ニューノーマルと「騒音」(1)

~新型コロナ感染拡大で生まれた、「見えない」生活課題~

稲垣 円

目次

「騒音」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。 隣や上階の住人の話し声や物音、外から聞こえる車やバイクの音、動物の鳴き声、子どもの遊び声や泣き声、深夜の酔っぱらいの声、屋外に設置されている機器から発せられる音、何の音かわからないがとにかく不快と感じることもあるかもしれない。生活の中で私たちが「耳障りだ」と感じる音は多様で、何を不快とするかは人によって異なる。行政上の定義としては、図表1に示すように「不快な音」であり、中でも「音量の大きい音」は法律や条例での規制対象とされている。とはいえ、「不快」という感覚は主観的なもので、時代や地域によっても変化するため、明確に定義するのが難しい。唯一言えることは、「騒音」は基本的には人が作用した結果によるものだ、ということである。

コロナ禍で騒音の苦情が増えたと言われる。在宅勤務・授業の普及、休園・休校によって在宅時間が増えた結果、日中の耳慣れない音が気になるようになり、「不快」だと感じるケースが増えているということだろう。しかし、人が作り出したものであるなら、その実態や要因を知り、どのような選択肢があるのかを知ることで不快感を軽減させることもできるかもしれない。

本稿と次回では、筆者が委員として参加した「松戸市新しい生活様式下における生活騒音等への対応に向けた調査研究」(注1)の結果から、コロナ禍における生活騒音の実態とWithコロナにおける「音」との付き合い方について考えていく。

図表 1 音の分類
図表 1 音の分類

1. 騒音への国の規制 

「騒音」は、第二次世界大戦後の産業の発展を機に、大気や水質等と並んで日常生活の身近な「公害」として認識されるようになった。

「騒音規制法」が施行されたのは1968年(昭和43年)である。高度経済成長の只中である1967年(昭和42年)に、公害対策を総合的に行うために「公害対策基本法」が制定された。これは四大公害病(注2)と呼ばれる公害の発生により、市民レベルで意識が高まったことを受けて制定された。騒音も、この時期に工場等の設置や建設作業、物資の生産・輸送等で発せられる音が問題となり、全国各地で騒音規制条例が制定されていった。「騒音規制法」の制定は、地域的な課題から全国的な課題として規制基準や手続きの統一を図ることが目的であった。1970年代後半になると、一般家庭から発せられる「生活騒音」や「営業騒音」に対する苦情が増加したことから、カラオケ騒音や商業宣伝等の拡声器騒音等を対象にモデル条例の策定やマニュアル等が作成された。また、工場の大型機械や高速道路高架橋等から発せられる低周波音(音の中でも特に低い音や音として聞こえないものもある)による建具のがたつき等の物的苦情や、圧迫感・振動感等の心身苦情が増加し、低周波音に関する測定方法、マニュアル・事例集などの整備も進められた。

近年では、法令等が整備されたことや住宅の遮音性能が向上したことにより、大きな音に対する苦情は減少傾向にある。他方で、住宅の室内が静かになったことで、近隣の住宅や店舗に設置された空調室外機や家庭用ボイラー、冷凍庫等の身近な設備機器からの低周波音・騒音や小さいけれど気になる音による違和感や不快感等の苦情が増加している。日常生活で発せられる音は多様で(図表2)、時と場合によって、人の話し声でさえ「騒音」源になり得ることもある。

図表 2 さまざまな日常生活音
図表 2 さまざまな日常生活音

2. 松戸市の概要

本調査の対象地である松戸市を紹介する。松戸市は、千葉県北西部に位置し、東京都心から20㎞の圏域にある人口約50万人の市である。6本の鉄道が走り、都心及び市内外の地域を結ぶ。特に都心へのアクセスも良く、首都圏のベッドタウンとして位置付けられている(図表3)。 

人口動態をみると(図表4)、2014年以降「転入」が「転出」を上回り、社会増加がプラスに転じている。年齢・居住期間別人口別では(図表5)、「25~29歳」「30~34歳」「35~39歳」は居住期間が「1年未満」、「1年以上5年未満」の割合が高く、転入する年齢層もこれらの世代が多い(25歳を境に、出生時から居住している割合が10%以下となっている)。他方、40歳以降の年齢層では居住期間が「10年以上20年未満」「20年以上」の割合が高くなり、特に50歳以降ではその割合が半数を占める。また世帯構成では、単身世帯の割合が全国平均と比較して高い傾向にある。先述の通り、首都圏のベッドタウンとしての性格も有しているため、夜間人口が昼間人口よりも大きく、1980年以降は夜間人口に対する昼間人口の割合は80%前後で推移している。しかし、新型コロナウイルス感染拡大による働き方の変化により、今後は昼間人口が増加していく可能性がある。

図表 3 松戸市の位置
図表 3 松戸市の位置

図表 4 松戸市の転入および転出の推移
図表 4 松戸市の転入および転出の推移

図表 5 松戸市の年齢・居住期間別人口
図表 5 松戸市の年齢・居住期間別人口

3. 松戸市民の騒音経験

では、コロナ禍の騒音事情はどのようなものだったのだろうか。図表6は、松戸市の2019年(令和元年)から2021年(令和3年)8月までの苦情相談受付の集計である。新型コロナウイルス感染拡大前後の2019年と2020年を比較すると、感染拡大が始まった2020年4月以降、明らかに受付件数が増加していることがわかる。特に緊急事態宣言が発令された2020年4~5月は、「不要不急の外出」の自粛が全国的に要請された時期であり、在宅勤務や一斉休校・休園等に対応した。併せて、こうした自粛期間が長期化したことも苦情相談受付件数が増加した要因であると考えられる。

図表 6 苦情相談受付の月別件数の推移
図表 6 苦情相談受付の月別件数の推移

具体的な松戸市民の騒音に対する経験(近隣から迷惑と感じる音や気になる音の発生を経験した)の有無をみると(図表7)、近隣から「迷惑と感じた音がある」は28.2%、「迷惑と言うほどではないが、気になる音はある」は30.1%であり、半数以上が近隣から発せられる音が気になる経験をしている。

では、どのような「音」に対して迷惑だと感じているのか(図表8中の①)というと、最も多かったのは「自動車やバイクの空ぶかし・アイドリングの音」(36.1%)、次に「よくわからないが、とにかく迷惑と感じたり気になったりする音」(32.0%)、「住人(大人)の話し声」(25.1%)が続いた。コロナ前後の変化を見ると(図表8中の②)、100サンプル以上の回答に限って言えば、コロナ流行以前と比較して「ろうか・階段・ベランダ等を歩く際の音」「住民(子ども)の話し声」を迷惑や気になる音として回答する割合が高かった。

コロナ以前には、多くの時間を職場や学校で過ごしていた人びとにとって、外出自粛期間はさまざまな生活音に気づく機会でもあった。こうした中で、聞きなれない音を「不快」だと感じた人が少なくなかったことがわかる。

図表 7 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生
図表 7 近隣からの迷惑と感じる音や気になる音の発生

図表 8 近隣から迷惑と感じる音や気になる音の種類
図表 8 近隣から迷惑と感じる音や気になる音の種類

4. 迷惑だけど、我慢する

一方で、図表7で示した迷惑だと感じる音や気になる音を経験した人(n=883)のうち、実際に「問題と感じ、音の発生をなくすための対応をした」人は12.7%(n=112)であり、45.8%(n=404)は「問題と感じたが、音の発生をなくすための対応をしなかった」と回答している(図表9)。この対応をしなかった回答者に理由を尋ねたところ、約6割が「近隣の個人や企業ともめることが嫌だったため」と回答した(図表10)。  

このように、たとえ近隣の音を「迷惑」や「気になる」と感じていても、不快な音への対応は単に音を小さく/消すだけでは済まない、「人が発する音」であるがゆえの難しさがある。

図表 9 迷惑と感じた音や気になる音への対応
図表 9 迷惑と感じた音や気になる音への対応

図表 10 音の発生をなくための対応をしなかった理由
図表 10 音の発生をなくための対応をしなかった理由

5. 職住一体化の時代は、音を知り・音と付き合う時代

新型コロナウイルス感染症の拡大から2年を経て、新しい局面に入ったと言われる。重症化リスクが比較的低い変異株の流行下では、社会活動を完全に止めるのではなく、経済活動とのバランスを重視することに軸足を移す方向性が示された。感染回避の習慣が身に付き、オフィスワーク回帰の傾向や教育現場においても対面での授業が復活している。「なぜ、人はオフィスに戻るのか」(2022年2月)で述べたように、東京周辺の都市への転入超過傾向もあることから、松戸市のような東京へ通勤する人が多い都市は、より一層「職住一体」の場として位置づけられていくだろう。それは同時に、「音」への対応も避けては通れないということを意味する。

先述したように、騒音の問題が「不快」や「迷惑」と感じる一方で、「もめごとは避けたい」と思う心理状況が生まれるのは、それが音の大きさや建物を何とかすれば済むことではなく、人間関係を左右する(時に悪化させる可能性を含む)問題だと認識されているからである。さらに、現代は隣近所との付き合いは「あいさつ程度」が主流である。松戸市のように、人の入れ替えが頻繁な地域では、居住者同士の信頼関係を構築していくことは容易ではないだろう。一方で「不快」や「迷惑」な音の発生をそのままにすれば、見知らぬ相手に不信感や怒り、恐れだけが募る。

今後、職住一体化がゆるやかにでも進む社会において、自分の暮らす場の特性や日常にあふれる「音」について意識を向けることや、「不快」や「迷惑」な音に対して、どのような対処の方法があり得るかを知っておくことは、ネガティブな感情を減らす一つの方法になるのではないか。

次稿では、松戸市の調査結果から、コロナ禍においてどのような属性の人が近隣の音に対して迷惑や不快と感じていたのかを分析し、また松戸市民の「音の体験」について紹介しながら、With/Afterコロナにおける音との付き合い方を考察していく。


【注釈】
1)調査概要は次の通り。

  • 調査名:コロナ禍等による生活の変化と生活音に関するアンケート調査
  • 調査対象:人口、地域に関する構成を考慮した上で抽出された、松戸市在住の18歳以上の男女3,000名
  • 回答方法:調査票(用紙)への回答、QRコードの誘導によるWeb回答
  • 調査時期:2021年10月28日~11月18日、Web終了11月21日
  • 回収状況:回収1,516、回収率:50.5%

2)水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく。

【参考資料】

稲垣 円

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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