インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

雇用悪化でRBAの早期利上げ観測後退も、豪ドル相場はどうなる?

~物価上昇リスクは山積、年内の追加利上げ可能性は残ることに要注意~

西濵 徹

要旨
  • このところの豪ドルは、米国の利上げ観測後退や米ドル高の一服、さらにRBAが追加利上げの可能性を示すタカ派姿勢を維持したことから、対米ドル・対円で堅調に推移してきた。

  • 一方、オーストラリアではインフレ率が依然としてRBAの目標レンジを上回るものの、コアインフレ率はRBAの予想を下回った。また、7月の雇用統計では失業率の上昇、雇用者数や労働時間、労働参加率の低下がみられ、労働市場が緩みつつあることが示された。このため、市場ではRBAが早期に追加利上げする可能性は低いとの見方が強まることで、当面の豪ドルの上値は抑えられやすくなっている。

  • ただし、雇用統計は月ごとの振れが大きく、RBAも労働市場はなおやや引き締まっているとみている。加えて、原油高によるエネルギーインフレや、エルニーニョによる農作物への悪影響など、物価を押し上げるリスクも残る。このため、RBAが年内に再利上げする可能性は否定できず、当面の豪ドル相場は上値が重い一方、下値も限定的な展開が見込まれる。

このところの金融市場においては、豪ドル相場が堅調な動きをみせてきた(図1)。背景には、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げ観測の後退に加え、米国と日本による協調介入を受けて米ドル高の動きに一服感が出たことがある。さらに、RBA(オーストラリア準備銀行)は8月の定例理事会で2会合連続の金利据え置きを決定したものの、会合後の記者会見においてブロック総裁が追加利上げの可能性に言及するなど「タカ派」姿勢を強調した(注1)。金融市場においては、米国とオーストラリアの金融政策の方向性の違いが意識された。金融政策を巡る見方という観点では、豪ドルが日本円に対しても強含む一因になってきた。

図表
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一方で、同総裁は金融政策の決定に当たって「データと見通し、リスク評価を注視する」との見方を示しており、金融市場においては経済指標の動きに左右される展開もみられる。2024年の中銀法改正により、RBAの金融政策は、物価安定と完全雇用の維持という「デュアルマンデート」に基づいて運営されている。このため、市場では物価統計と雇用統計の動きがとりわけ注目される。

7月末に公表された4-6月のインフレ率は、原油高の一服を受けて前年比+4.0%と前期(同+4.1%)からわずかに鈍化したものの、4四半期連続でRBAが定める目標レンジ(2~3%)を上回る伸びとなった(図2)(注2)。一方で、コアインフレ率は前年比+3.6%と前期(同+3.5%)からわずかに加速したものの、RBAが5月の定例理事会で示した見通し(同+3.8%)を下回った。その後の金融市場ではRBAによる利上げ観測が後退するとの見方が広がりをみせた。しかし、前述のようにRBAは追加利上げを強く意識する姿勢を示したため、その後の豪ドル相場が強含むことにつながった。

図表
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こうしたなか、7月の失業率(季調済)は4.5%と前月(4.4%)からわずかに悪化した(図3)。失業者数は前月比+0.4万人と前月(同+1.2万人)から2ヵ月連続で増加しており、雇用形態別ではパートタイム就業を希望する失業者数(同▲0.2万人)は減少する一方、フルタイム就業を希望する失業者数(同+0.6万人)の増加が失業者数全体を押し上げている。雇用者数は前月比▲1.6万人と前月(同+8.0万人)から3ヵ月ぶりの減少に転じており、フルタイム雇用者数(同+1.6万人)は3ヵ月連続で増加する一方、パートタイム雇用者数(同▲3.2万人)の減少が雇用全体の足を引っ張った。この結果、総労働時間も前月比▲0.6%となった。労働力人口も前月比▲1.2万人と前月(同+9.2万人)から3ヵ月ぶりの減少に転じており、労働参加率は66.9%と前月(67.0%)からわずかに低下している。よって、労働市場の緩みが広がっている可能性が示唆される。

図表
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当面の金融市場においてはRBAが早期に追加利上げに動く可能性は低いとの見方を反映して、豪ドル相場の上値が抑えられる展開が見込まれる。ただし、月次の雇用統計は変動が大きいうえ、今回も過去の数値が遡及改定されており、単月の結果には幅を持ってみる必要がある。RBAも、労働市場は緩和しつつあるものの、なおやや引き締まった状態にあると評価している。足元ではイラン情勢の長期化による原油高が長引く可能性が高まっており、エネルギーインフレが続くことが懸念される。さらに、エルニーニョ現象の発生を受けて、東部・北部では少雨、南部では高温となる可能性が高く、主力作物である小麦・大麦・菜種などの生産に悪影響が出るなど、望ましくない物価上振れ要因となることも考えられる。RBAが年内にも再利上げに動く可能性は排除できず、豪ドル相場の下値は限定的と見込まれることには注意が必要であろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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