ニューノーマルと「騒音」(2)

~With/Afterコロナにおける「音」との付き合い方~

稲垣 円

目次

前回「ニューノーマルと『騒音』(1)」では、2021年度に松戸市と一般社団法人地方自治研究機構が実施した「新しい生活様式下における生活騒音等への対応に向けた調査研究」(注1)の結果から、コロナ禍における騒音の実態について述べた。本稿では、調査結果からどのような属性が近隣の音に対して迷惑や不快と感じる傾向があるのか、また松戸市民の「音の体験」について紹介しながら、With/Afterコロナにおける音との付き合い方について考察する。

1. 「迷惑と感じる音」、「気になる音」を経験した属性とは

図表1は、「ニューノーマルと『騒音』(1)」で紹介した松戸市民の騒音に対する経験(近隣から迷惑と感じる音や気になる音の発生を経験した)である。近隣から「迷惑と感じた音がある」は28.2%、「迷惑と言うほどではないが、気になる音はある」は30.1%であり、半数以上が近隣から発せられる何かしらの音に迷惑だと感じる経験をしている。以下では、これらの結果を属性別に集計し、その特徴について明らかにしていく。

図表 1 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生
図表 1 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生

(1) 年齢別

年齢別にみると(図表2)、「迷惑と感じた音がある」を回答した人の割合は29歳以下、30~39歳以下は30%前半であったのに対し、40~49歳(35.9%)、50~59歳(38.3%)は30%後半で他の年齢層よりも高い割合であった。他方、60歳以上になると割合が少なくなり、「迷惑と感じる音も気になる音も特にない」と回答する割合が増えていることがわかる。

図表 2 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生(年齢別)
図表 2 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生(年齢別)

(2) 住居形態別

次に住居形態別である(図表3)。「迷惑と感じた音がある」を回答した人の割合を住居形態別にみると、「民間の賃貸住宅(マンション)」(41.3%)、「民間の賃貸住宅(アパート)」(38.4%)といった集合住宅が、他の住居形態よりも高い傾向にあった。それに対して、一戸建て(持ち家、民間の賃貸住宅共に)は、「迷惑と感じる音も気になる音も特にない」の割合が相対的に高い(持ち家の一戸建て45.9%、民間賃貸住宅の一戸建て57.1%)。この要因として、戸建ては独立しているため、多少の生活音程度では集合住宅のように接近した隣人の生活音が気になることはないことが容易に想像できるだろう。また、近所づきあいの側面からみると、本調査結果から集合住宅では近所付き合いの状態が他の住居形態と比較して「まったく付き合いがない」割合が高いことがわかっており(図表省略、注2)、あいさつ程度であっても隣人とのかかわりがあるかどうかによって、「音」への感じ方が異なるのではないかとも考えることが出来る。

図表 3 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生(住居形態別)
図表 3 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生(住居形態別)

(3) 職業別

職業別ではどうだろうか(図表4)。「迷惑と感じた音がある」を回答した人の割合を職業別にみると、会社員(35.7%)、学生(35.2%)が他の属性に比べ、割合が高い傾向にあった。これに対して、無職は「迷惑と感じる音も気になる音も特にない」が50.4%であった。加えて、在宅勤務、在宅授業の実施有無別にみると(図表5)、在宅勤務、在宅授業を実施していた人の方が、実施していない人に比べて「迷惑と感じた音や気になる音を経験した」割合が9ポイント程度高い結果となった。

図表 4 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生(住居形態別)
図表 4 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生(住居形態別)

図表 5 在宅勤務、在宅授業の実施の有無による経験
図表 5 在宅勤務、在宅授業の実施の有無による経験

以上の調査結果を整理すると、近隣からの迷惑と感じる音や気になる音を経験した人が相対的に多い属性の特徴が浮かび上がる。

  • 年齢:40~49歳、50~59歳
  • 住居形態:集合住宅(持ち家・賃貸)※近所づきあいは全くないケースが多い
  • 職業:会社員、学生 
  • 勤務形態:在宅勤務、在宅授業を実施している人

本調査は松戸市民を対象にしたものであるため限定的な結果であるが、コロナ禍で半ば強制的に始まった自粛生活により生活スタイルが大きく変わったことで、これまで平日日中をあまり自宅で過ごしてこなかった層が耳慣れない近隣の生活音に対してネガティブな気づきを得ていたことがわかる。

2. 相談した相手

では、「迷惑と感じた音や気になる音を経験した」人たちは誰に相談したのか。

図表1に示した「迷惑と感じた」または「気になる」音を経験した58.3%のうち、実際に「問題と感じ、音の発生をなくすための対応をした」人は、12.7%である(図表省略、注3)。何らかの対応をするためには、関係者等に相談することになると思われるが、相談相手として最も多かったのが「集合住宅の組合管理会社・管理人等の住居の管理に関連する個人・団体」(39.3%)、続いて「家族や知人に相談した」(27.7%)「誰にも相談しなかった」(25.9%)であった(図表6)。

この結果からもわかるように、住居で何かあった場合は管理人等の住居管理に関連する人へ連絡するのが一般的であることがわかる。次点の「家族や知人に相談した」ケースでも、まず家族などの身近な人にどのように対応すべきか相談し、その状況に応じて、次の段階として住居の管理に関連する個人・団体や他の先へ連絡するという、連続した行動の可能性も考えられるだろう。

一方で、4分1は「誰にも相談しなかった」(25.9%)と回答しており、その理由をみると、「自力で解決できると思っていたため」、「余計なもめごとを抱えることを避けたいため」との回答が多い(図表省略)。自分で部屋を遮音仕様に修繕したり、当事者同士で合意形成したりできればそれに越したことはない。しかし、現実には、他者へ相談することでさえもめごとの原因になり得る、という認識があり、いかに「音」の問題が表面化しにくい課題を孕んでいるかということが垣間見える。

図表 6 相談した相手
図表 6 相談した相手

3. 「心地よい」と感じた音

他方、生活音を発せずに暮らしていくことは難しいし、それらが忌み嫌われるものばかりではないことも私たちは知っておく必要がある。本調査結果からは、緊急事態宣言の発令以降、改めて「心地よい」「良い印象」を持たれた音があることもわかっている(図表7)。例えば、「鳥のさえずり」(56.4%)や「虫の鳴き声」(36.8%)といった自然の音が、心地よい、良い印象を持たれている(注4)。帰宅時間を知らせる「よい子の放送」(28.5%)と聞くと懐かしいと思う人もいるかもしれないが、こうした音に対しても一定程度の人が「心地よい」と感じている。恐らく毎日定時に流れる放送が「習慣」として市民に認知され、定着しているということだろう。加えて、前稿(「ニューノーマルと『騒音』(1)」)では、近隣から迷惑と感じる音や気になる音の種類で割合が高かった子どもの声でさえも、実は4人に1人は心地よい音として捉えていることがわかる(27.2%)。このように、耳にした音が「心地よい音」なのか、または「不快な音」なのかは、音が発生する状況(時間、頻度、場所、発する人・モノ・コト等)や誰がその音を聞くか、そして音を発生する側との関わり方によっても左右される。

そうであるならば、在宅時間の増加により生活音に触れる機会も増すWith/Afterコロナ時代に、私たちはどのように「音」に向き合ってゆけば良いのだろうか。

図表 7 心地よいと感じた音、良い印象の音
図表 7 心地よいと感じた音、良い印象の音

4. With/Afterコロナにおける音との付き合い方

私たちは音を発することなしに日常生活を送ることはできない。しかし、音について隣や上下階への影響を気にしながら暮らすというのもQOLの高い生活とは言い難い。

先の結果から、迷惑や気になる音を耳にしても「もめごとを避けたい」がために対応しない、誰にも相談しないケースが存在した。こうした表面化していない潜在的な層に向けた積極的な情報提供が必要であろう。大都市圏のいくつかの自治体では、ホームページやパンフレット等による生活騒音に関する情報の提供が行われている(注5)。しかし、昨今の生活者の情報収集や連絡手段としてSNSが主流であることから、こうしたソーシャルメディアを活用した双方向性は、今後求められていくだろう(注6)。

相談する相手として割合が高かった「住居の管理に関連する個人・団体」と自治体との連携も重要だ。市民が真っ先に頼る相手に対して、自治体から生活騒音の現状や対応を説明する機会を設けることや、生活騒音マニュアル等を提供するなどの情報共有・連携によって、トラブルを回避できるのではないか。

また、すでに問題化している騒音に対応することも重要だが、図表7で示したように、生活音は必ずしもネガティブな要素だけではない。在宅時間が増えた今だからこそ、自身の住まい(戸建てか集合住宅か、持ち家か賃貸か等)や地域の特性に改めて目を向け(学校や保育園、幼稚園など子どもが日常的に集まる場があるか、公園や自然に近いか、道路の側か、商業施設・娯楽施設が近くにあるのか・・・等)、発生しうる音を知ることや、自分の住むまちの「心地よい音」を探すといった機会(音体験)を普及させていくことは、生活音を理解する一つの方法となるだろう。

加えて、隣近所や上下階の住民との関係をいかに「風通し」を良いものに出来るか、という点も改めて考える必要があるのではないか。これから隣近所と濃密な関係性をつくらなければと思うと途端に面倒に感じるが、あいさつ程度の間柄であっても誰が住んでいるのか知っていれば、こうした関係の中で発生する音への許容や配慮も生まれやすい(今日も元気に走り回ってるな、楽器の練習を始めたんだな、この時間は気を付けよう・・・と思えるようになるかもしれない)。そして、円滑な近隣関係のために仲介する「住居の管理に関連する個人・団体」の役割も引き続き重要である。

新型コロナウイルス感染拡大を機に、私たちの暮らしは大きく変化した。この変化を単なる生活様式の変化とするだけでなく、私たちの認識も同時に更新してゆかなければならない。暮らす場としての住まいや地域について関心を持ち、自ら働きかけ、場合によっては変えていくといった捉え直しをしていくことが、今後はより一層求められていくだろう。


【注釈】
1)調査概要は次の通り。

  • 調査名:コロナ禍等による生活の変化と生活音に関するアンケート調査
  • 調査対象:人口、地域に関する構成を考慮した上で抽出された、松戸市在住の18歳以上の男女3,000名
  • 回答方法:調査票(用紙)への回答、QRコードの誘導によるWeb回答
  • 調査時期:2021年10月28日~11月18日、Web終了11月21日
  • 回収状況:回収1,516、回収率:50.5%

2)隣近所との付き合いが「まったく付き合いはない」割合:「持ち家の一戸建て」0.9%(n=857)、「持ち家の集合住宅」(マンション)4.5%(n=295)、「民間の賃貸住宅(一戸建て)」14.3%(n=14)、「民間の賃貸住宅(アパート)」34.8%(n=164)、「民間の賃貸住宅(マンション)」23.9%(n=92)、「公営住宅」14.0%(n=43)、「社宅」37.0%(n=27)、「その他の集合住宅」26.3%(n=19)
3)迷惑と感じた音や気になる音を問題と感じ、その音を発生しなくするための対応の有無: 「問題と感じ、音の発生をなくすための対応をした」12.7%(n=112)、「問題と感じたが、音の発生をなくすための対応をしなかった」45.8%(n=404)、「問題と感じておらず、音の発生をなくすための対応を必要とするほどのものではなかった」37.6%(n=332)、「無回答」4.0%(n=35)
4)特に松戸市内でも比較的自然環境に恵まれている地区で高い割合を示していることがわかっている。
5)「新しい生活様式下における生活騒音等への対応に向けた調査研究」第4章地方公共団体ヒアリング調査より
6)近所づきあいを全くしない層にも、こうしたSNSを通じた情報提供は有効であろう。

【参考資料】

稲垣 円

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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