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投票率向上に向けたインターネット投票の導入

~ネット投票率50%超のエストニアから考える日本の選挙制度改革~

柏村 祐

目次

1.日本の選挙システムの課題

日本の国政選挙における投票率は低下傾向にあり、2024年10月の衆議院選挙では、53.85%と戦後3番目に低い結果となった。

これには多様な要因が存在すると考えられる。たとえば、政党間の政策の違いが不明確であることや自民党一強による政権交代の可能性の低さ、政治や選挙に関する情報不足などが影響しているのではないか。さらに、投票所までの距離や交通の不便さ、仕事や私用による時間的制約等に加え、自分1人の1票では何も変わらないという有権者の意識も影響しているだろう。

特に深刻なのは、若年層の投票率の低さである。2021年10月に行われた第49回衆議院選挙では、10代が43.23%、20代が36.50%、30歳代が47.13%と、全年代平均の55.93%を大きく下回った。同様に、2022年7月の第26回参議院選挙でも、10代が35.42%、20代が33.99%、30代が44.80%と、全年代平均の52.05%を下回る結果となっている。この傾向は長期的に継続しており、若年層の政治参加をいかに促進するかが重要な課題となっている(注1)。

これらの課題を解決する1つの方法として、エストニアのようなインターネット選挙(電子投票)導入が注目に値する。エストニアは、2005年に世界初のインターネット投票を導入し、これにより利便性を大幅に向上させた。

本レポートでは、このエストニアの事例を詳細に分析し、インターネット投票システムの実態、その安全性と信頼性、さらには日本への適用可能性について多角的な検討を行う。エストニアの経験は、低投票率に悩む日本の選挙制度を考えるうえで、重要な示唆を与えてくれるだろう。

2.エストニアの電子投票システムの実態

エストニアは2005年に世界で初めて全国規模のインターネット投票を導入し、以来、その技術と信頼性を着実に高めてきた。

まず、2023年の議会選挙では、有権者総数966,129人のうち613,801人が投票し、投票率は63.5%を記録した。このうちインターネット投票者数は313,514人に達し、有権者の32.5%、投票者の51.1%がインターネット投票を選択している(図表1)。

図表
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つぎに、インターネット投票の利用率の推移をみると、着実な成長を続けていることがわかる(図表2)。初めて導入された2005年の地方選挙では投票者の1.9%にすぎなかったが、2023年には51.1%にまで上昇した。

図表
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さらに、インターネット投票数の年齢層別分布をみると、デジタルネイティブ世代である若年層(18-34歳)が79,574人、働き盛りの中年層(35-54歳)が129,312人、55歳以上の層でも104,628人がインターネット投票を利用しており、全世代でインターネット投票が普及しているといえる(図表3)。

図表
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エストニアにおけるインターネット投票の信頼性はきわめて高く、312,182票が有効票としてカウントされ、無効票はわずか1票のみであった。また、紙の投票用紙への切り替えは1,332票(全インターネット投票者の約0.4%)にとどまり、システムへの高い信頼性が示されている。海外からの投票も7.8%を占め、地理的制約を克服する手段としてインターネット投票が機能している。2019年の議会選挙と比較すると、インターネット投票者数は26.8%増加しており、特筆すべきは高齢者層(65歳以上)でも23,785人の増加がみられたことである。このように、エストニアのインターネット投票システムは、高い利便性と信頼性を兼ね備えた投票手段として確立し、選挙に国民が参加する際の新たな標準となっている(注2)。

3.エストニアにおける電子投票の信頼性と安全性

エストニアのインターネット投票システムは、高度な技術的セキュリティと制度的な信頼性確保の仕組みを備えている。すべての電子投票には有効なデジタル署名が付与され、投票箱には暗号化された投票者の意思表示のほか、デジタル署名、証明書の有効性確認、タイムスタンプを含むファイルが別々に保存される。これにより、投票内容の改ざんや不正な追加を防止している。また、投票操作は専門家によってリアルタイムで監視されており、システムの機能に関する詳細な監査が定期的に実施されている。2021年には経済通信省の委託によりKPMGがプロセス監査を実施し、投票の高レベルの秘密性、情報システムの耐性、セキュリティスキームの強度、投票者の独立性が確保されていることが確認された。

また、投票の自由と公正性を確保するため、エストニアでは独自の「再投票システム」を採用している。これにより、有権者は投票期間中に何度でも電子投票を行うことができ、最後の投票のみが有効となる。さらに、投票所での紙の投票用紙による投票も可能であり、その場合は紙の投票が優先される。この仕組みにより、投票の強要や買収などの不正行為のリスクを大幅に低減している。システムの透明性も重視されており、投票者は投票後15分以内にスマートデバイスを使用して、自分の電子投票が電子投票箱に正しく届いたかどうかを確認することができる。

選挙結果は投票用紙と電子投票で投じられたすべての票が集計される選挙日の夜に判明し、その過程は数学的に検証可能である。選挙に関する苦情がすべて解決され、最終的な選挙結果が発表されるまで、すべての投票は保存される(注3)。

エストニアのインターネット投票は、同国のデジタルガバナンスの基盤の上に構築されている。すべての国民に義務付けられているIDカードは、オンライン上での電子認証と実際の対面での本人確認の両方で同等の効力をもつ身分証明手段として機能しており、銀行取引や税務申告など、多くの電子サービスで日常的に利用されている。このような包括的なデジタルインフラの存在が、インターネット投票の信頼性と利便性を支えている。

4.日本におけるインターネット投票の実現性

以上のエストニアの事例をみると、日本でもインターネット選挙を導入することで投票率が向上する可能性があるのではないだろうか。特に、物理的・時間的制約の緩和が期待され、投票所までの距離が遠い地方在住者や、都市部の若年層、さらには多忙なビジネスパーソンにとって、参加が容易になると考えられる。また、日本の技術力を活かし、エストニア同様のセキュリティ対策と再投票システムを整備することで、インターネット投票の信頼性を確保することも可能だろう。

現在、日本ではマイナンバーカードを活用したデジタル社会への移行が急速に進展している。健康保険証としての利用や、銀行口座の紐づけ、さらには各種行政手続きのオンライン化など、国民の重要な個人情報と結びついた高度なデジタルサービスが次々と実装されている。新型コロナウイルス感染症の流行を契機として、非接触・非対面での行政サービス提供の重要性が再認識されているところでもある。

このような状況において、公職選挙法で定められた国民の参政権行使の手段である選挙についても、同様のデジタル化対応を進めるべき時期に来ているのではないか。マイナンバーカードによる本人確認と電子証明書の仕組みは、エストニアのIDカードシステムと同様の機能を有しており、インターネット投票の技術的基盤として活用できる可能性が高いといえよう。

図表
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特に、マイナンバーカードを介した個人認証の仕組みは、インターネット投票に必要な「なりすまし防止」「投票の秘密保持」「二重投票の防止」といった要件を満たすための技術的基盤となり得る。また、マイナポータルなどの既存のデジタルプラットフォームを活用することで、新たなシステム構築のコストを抑えることも可能だ。

デジタル社会における行政サービスの高度化が進む中、インターネット投票の導入は、投票率向上の有効な手段になり得る。投票率の向上は、より多くの国民の意思が政策決定に反映されることを意味し、それは民主主義の質的向上につながる。特に、現在投票率の低い若年層の政治参加が促進されれば、若者世代の視点や課題がより政策に反映されやすくなり、世代間の利害を適切に調整した、より公平で持続可能な社会の実現が期待できる。このような観点から、インターネット投票の導入に向けた具体的な検討を速やかに開始すべきだといえるだろう。


柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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