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2023.07.13
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プレゼンテーションのダイバーシティ対応を
~多様な人に伝わりやすい話し方・見せ方~
水野 映子
- 目次
「プレゼンテーション」、略して「プレゼン」という言葉が普及して久しい。「プレゼンテーション」とは、国語辞典の『広辞苑』『大辞林』ではそれぞれ「会議などで、計画・企画・意見などを提示・発表すること」「自分の考えを他者が理解しやすいように、目に見える形で示すこと」と定義されている(注1)。後者はさらに「特に、広告代理店が依頼主に対して行う広告計画の提示や、説明活動をいう」と続いている。
このように、狭義では広告の分野での活動を意味する場合もあるが、広く一般の会議、研修・講演、講義・授業などで意見や知識・情報を他者に示すことを指す場合も多い(本稿では広義の意味で用いる)。その方法には、口頭で話す、音声を流すなどの「耳に聞こえる形」で示す方法と、印刷物を配布する、会場のスクリーンやパソコン・タブレット・スマートフォンなどの画面に画像や映像を映し出すといった「目に見える形」で示す方法がある。
近年は、プレゼンテーション(以下、プレゼン)の聞き手や方法が多様化しており、それに対応することが以前にも増して重要になっている。本稿では、聞き手と方法の多様化という社会背景をふまえた上で、対応のポイントを述べる。
1.なぜいまプレゼンのダイバーシティ対応が必要なのか
(1)聞き手の多様化 ~働く障害者・高齢者・外国人の増加~
「Diversity&Inclusion :D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」の実現が、長らく企業などの課題となっている(注2)。この言葉は、障害の有無、年齢、性別、国籍などの多様性(ダイバーシティ)を受容・包摂(インクルージョン)し、それぞれの能力を発揮できる環境を整える、といった意味で使われる。また、国連の「SDGs :Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」では、「誰一人取り残さない」ことが理念として掲げられている。
このような流れの中、プレゼンなどでも、多様な特性をもつ人々に対し、情報を的確に漏れなく伝えることが必要になっている。特に、プレゼンをおこなうことが多いビジネスの場では、その必要性が高い。以下では、働く障害者・高齢者・在留外国人の増加という人材の多様化の現状と、情報伝達に関する課題を概観する。
①障害者:合理的配慮の提供等の義務
民間企業などで雇用される障害者は年々増加している(図表1)。その一因は、障害者雇用促進法の「障害者雇用率制度」にある。
この制度にもとづき、民間企業や国・地方自治体は、従業員の一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用することが義務づけられている。民間企業の法定雇用率は、徐々に引き上げられて2021年3月からは2.3%になり、今後さらに引き上げられることになっている(注3)。
また、同法にもとづき、障害者に対する「不当な差別的取扱い」の禁止と「合理的配慮の提供」も事業主に義務づけられている。たとえば、障害があることを理由に、プレゼンがおこなわれる会合への出席を拒むことは「不当な差別的取扱い」にあたる。また、プレゼンに関して障害者から何らかの配慮(たとえば、わかりやすい表現を使った説明、見やすい・聞こえやすい座席の提供、手話通訳・文字通訳の派遣など)の申し出があった際には、それをおこなうことが「合理的配慮の提供」として求められる。

②高齢者:加齢による機能低下への対応
60歳以上の人の就業率はこの10年間でほぼ増え続けている(図表2)。2022年現在、60~64歳では73.0%、65~69歳では50.8%、70~74歳でも33.5%が働いている。プレゼンにおいて年齢の高い人に情報を伝えるためには、加齢による視覚・聴覚などの機能低下(たとえば老眼や白内障、加齢性難聴)への対応が必要である。

③外国人:日本語能力への対応
日本で働く外国人も年々増加している。コロナ禍により2020年以降は伸びが鈍化したものの、2022年には過去最高の182万人を記録した(図表3)。国籍別ではベトナム、中国、フィリピンの順に多い。

図表4は、在留外国人(日本に住む外国人)の日本語能力の自己評価である。日本語でのプレゼンを見聞きする際に必要と思われる「長い会話に参加できる」以上の会話能力や「日常的な場面で使われる日本語の理解」より高い読解力がある人は、全体の半数に満たない。在留外国人に対して日本語でプレゼンをおこなう際には、その聴解力・読解力に応じた話し方や資料・画面作成をする必要がある。

(2)伝達方法の多様化~オンライン会合の普及による新たな課題の出現~
以上は、2020年より前からあった社会の動きであるが、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染拡大により、新たな動きが加わった。その一つが、オンラインでの会議や学習の急速な普及である。
総務省の調査によると、1年間に業務目的でオンライン会議システムを利用した割合は、コロナ禍初期の2020年の14.8%から2年間で急増し、2022年には21.6%となった(図表5)。特に、男性30~50代におけるその割合は約4割にのぼっている(図表省略)。またeラーニングを利用した割合も、2017年から2022年の5年間に10ポイント増え、18.2%となった。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行した現在、対面での会合も増えつつあるが、オンラインでの会合がなくなる気配はない。また、対面とオンラインを併用した、いわゆる「ハイブリッド」の会合がおこなわれるようになったことにより、その方法はむしろ複雑になっている。

ビジネスや教育などの場でのオンライン会議システムの利用が増えたことにより、オンラインでのプレゼン特有の問題も顕在化した。そのひとつの例は、話し手が自身の映像を出さない(いわゆる「顔出し」をしない)場合、表情や身ぶりなどの非言語の情報は、聞き手に全く伝わらないという点である。また映像を出したとしても、対面のプレゼンに比べると、それらの非言語の情報は画面上では伝わりにくい。
もうひとつの例は、話し手側や聞き手側の通信環境によっては、音声が途切れたり聞き取りにくくなる点である。この問題は、かつてに比べれば減った(注4)が、現在でもしばしば起きる。
ひとつめの問題に対処するためには、話し手は表情や身ぶり以外の要素(音声や共有画面など)で情報を伝えることがより重要になる。画面に映し出す情報をわかりやすくしておけば、音声が聞き取りにくいというふたつめの問題が生じたときの理解の助けにもなる。
オンラインのプレゼンで話し手の表情や身ぶり、声が聞き手に伝わりにくい・伝わらないという問題は、それぞれ視覚障害者・聴覚障害者に対面でプレゼンをおこなう際の問題に似ている。したがって、プレゼンでの話し方や画面の見せ方の配慮も、これまで視覚障害者・聴覚障害者に対して必要とされてきた配慮と共通する点がある。
2.多様な聞き手に伝えるポイント
では、対面やオンラインのプレゼンにおいて、多様な聞き手に情報を伝えるためには、具体的にどうしたらよいのか。詳細な説明は省略するが、ここでは「話し方」(口頭で伝える方法)と「見せ方」(画像などで視覚的に伝える方法)それぞれの配慮のポイントを示す。
(1)話し方の配慮
①基本は「やさしい日本語」
プレゼンでの話し方に関する一般的な留意点について書かれたものは数多くあるが、多様な聞き手への配慮という観点で参考になるのは「やさしい日本語」である。やさしい日本語とは「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語」である(注5)。もともとは、日本にいる外国人(日本語を母語としない人)に情報を伝える方法のひとつとして推進されてきた。
だが、外国人だけでなく日本人(日本語を母語とする人)、特に音声が聞こえにくい人(難聴者)、知的障害のある人、音声を中心に情報を得ている視覚障害者などに伝える際にも、やさしい日本語は役立つ。たとえば、図表6の「話し言葉のポイント」にもあるように、話の「内容を整理」し、短くはっきり言い切るなどの「話し方の基本」を守り、「適切な言い換え」をおこなうことは、日本人の聞き手に対しても有効だろう(注6)。

②画像が見えなくても伝わる話し方で~指示語に要注意~
スクリーン・画面に映し出された画像を見ることが難しい視覚障害者などに対しては、上記①以外の話し方の配慮も重要である。たとえば、画像を見せながら話す際は、「これ」「ここ」「この」などの指示語だけでなく、指示するものが何かを具体的に言葉で説明することが重要である。図表7は、前述の図表2のグラフを口頭で説明する場合の例である。これらの話し方は、オンラインでのプレゼンで、画面の情報が伝わりにくい際(たとえば、技術的なトラブルにより共有画面がうまく見られない場合など)にも役立つ。

なお、上記の①②のような説明方法は、外国語通訳、聴覚障害者向けの手話通訳や文字通訳がいる際の配慮にもなる。
(2)見せ方の配慮
①画面上でも「やさしい日本語」が基本
前述の「やさしい日本語」は、プレゼンで話すときだけでなく、画面や資料で文字・文章を見せるときにも役立つ。特に、図表8にあげた「情報を整理する」「文をわかりやすくする」「言葉に気を付ける」などの点は、外国人だけでなく日本人にも有効と考えられる。

②色の見分けやすさにも意識を向けて
プレゼンで示す画像や文字の色、フォントの種類・サイズなどに関しては、見やすさに関する一般的な配慮の他、色覚の多様性、弱視、発達障害や、年配者に多い老眼・白内障などへの配慮も大切である。
たとえば色覚の多様性に関しては、一般的な色覚と異なる人が日本人男性の5%(20人に1人)、女性の0.2%(500人に1人)ほどいるといわれている。にもかかわらず、プレゼンにおける色の見分けやすさに対する配慮は、必ずしも十分ではない。だが、一部の配色を変える、形状や文字など色以外の要素で区別できるようにするなど、比較的簡単な方法で見分けやすさを改善できることも多い(図表9の例を参照)。まずは色の見分けやすさを考慮する必要があるという意識が社会で高まること、そしてどう対応したらよいかという知識が普及することが望まれる(注7)。

3.「誰一人取り残さない」プレゼンが理想
以上、プレゼンにおいて多様な聞き手に対する配慮が必要な背景と、その配慮のポイントを示した。
プレゼンをおこなう前に、どのような特性の聞き手がいるかがわかっていれば、その聞き手に適した対応を考えることができるが、現実にはそれがわからないこともある。またオンラインで聞き手の姿が見えず反応もつかめない場合は、プレゼン中においても聞き手の特性や理解度を把握しづらい。そう考えると、どのような聞き手がいてもいつでも伝わるプレゼン、言い換えれば「誰一人取り残さないプレゼン」を理想として目指すべきであろう。
なお、今回はプレゼンのうち、話し手が聞き手に情報を伝えるという面のみを取り上げたが、質疑応答やワークショップのように話し手と聞き手、聞き手同士がコミュニケーションをおこなう場合の問題や、会場までのアクセスの問題などについても、別途検討する必要がある。
【注釈】
- 出典はそれぞれ以下。
新村出『広辞苑 第七版』岩波書店、2018年
松村明『大辞林 第四版』三省堂、2019年 - 最近では、D&IにEquity(公平性)を加えたDE&I、さらにJustice(正義)を加えたJDEIという概念も注目されている。それぞれ以下を参照。
白石香織「DE&Iとは?~公平性(Equity)実現が人材戦略のカギ~」2023年2月
白石香織「【1分解説】JDEIとは?」2023年6月 - 障害者雇用の制度・動向に関しては以下を参照。
水野映子「企業の障害者雇用は今 ~雇用率引き上げを背景に~」2023年2月 - オンラインコミュニケーションで「音声が途切れたり、聞こえにくくなったりすること」があると答えた割合は、2020年9月の調査では50.4%、2022年9月の調査では41.0%であった。出典は以下。
水野映子「ウィズコロナのオンラインコミュニケーション再考 ~誰もが参加できるルールづくりを~」2022年11月 - 「やさしい日本語」の概要、および日本人に対するその有効性に関しては、以下を参照。
水野映子「日本人にも役立つ『やさしい日本語』 ~外国人対応だけでないメリット~」2023年6月 - 「はっきり話す」「みじかく(短く)切って話す」「さいご(最後)まで言い切る」は、それぞれの頭文字をとって、「やさしい日本語」の「はさみの法則」とも呼ばれる。
- 色覚の多様性への対応に関しては、一般向けのマニュアル・ガイドライン類が自治体等から発行されている。たとえば以下。
神奈川県「カラーバリアフリー色使いのガイドライン サインマニュアル Ver.2」2018年
(https://www.pref.kanagawa.jp/documents/28550/signpdf.pdf)
水野 映子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。