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2021.04.28
ライフデザイン
幸せ・well-being・QOL
寄付がもたらす幸福
~幸せを呼ぶお金の使い方~
髙宮 咲妃
- 要旨
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昨今増加している自然災害や新型コロナウィルス感染症等により、社会貢献活動に接する機会が増えている。実際、内閣府の調査において、社会貢献意識をもつ人の割合はこの40年ほどの間に約20ポイント増加している。
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身近な社会貢献活動である寄付は、東日本大震災をきっかけに増加している。年代別の金銭寄付者率では、シニア層が高く若年層の倍近い。一方、寄付に対する意識調査では、若年層の寄付意識が高いことが判明した。
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寄付は困っている他者の一助となるのみならず、寄付をした本人にも、心理的・身体的な良い影響を及ぼす可能性があることが、様々な研究から示唆されている。
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今年3月に国連が発表した幸福度ランキングでは、日本はG7をはじめとする主要国の中で順位が低い。これは、金額ベースで見てもわかるように寄付文化が浸透していないことも一因と考えられる。
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寄付自体が相手の幸福につながり、さらに自身の幸福につながるのであれば、日本においても積極的に浸透させていくべきと考える。寄付文化が日本に浸透し、社会課題の解決に資する寄付金額の規模が大きくなってくれば、2030年に向けた国際目標であるSDGsの実現に寄与するだろう。
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1.社会貢献意識の高まり
2011年に起きた東日本大震災や昨今増加している台風や大雨などの自然災害に対する寄付やボランティア活動、また新型コロナウィルス感染症により困窮している飲食店へのクラウドファンディング支援など、社会貢献活動に接する機会が増えている。内閣府において、何か社会のために役立ちたいと思っている人がどのくらい存在するか調査したところ、「役立ちたいと思っている」が63.4%と国民の約3人に2人が社会貢献に対して意欲を持っていることがわかった(資料1)。同調査は1974年より継続的に行われており、社会貢献意識をもつ人の割合はこの40年ほどの間に約20ポイントも増加している。
社会貢献とは、個人や企業、団体がよりよい社会を作るために行動することであり、寄付、ボランティア活動、献血など様々な形態がある。また、社会貢献活動と密接な関わりのあるキーワードとしてSDGsが挙げられる。これは、2015年の国連サミットで採択された国際目標であり、2030年までに貧困や紛争、気候変動など社会が抱える問題を解決し、誰1人取り残さない持続可能な社会の実現を目指している。
「寄付白書2017」において、社会貢献活動のうち、寄付とボランティア活動について調査したところ、2016年1月から12月の1年間でボランティア活動を行った人の割合は26.3%、寄付を行った人が45.4%となっており、「ボランティア活動」よりも「寄付」のほうが人々にとって身近な社会貢献活動であることがうかがえる。
2.寄付実施者は近年増加傾向
現状、寄付実施者はどのくらいいるのか見たものが資料2である。2016年時点で20~79歳に占める金銭寄付者の比率は45.4%(4,571万人)と日本の成人の半数近くの個人が何らかの団体や法人に金銭の寄付を行っている。寄付金額の平均値は、年間27,013円で、中央値は4,000円である(寄付白書2017)。寄付総額をみると、東日本大震災が起きた2011年に前年の2倍に伸び、2012年以降も7,000億円~8,000億円の水準で推移している。
2011年の震災前後で金銭寄付者の比率が3割前後から半数近くまで増えており、国民の間で寄付意識が高まっていることがうかがえる。
注目されるのは年代別の寄付実施者の比率である。一年間に金銭による寄付を通じた社会貢献を行っている割合(金銭寄付者率)をみると、60歳代で52.0%、70歳代で57.8%であり(資料3)、若年層と比較してシニア層の金銭寄付者率は高く、20歳代の26.1%の倍近い比率となっている。
一方、寄付に対する意識を調査したところ、若年層の意識の高さがうかがえた。コロナ給付金寄付実行委員会が実施した「特別定額給付金に関する調査」によると、少額でも給付金の一部を寄付に使いたいと考える人は「そう思う」「ややそう思う」の合計で27.9%、年代別では20歳代が一番高く、37%が寄付に使いたいと回答しており、寄付への関心の高さが見られている(資料4)。
3.寄付をすると幸福感は高まるのか
寄付は困っている他者の一助となるのみならず、寄付をした本人にも、心理的・身体的な良い影響を及ぼす可能性があると言われている。これについて世界で様々な実証的な研究が行われており、寄付に代表されるような利他的な行動をすることで幸福感を高めるという因果関係がある可能性が示されてきた。
寄付行動が幸福感を高めていることを明らかにした有名な実験がDunn et al.(2008)である。Dunnらは、被験者に5~20ドルのお金を分配し、被験者をランダムに2つの群に割り当て、一方の群には「自分自身のため」に、他方の群には「他者のため」に、各自に分配されたすべてのお金を当日中に使いきるように指示した。実験の前後で被験者に主観的幸福感尺度を用いて幸福感を回答させ、変化を調べたところ、「自分自身のため」に使うよう指示された群よりも、「他者のため」に使うよう指示された群で、より大きな幸福感の上昇が確認された。
また、幸福感と同様、寄付によって寄付者本人にポジティブな感情が生まれ、結果として寄付者本人の健康状態が向上する可能性についても、同じくDunn et al.(2010)の「独裁者ゲーム」で示唆されている。この実験では、大学生の被験者50名を2人1組のペアに分け、まずペアのうち1人に実験報酬として10ドルを渡す。受け取った1人は「独裁者」役となり、ペア相手のもう一人に対して10ドルのうち何ドル(0~10ドルの範囲)を分け与えるかを独断で決めることができる。「独裁者」は10ドルすべてを自分のものにしてもかまわない。ゆえに、ペア相手に金銭を分け与える行為は「寄付」に相当すると考えられる。Dunnらは、先の「独裁者ゲーム」の前後で「独裁者」役の被験者の感情の変化とストレス度合いを示す唾液中のコルチゾール量の変化を調べた。すると、ペア相手への「寄付」を出し惜しみした人ほどネガティブな感情が強くストレスを感じており、逆にペア相手に分けた額が大きい者ほどポジティブになり、低ストレスであることがわかった。この実験から、他者へ寛大に寄付することは心理的に良い作用、すなわち幸福感を得られ、ストレス軽減ひいては健康の向上につながる可能性があることが示唆されている。
4.日本の幸福度の国際比較
国連が定める「国際幸福デー」の3月20日に合わせて公表された2021年度版「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」にて、国連の世界幸福度ランキング(対象:世界149か国)が発表された。今回で9年目になったこの報告書は、世界149の国・地域を対象に、国民に自分の幸福度を尋ねた結果と、国内総生産(GDP)や社会福祉、個人の自由、健康寿命等の指標を総合評価し、過去3年の平均値で順位を決めている。
今年、日本は56位と、昨年62位から少し上昇したとはいえ、依然として主要先進国G7のなかで最下位という残念な結果になっている(資料5)。日本で評価が低い項目として「人生選択の自由さ(77位/149位)」「寛容さ(148位/149位)」が挙げられる。「寛容さ」は1ヶ月以内に寄付をしたか等が設問になっており、現状、寄付行為が増加している状況ではあるが、他国と比較して寄付文化が浸透していない日本では加点しにくくなっている。
日本に寄付文化が浸透していないことは、金額ベースでも明らかである。日本の個人寄付総額は、2016年時点で7,756億円だが、アメリカは30兆6,664億円、イギリスは1兆5,035億円と他2国と比較してかなり低い(資料6)。
名目GDP比でみても、日本はアメリカの1/10、イギリスの1/4となっており、寄付後進国となっている現状がある。
5.おわりに
寄付に代表される利他的行動を行う動機には、相手が幸せになることが自分も嬉しいという純粋な利他的(altruistic)動機はもちろんのこと、他人を幸せにするという行為や働きかけ自体に満足感を覚える利己的(egoistic)動機がある(Bendapudi et al. 1996)と言われている。寄付によって自身が幸福になれるとなると、後者の利己的動機で寄付する人が増えてしまうという懸念があるかもしれない。しかし、欧米では前者の純粋な利他的動機から寄付を行う人は、支援先が満たされたり、他の人からの寄付が増えたりすると自身の寄付を減らしてしまう傾向があるため、行動経済学に基づき後者のタイプに寄付を働きかける取組みが進んでいる(寄付白書2017)。動機がどちらにせよ、寄付自体が相手の幸福につながり、さらに自身の幸福につながるのであれば、日本においても積極的に浸透させていくべきと考える。
アメリカやイギリス等のように寄付文化が日本に浸透し、社会課題の解決に資する寄付金額の規模が大きくなってくれば、2030年に向けた国際目標であるSDGsの実現に寄与するだろう。個人の幸福感はもちろん、先述の国別の幸福度ランキングも上昇するかもしれない。寄付というものを、あなたのお金の使い道の一つとして、考えてみてはいかがだろうか。
【参考文献】
- 日本ファンドレイジング協会(2017)「寄付白書2017」
- 佐々木周作(2016)「行動経済学でクラウドファンディングを読み解く」
- Dunn,Elizabeth W,Lara B.Aknin,and Michael I.Norton.(2008)Speding money on others promotes happiness.Sciece,vol.319,no.5870,pp.1687-1688
- Dunn,Elizabeth W,Claire E,Ashton-James,Margaret D.Hanson,and Lara B.Aknin.(2010)On the costs of self-interested economic behavior:How does stinginess get under the skin?.Journal of Health Psychology,vol.15,no.4,pp.627-633.
- Bendapudi,N.,Singh,S.N.,&Bendapudi,V.(1996).Enhancing helping behavior: An integrative framework for promotion planning. Journal of Marketing, 60(3), 33–49.
髙宮 咲妃
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