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2022.10.19
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「高校」再生は、地方創生の鍵(2)
~高校生に期待するまち(島根県津和野町)~
稲垣 円
- 目次
島根県では、前稿(「『高校』再生は地域創生の鍵(1)」2022年8月)で紹介した隠岐島前高校の取り組みを契機に、地域と学校が連携・協働し、「地域の特色を生かした教育」として魅力化・活性化事業が始まった。本稿では、この取り組みを2011年から行う津和野町の県立津和野高校の事例から、地域にもたらされた変化について紹介し、地域と学校との連携・協働の効果について考察する。
1. 「山陰の小京都」津和野町
津和野(つわの)町は、2005年に旧津和野町と旧日原町が合併し誕生した人口約6,800人(世帯数約3,000世帯)のまちである。島根県の西端に位置し、県庁所在地の松江市からは約200km離れ、山口県萩市・阿東町に隣接する。島根県に属しているが、文化的には隣接する山口県寄りともいわれる。山間に白壁と赤瓦の家並みがつづき、西に山城の跡がみえる城下町で『山陰の小京都』と呼ばれ、明治から現在まで取り壊しや大きな開発もなく、江戸時代からの面影が今も残る。歴代藩主は産業開発と教育の振興に力を注ぎ、文豪・森鴎外や啓蒙思想家・西周、近年では絵本作家・安野光雅などの人材を輩出している。

島根県は、日本で「過疎」という言葉が使われる以前(1955年頃)から人口減少による地域の諸問題を抱えてきた。1970年代には大規模な人口流出は一旦収束したものの、都市部の景気動向に応じて社会減(人口流入よりも流出が上回る状態)が進行し、1992年からは自然増から自然減に転換している。津和野町も1980年の13,423人をピークに、この40年で人口は半減し、消滅可能性都市(注1)の一つといわれている。近くに大学がないため高校を卒業すると町外に出て行く若者も多い。
2. 魅力化・活性化事業までの流れ
こうした時代の流れの中、津和野町唯一の高校である県立津和野高校は、2002年に473名だった生徒数が2013年には155名まで減少、1学年が2クラスとなり、統廃合の危機にあった。当時、OB・OGを中心に島根県立津和野高等学校後援会(2006年)が発足し、津和野町役場内に津和野高校支援係(2010年)が設置され、部活動の支援や定期代の補助などさまざまな方面から支援が行われた。他方、同じ時期に隠岐島前高校は廃校の危機に学校・行政・地域住民が協働した「島前高校魅力化プロジェクト」に取り組み(注2)、高校進学者数や域外からの教育移住の増加等の成果を上げた。この成功がきっかけとなり、島根県教育委員会は「離島・中山間地域の高校魅力化・活性化事業実施要綱」を定め、津和野高校を含む県内8高等学校を選出し「高校魅力化・活性化事業」(以降、「魅力化事業」とする)に取り組むこととなった。一方、そこで課題になったのが、津和野高校にとっての「魅力化」とは何か、魅力化に向けた津和野高校の在り方とはどのようなものかという点である。それは先の隠岐島前高校の成功を参考にしつつも、地域の風土や文化、学校の特性も異なる津和野町で、高校としての基本的な学び(授業や部活動、進路指導)を損なわず、「地域にとって魅力があり、信頼され、支持される学校」として独自モデルを創ることでもある。その一つに、県外の生徒を積極的に受け入れる「留学」制度を設けること、そして地域の特色を生かした独自の探究学習を掲げた。そこで重要な役割を担ったのが「魅力化コーディネーター」と呼ばれる人材だ。
3. 学校と地域をつなぐ「魅力化コーディネーター」
津和野高校独自のプログラムを展開していくには、地域の人・モノ・コトといった資源を発掘し、それらをもとにプログラムを具体化しなければならない。これらの業務は、教員がやりたいと思っていても、多忙を極める教員だけで行うのは難しい。また、津和野町以外に住む教員もいるため、全員が地域の資源を把握しているとは限らない。そのような状況を踏まえ、津和野町が地域おこし協力隊の制度を利用して高校に常駐しながら魅力化事業の企画やその推進、生徒の支援を担う「魅力化コーディネーター」(以降、コーディネーター)を雇用した。コーディネーターは学校現場に入りながら、教員の要望や生徒の状態に応じて地域資源とむすびつけながら、津和野だからこそできる自己探究的な学びを創出する役割を担う。コーディネーターとなる人材は、政治学を学んできた人、米国で学び仕事をしてきた人、青年海外協力隊として発展途上国で活動していた人、都内で雑誌編集をしていた人など、バックグラウンドも多彩だ。
なぜ、このような人材が津和野町に集まるのか。コーディネーターのひとりは「地域の住民の結束力や温かさ、そこに加えてもらったらとことん面倒を見てくれるような環境に惹かれる」と述べる。
コーディネーターが住民と関わりながら活動することで、地域が少しずつ活気づき、機運の高まりが新たな挑戦を生み、さらに域外から人を惹きつける。こうした循環が、津和野町にユニークな人材が次々に集まる要因になっているのだろう。
4. 地域に開かれた魅力化事業:HAN-KOH、Tプラン
では、魅力化事業として、具体的にどのような取り組みが展開されているのだろうか。代表的な取り組みとして、町営英語塾「HAN-KOH(はんこう)」と「Tプラン(ツコウプラン)」と呼ばれる問題課題解決型学習について紹介する。
(1) HAN-KOH
「HAN-KOH(はんこう)」は、津和野高校の生徒を含めた津和野町民のために創設された無料の町営英語塾である。塾の名称「HAN-KOH」は、江戸時代に津和野藩が創設し、偉人を多数輩出した「藩校養老館」(江戸時代に、諸藩が藩士の子弟を教育するために設立した学校)の精神を受け継ぐという意味が込められている。HAN-KOHでは、コーディネーターが生徒個々に応じて、学習支援や受験対策、AO・推薦入試の指導はもとより、英語を苦手とする生徒が英語を通じて英語を学ぶことの楽しさを体験することに力を入れてきた。近年は理系の教科にも対応している。

(2) Tプラン
「Tプラン」は、教科や科目の枠を超えた横断的・総合的な授業である「総合的な探求の時間」(注3)に実施される3年間の系統プログラムである(図表2)。

Tプランは、3つの目的(①「今、ここにあるもの」に気づきそれを活かす、②自分にあったやり方で社会に関わる、③経験したことを表現する)に基づき、生徒が主体的に社会参画し、プログラムでの体験を他者と共有することで学びに変えていくことを目指す。プログラムのいくつかを紹介すると、ブリコラージュゼミ(フランス語で「日曜大学」の意味)は、津和野町の資源・人材・活動を組み合わせて年間30程度の講座をつくり、生徒が自分の興味関心に応じて選択して体験する。講座を通じて津和野町の大人と出会い、体験を通じて自己理解を深めることを目指す。「トークフォークダンス」は、生徒と地域住民が同数集まり、あるテーマについて生徒と住民が1対1の対話(注4)を繰り返していく。一般的に生徒が家族や友人・知人以外の大人と関わりを持つということは意外と少ない。ましてや地方の中山間地域にある少子化が進行する町であれば、なおさらのことである。地域住民との対話を通じて、地域への理解や愛着、そしてコミュニケーション能力を育むことを目指す。こうしたさまざまな体験学習を経て、生徒自身が取り組む「プロジェクト活動」へと学びを昇華させていく。

5.なぜ、津和野高校に「留学」するのか
津和野高校には、現在74名(2022年5月1日現在)の生徒が県外から「留学」している。その数は魅力化事業が開始されてから年々増加している(図表3)。県外の生徒はなぜ、わざわざ津和野町にやってくるのだろうか。都心で生まれ育ち、他の地域のことを知りたいと津和野町に留学した生徒。全国の地域留学できる高校を調べ、津和野高校の取り組みに惹かれ、両親を説得してやって来た生徒。ある生徒は、コロナ禍で思い描いていた学生生活を送ることができず、他の選択肢がないか調べる中で、単年留学の制度(注5)を知り、津和野高校への留学にたどり着いたという。
県外からやってきた生徒と地元生徒は同じカリキュラムで学ぶが、留学生は「いずれは帰る」ことが決まっている。ゆえに、限られた時間で「何かを形にしたい」という気持ちが強い傾向にあるという。授業だけでなく、部活動でも農園で作物をつくったり、住民から竹林を借りたり、また地域行事に参加するなど、生徒自ら地域に出て、活動する。この挑戦できる環境が県外の生徒を惹きつけ、選ばれる理由でもある。

6.高校生に期待するまち
津和野高校が取り組む魅力化事業は、県外から集まったコーディネーターがハブ的な役割を担い、地域のさまざまな住民とコミュニケーションをとり、共に創っていく事業として構成されている。地域住民もまた、「なんとかしてあげよう」と事業に関わり、高校生の挑戦を応援し、生徒もまた地域住民と深くかかわるようになる。この関係は、生徒が卒業して終わりではなく、卒業後OB・OGとして自発的に津和野町を訪れ、コーディネーターと共に生徒をサポートする者もいるという。このことからも、高校進学者数の増加という数値としての成果だけでなく、地域と若者との持続的な関係・人の循環を生み出している点も、学校と地域が連携した魅力化事業の成果といえるだろう。
このように津和野町では、約10年間の魅力化事業を経て、高校を起点とした地域に開かれた教育が行われてきた。この実績を基に今度は「まち全体が学びの場」として、乳幼児期から高校、さらにはそこに関わる大人が学びあう環境整備が重要ととらえ、「0歳から大人になっても自ら学び続けるひと」の育成に向けた取り組みが始まっている。それは次稿にて紹介したい。
【注釈】
- 少子化や人口流出により消滅する可能性のある自治体を指す。2014年に、896の市町村区が日本創成会議よって指定された。日本創成会議とは、元総務相の増田寛也氏が座長を務め、専門家や学者などの有識者で構成される民間組織。
- 隠岐諸島の島前地域にある唯一の高校(隠岐島前高校)の統廃合の危機に、島前3町村が始めた事業。学校・行政・地域住民が協働し、専門家と共にカリキュラムを考え、日本各地から入学者を募る「島留学」制度や地域課題に取り組む課題解決型の「探究学習」を構築し、高校進学率の向上や域外からの教育移住の増加などの成果を出した。この成功を機に、全国に魅力化事業が広まった。
- 2018年に改訂され順次移行が予定されている高校の学習指導要領では、従来の「総合的な学習の時間」に替わる形で「総合的な探究の時間」という科目が設けられた。「総合的な学習の時間」では、「課題解決を通じて自身の在り方を見つめる」あるいは「課題解決にいそしみつつ自身の在り方を見つめる」という部分に焦点が当てられていたが、「総合的な探究の時間」では、自身の在り方を見つめることも重視しつつ、「課題の発見と解決」に焦点を当てている。
- 向かい合って話すこと。相手の意見を聞いたり自分の意見を述べたりして、信頼関係を築く。
- しまね留学 https://shimane-ryugaku.jp/
【参考資料】
- 稲垣円「『高校』再生は、地方創生の鍵(1)~加速する、高校の『魅力化』「特色化」への動き~」2022年8月
- 稲垣円「『地域をおこす』という生き方~地域おこし協力隊、それぞれの立場で制度を生かしていくために~」2022年7月
- 津和野町ホームページ
- 津和野高校ホームページ
- 津和野高校「創立110周年記念式典」配布冊子,2018年
稲垣 円
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

