きさを比較できる。今回の調査から、年間で1円でも寄付をすること(β=0.099)が、主観的ウェルビーイングに世帯年収(β=0.106)と同程度の影響を与えていることがわかった。

前章でも述べた通り、推し活消費は他者のための消費活動であり、寄付と同様、主観的ウェルビーイングに影響を与え得ると考えられる。寄付者は自分の寄付が受益者の人生に与えた変化を把握することによって幸せを感じることを示した研究(Aknin et al., 2013)もあり、「自分が支払ったお金により、推しがより活躍する姿を見ること」が支援者の幸福につながると考えられる。実際に介護施設利用者の生きがい形成のために「推し活」、「応援活動」を勧めている事例もあり、「推し活」を通して仲間との一体感を覚えたり、「推し」が頑張っている姿が自身のモチベーションに繋がったりなど、多くのメリットを生み出しているという。
収入や資産には限りがあり、お金は有限で貴重な資源である。「推し」を見つけ、自分にとって高い価値(満足感や効果)が得られる使い方を模索してはいかがだろうか。
【注釈】
- 似た言葉に「エシカル消費(地域の活性化や雇用等も含む、人や社会・環境に配慮した消費行動)」があるが、本稿では「倫理性を伴わない他者のための消費活動」の意で「社会的消費」と記載している。
【参考文献】
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Aknin et al.(2013)“Prosocial spending and well-being: cross-cultural evidence for a psychological universal”
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Dimension Market Research(2025)“Creator Economy Market to Reach USD 17,788.6 bn by 2034”
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Frederic L. Pryor. (2012) “Determinants Of The Size Of The Nonprofit Sector”
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佐々木周作・奥山尚子・大垣昌夫・大竹文雄(2016)「思いやりの5か国比較:プログレスレポート」
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消費者庁(2023)「インターネット消費者トラブルに関する調査研究」
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髙宮 咲妃(2021)「寄付がもたらす幸福~幸せを呼ぶお金の使い方~」
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髙宮 咲妃(2025)「【1分解説】推し活消費とは?」
髙宮 咲妃
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

