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2024.09.10
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新幹線ストップ!求められる「デジタル防災力」とは?
~72時間帰宅難民体験から考える情報収集から業務継続まで~
柏村 祐
1.交通網停止時におけるITツールの活用と課題
2024年8月29日、台風10号による豪雨が東海道新幹線の全線運転停止をもたらし、多くの人々が予期せぬ困難に直面した。この事態は、交通網が停止した際のITツール、特に交通のネット予約システムやWEB会議ツールの活用が、現代社会においていかに重要であるかを如実に示すこととなった。運行停止となった各駅や主要都市では、多くの乗客がスマートフォンを駆使してホテルを探す姿が見られ、オンライン予約システムの利便性が浮き彫りとなった。
代替交通手段の確保においても、航空機や長距離バスのオンライン予約システムが大きな役割を果たした。これらのシステムは、突発的な需要増加に対応し、多くの人々の移動手段を確保するうえで不可欠なツールとなった。一方、仕事ではWEB会議ツールが重要な役割を果たした。予定していた対面での会議や商談を急遽オンラインに変更せざるを得なくなった人々にとって、これらのツールは業務継続の生命線となった。
しかしながら、これらのITツールの活用には課題も浮き彫りとなった。安定したインターネット接続の確保、セキュリティの問題、そしてユーザーのデジタルリテラシーの差異など、緊急時におけるITツールの有効活用にはまだ多くの問題があることが明らかとなった。今回の事態は、交通網が停止するような緊急時において、ITツールが果たす役割の重要性と同時に、その活用における課題も明確に示すこととなった。
本稿では、これらの課題に対する、いわば「デジタル防災力」の重要性について詳しく検討し、より効果的なITツールの活用方法や、それを支える社会システムのあり方について考察する。
2.デジタル技術が命綱となった72時間の帰宅難民奮闘記
今回の新幹線運休による混乱は、多くの人々が実際に直面した切実な問題であった。本節では、筆者自身が経験した3日間にわたる帰宅難民としての奮闘を記すことにより、デジタル技術が緊急時にいかに重要な役割を果たすかを具体的に示す。宿泊先の確保、代替交通手段の手配、業務継続のための課題に対し、実際にICTがどのように活用され、どのような困難が生じたかを明らかにしたい。
まず、筆者の本来の予定と実際の結果を比較した表を以下に示す(図表1)。

この表からわかるように、筆者の予定は大きく狂わされることとなった。以下、日を追って詳細を述べる。
2024年8月29日、台風10号がもたらした未曽有の豪雨は、筆者の予定を根底から覆した。大阪から直ちに帰京するはずが、72時間に及ぶ帰宅難民生活となったのである。
15時57分、大阪駅を出発した新幹線は、わずか1時間ほどで米原付近で突如として停車した。車内アナウンスは次第に不安を煽るものとなり、窓の外では激しい雨脚が視界を遮っていた。暗闇の中、車内の乗客たちは不安そうな表情を浮かべ、スマートフォンを必死に操作し始めた。筆者も例外ではなく、刻々と変化する運行情報をリアルタイムで確認しながら、最悪の事態に備えてホテル予約サイトを立ち上げた。米原駅での長時間の停車後、新幹線はなんとか運行を再開した。6時間を超える車内待機の末、ようやく名古屋駅まで辿り着いたものの、そこで運行中止となった。一瞬にして駅構内は混乱の渦に巻き込まれ、宿泊先を求める人々で溢れかえった。この状況下では、スマートフォンが唯一の頼みの綱となった。予約サイトの画面は目まぐるしく変化し、空室が表示されては瞬時に消えていく状況であった。焦燥感に駆られながら、なんとか市内のビジネスホテルを確保できたときの安堵感は、言葉では表現できないほどであった。
翌30日、ホテルの一室が臨時のオフィスと化した。15時からのウェブ講演を控え、インターネット接続の安定性に神経を尖らせる状況であった。幸い、ホテルのインターネット環境は良好で、聴講者に迷惑をかけることなく講演を完遂できた瞬間、デジタル技術の恩恵を心から感じた。
31日、東京への帰路を急ぐ筆者の前に立ちはだかったのは、依然として復旧の目処が立たない新幹線であった。スマートフォンを片時も離さず、あらゆる交通情報サイトを巡回し続けた。そして、名古屋から長野経由で東京へ向かう迂回ルートを発見した。しかし、朝の特急しなのはすでに満席であった。必死の予約操作の末、ようやく12時発の切符を入手できたときは喜びを抑えきれなかった。だが、安堵もつかの間、駅に到着すると1時間30分の遅延が告げられ、その後、ついに終日運休の悲報がもたらされた。再び途方に暮れる筆者を救ったのは、またしてもスマートフォンのホテル予約アプリであった。残り少ない部屋を瞬時に確保し、再び名古屋で一夜を過ごすこととなったのである。
9月1日、朝9時のしなの予約を何とか手に入れるも、駅に着くなり人身事故による運休が告げられた。絶望的な気分に襲われながらも、諦めきれずスマートフォンの画面を凝視し続けた。予約画面を執拗に更新し続けること数十分、奇跡的に10時発の指定席をキャンセル待ちで確保できた。

図表2は、9月1日8時24分に撮影した、混み合う切符売り場の様子である。多くの人々が同じように帰路を急ぐ中、デジタル予約システムの重要性が際立った瞬間であった。長野、そして東京へと、まるで綱渡りのような帰路についたのであった。

図表3は、長野へ向かう特急しなのの指定席車両の様子である。座席が満席になっただけでなく、通路にまであふれる乗客の姿が見られる。この光景は、非常時における交通機関の混乱と、人々の帰宅への切実な思いを如実に物語っている。
この72時間に及ぶ帰宅難民体験は、筆者にとってデジタル技術の真価を身をもって知る機会となった。オンライン予約システムがなければ宿泊先の確保は不可能であっただろうし、リアルタイムの交通情報更新と即時予約機能がなければ、あの混乱のなかで帰路を見出すことはできなかったに違いない。そして、安定したインターネット環境がなければ、仕事の継続も危ぶまれたのである。この経験は、緊急時におけるデジタルリテラシーの重要性を痛感させると同時に、さらなる技術革新と情報インフラ整備の必要性を強く認識させるものとなった。
3.「デジタル防災力」の重要性
以上のように、突発的な災害や予期せぬ事態に直面したとき、我々の生活を支えるものの1つは最新のデジタル技術といえる。これは、今後の災害対策や緊急時の行動指針を考えるうえで極めて重要な点である。
まず、情報収集の重要性が挙げられる。スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスは、刻々と変化する状況をリアルタイムで把握するための強力なツールとなる。交通機関の運行状況、天候の変化、避難所の開設情報など、生命線となる情報を素早く入手できることは、安全確保の第一歩である。
次に、代替手段の迅速な確保が挙げられる。オンライン予約システムやアプリケーションを活用することで、宿泊施設や代替交通手段を素早く手配することが可能となる。これは、物理的な移動や電話での問い合わせが困難な状況下では特に有効である。
さらに、業務継続の観点からも、デジタル技術の重要性が浮き彫りとなった。クラウドサービスやウェブ会議システムを利用することで、場所を問わず仕事を継続することができる。これは、単に個人の業務継続だけでなく、企業全体の事業継続計画(BCP)にも大きく貢献する。
一方で、こうしたデジタル技術の恩恵を最大限に受けるためには、いくつかの課題も存在する(図表4)。まず、デジタルリテラシーの向上が不可欠である。年齢や経験に関わらず、誰もが基本的なスマートフォンの操作やアプリケーションの利用方法を習得しておく必要がある。また、緊急時に備えたバッテリー残量の確保や、モバイルWi-Fiルーターの準備など、ハード面での対策も重要である。さらに、個人情報保護の観点から、セキュリティ意識の向上も欠かせない。緊急時であっても、安全なネットワークの利用や、不審なサイトでの個人情報入力を避けるなど、基本的な注意は必要である。一方で、デジタル技術に過度に依存することのリスクも認識しておく必要がある。システムダウンや通信障害の可能性を考慮し、紙の地図や現金、緊急連絡先リストなど、アナログな備えも怠らないことも大切である。

こうした課題を克服しつつ、デジタル技術を効果的に活用することで、我々は予期せぬ災害や緊急事態に対してより強靭になることができる。特に近年、地球温暖化の影響で予測が困難になっている大型台風や、南海トラフ地震のような予測が極めて難しい大規模地震に対しても、デジタル技術は重要な役割を果たす。たとえば、台風の進路が急変した場合でも、リアルタイムの気象情報や避難指示をスマートフォンで即座に確認できる。また、大規模地震発生時には、迅速な安否確認や支援物資の効率的な配布がデジタル技術で可能となる。
これこそが「デジタル防災力」の本質であり、今後の防災・減災対策の要となるものである。企業や行政は、こうした「デジタル防災力」の向上に向けた取組みを積極的に推進すべきである。たとえば、従業員や市民向けのデジタルリテラシー講座の開催、緊急時対応アプリケーションの開発と普及、安定したネットワークインフラの整備などが考えられる。
特に、国レベルでの取組みが重要となる。デジタル庁は、マイナンバー制度の普及にとどまらず、災害時のデジタル技術活用の促進にも重点を置くべきである。たとえば、全国統一の災害情報プラットフォームの構築や、高齢者でも使いやすい防災アプリの開発支援、さらには地方自治体の「デジタル防災力」強化のための支援制度の創設などが考えられる。
個人レベルでも、日頃からスマートフォンやタブレットの操作に慣れ親しみ、必要なアプリケーションをインストールしておくなど、デジタル防災の意識を高めておくことが重要である。今回の新幹線運休の経験は、デジタル技術が我々の生活に深く浸透し、緊急時の強力な味方となることを如実に示した。同時に、技術の恩恵を最大限に受けるための準備と心構えの重要性も明らかになった。
今後、さらなる技術革新が進むなかで、我々一人ひとりが「デジタル防災力」を高め、安全で柔軟な社会の構築に貢献していくことが求められている。これは単なる個人の備えにとどまらず、社会全体の危機管理能力を向上させる重要な取組みなのである。予測困難な災害が増加するなか、デジタル技術を活用した防災・減災対策は、国家レベルの重要課題として位置付けられるべきであり、官民一体となった取組みが不可欠である。
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 柏村 祐
かしわむら たすく
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政策調査部 主席研究員
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション
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