デジタル国家ウクライナ
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Web3.0の衝撃

~デジタル情報の所有が創り出す新たな世界~

柏村 祐

目次

1.期待されるWeb3.0

最近Web3.0という言葉を聞く機会が多くなっている。

このWeb3.0については、2022年6月7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022 について(骨太方針2022)」の中で、「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める。」と明記されており、日本においても注目され始めた(注1)。

Web3.0とは、インターネットを活用する革新的なデータ流通構造を表現する概念である。データの流通構造は時代の経過とともにWeb1.0、Web2.0、Web3.0と進化を遂げている。Web1.0は、インターネットが活用され始めた1990年から2000年代前半の期間に登場し、主要サービスはホームページや電子メールであったが、これらは一方通行のコミュニケーションに止まっていた。Web2.0は、2000年代後半から2020年の期間に登場している。この主要サービスは検索サービス、SNS、eコマースであり、その特徴は、双方向のコミュニケーションが可能なことである。そして、現在進行形で発展を続けるWeb3.0の世界では、プラットフォーマーや金融機関等の仲介者を介さずに個人と個人がつながり、取引を行うことができる。主要サービスとしては、暗号資産、NFT、メタバースが挙げられる(図表1)。

図表 1 デジタルの構造変化
図表 1 デジタルの構造変化

2.Web3.0登場の背景

Web2.0に続く新たなデータ流通構造として期待されるWeb3.0が登場した背景には、ブロックチェーン技術の進化がある。ブロックチェーン技術は、1つ1つの取引履歴(以下ブロック)が1本の鎖のようにつながる形で情報を記録する技術である(図表2)。過去の特定ブロックを改ざんするには、それ以降に発生した全ての取引を改ざんする必要があるが、その実行は現実的でないことから、安全性が高いデータ記録技術とされている。ブロックに記録される全データは、多数の管理者が全データのデータ台帳を同時保有することから、仮にある管理者の保有データ台帳が壊れても、他の管理者がデータ台帳を維持しているため、データ記録が途絶えることはない。

Web3.0のメリットは、このようなブロックチェーン技術を利用することにより、個人が安全にデータを所有、管理でき、国境を越えて仲介者不要で個人と個人が自由に取引を行えることにある。余計な中間手数料もかからず、Web2.0に比べてより早く、安く、安定したサービスを期待できる。

図表 2 ブロックチェーン概念図
図表 2 ブロックチェーン概念図

3.Web3.0を活用した事例

実際Web3.0にはどのような仕組みが登場しているのだろうか。

経済産業省が2022年5月19日公表した「経済秩序の激動期における経済産業政策の方向性」において、Web3.0の具体事例として、暗号資産、NFT、DAOの3項目が挙げられている。

2022年6月下旬時点における暗号資産は、約1万種類、時価総額120兆円を超えている。最も時価総額が大きいビットコインは、2009年1月3日に登場して約13年が経過した現在まで1度も改ざんされておらず、ブロックチェーン技術の安全性が高いことが証明されている。

また、NFTは、対象となるデジタルコンテンツがこの世に1つしか存在しないことを証明する「本物のしるし」といえるものだ。NFTが展開される領域は、デジタル絵画、動画、SNSのツイートまで幅広い。NFTの取引市場が拡大する中、現在期待される仕組みとして、これらを創造するクリエイターの新たな収益源の確保につながることが挙げられる。例えば、従来のアート業界における販売では、クリエイターが収益を得られる機会は最初の販売に限られる。しかしNFTにした場合、二次販売以降の取引機会において「都度」利益額の10%をクリエイターに還元するという設定をしておけば、永続的にクリエイターが収益を得られる仕組みを展開できる。例えば、クリエイターがAさんに1億円のNFT絵画を販売し、その後、AさんがBさんに1.1億円でNFT絵画を販売したとしよう。その場合、Aさんの利益である1千万円の10%である100万円がクリエイターに還元されるのである(図表3)。

図表 3 流通時のクリエイター還元の概要
図表 3 流通時のクリエイター還元の概要

また、Web3.0の世界では、DAO(Decentralized Autonomous Organizationの略で日本語は分散型自律組織)と呼ばれる従来の常識では考えることもできなかった新しい組織運営の仕組みも登場している。DAOにおいては、参加者は、組織の意思決定に関与できる機能をもつガバナンストークンを保有し、組織運営への参画が可能となる。従来の会社組織においては、所有と経営が分離しており、従業員は雇用契約により給与を受け取り、株主は配当を受け取る。一方、DAO(分散型自律組織)においては、DAO参加メンバーが所有と経営の双方を行うフラットな組織を目指しており、各自の貢献度に応じたインセンティブ設計が可能となる。

DAO(分散型自律組織)においては、従来の会社組織における意思決定方法である株主総会、取締役会、社内決定は、ガバナンストークン保有者による投票により代替される。また、組織運営に関する規律となる定款、社内規則等は、ブロックチェーン技術がもつスマートコントラクト(契約の自動執行)により代替され、財務状況の開示となる有価証券報告書、四半期報告書は、ブロックチェーン上の取引記録による代替を目指すとされている(注2)。既にDAOを法制化した事例として米ワイオミング州が挙げられる。米ワイオミング州は、2021年7月1日からDAO法を立法化しており、DAO(分散型自律組織)の実現に向けた取組が開始されている(図表4)(注3)。

図表 4 DAO の概要
図表 4 DAO の概要

4.Web3.0の可能性

以上みてきたように、Web3.0の考え方に基づく新たな仕組みは、従来の常識では考えられなかった価値を創り出している。Web2.0では、大手プラットフォーマーが取引の仲介者としての地位を独占している。一方、Web3.0では、暗号資産、NFT、DAOといった仕組みを活用することにより、個人がプラットフォーマーや金融機関のような仲介者を介さずに取引できる世界が創り出される。筆者は、このような新しいデータ流通構造の出現により、「データの所有・管理」を通じて得られる力を個人一人ひとりが発揮できる世界が到来すると考える。

残念ながら現状では、Web3.0の実装例は海外が主体となっている。例えば、ブロックチェーン技術を活用する暗号資産は、世界で既に約1万種類以上登場しているにもかかわらず、日本発の暗号資産は数える程度しか見当たらない。またNFTについても同様に、発行事業体は海外勢が主力であり、世界に通用するNFTの主要プレイヤーは日本に見当たらない。更に、DAO(分散型自律組織)については、そもそも日本では、その仕組み自体あまり知られていないだろう。

世界を見渡せば、すでに多数のWeb3.0関連事業が立ち上がっている。このままでは、GAFA等のプラットフォーマーがビジネスで飛躍を遂げたWeb2.0時代と同様に、再び日本の未来は「デジタル敗北」となる可能性が高いだろう。

技術として確立している暗号資産、NFT、DAOの特徴を活かした「世界に通じるWeb3.0の世界を創り出すこと」が、日本の「デジタル勝利」につなげるために最優先で取り組むべき対応策ではないだろうか。


柏村 祐

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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