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- ブレグジット投票から10年
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- 英国がEU離脱を決断した国民投票から10年が経つ。離脱後の英国の経済・社会・政治は混乱が続いている。より豊かで、安全で、開かれた国になると訴えた離脱派の主張は実現していない。経済の地盤沈下が進み、社会の分断や政治不信も広がっている。こうした離脱後の厳しい現実を目の当たりにし、英国民の間で離脱への後悔が広がっている。最近の世論調査では、英国民の半数以上がEUへの再加盟を支持するが、離脱以前の英国に認められた特別扱いなしの再加盟を支持する割合は30%台にとどまる。移民増加に対する警戒も根強い。再加盟を急げば、リフォームUKの支持を高める恐れもある。EU再加盟への道のりは険しい。
世界に激震が広がった英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)の是非を問う国民投票から、6月23日で10年が経過する。EUの厳しすぎる規制や予算負担から解放され、国家主権を回復し、かつての誇りと栄光を取り戻すと訴えた離脱派の主張は、必ずしも実現していない。離脱後の厳しい現実を目の当たりにし、一部の英国民の間でブレグジットに対する後悔の念が広がっている。離脱が「間違いだった」との回答者の割合は、国民投票の約1年後には「正しかった」との回答を逆転し、最近では57%に達する(図表1)。「EUへの再加盟」を支持する割合は55%に達し、2016年の国民投票で残留に投票した回答者の83%ばかりでなく、離脱に投票した回答者の23%が再加盟を支持している(図表2)。
離脱後の英国の経済・社会・政治は混乱続きだった。EUとの厳しい交渉の末に英国がEUを正式に離脱したのは2020年1月31日だった。短い移行期間を経て、2021年1月1日に新たな英EU関係が開始された。これは丁度、新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大(パンデミック)が英国を襲った時期と重なる。感染防止を目指した都市封鎖(ロックダウン)の影響で、経済活動が停止した。その後も、ロシアによるウクライナ侵攻後の資源価格の高騰に端を発した歴史的な物価高(生計費危機)や、財源の裏付けがない大型減税の発表による金融市場の動揺(トラスショック)などに見舞われてきた。
若年層や都市部で残留支持が多かった一方、高齢者や地方では離脱支持が優勢で、世代間・地域間の分断が深まった。離脱支持者の間では、移民の増加が、賃金低迷や失職、福祉の削減、住宅不足、国民保健サービス(NHS)の待機時間長期化、生活水準の悪化などを招いているとの批判もある。離脱後はEUからの移民の流入が激減する一方で、EU域外からの移民の流入が急増している。移民が関与する犯罪の発生を受け、移民や少数民族を標的としたヘイトクライムが増加するなど、移民問題は引き続き英国社会を揺るがしている。
政治の混乱も続いた。この10年弱で5人の首相が交代し、国民の政治不信が広がった。2024年の総選挙で14年振りに労働党政権が誕生したが、厳しい財政制約の下で大胆な改革を打ち出すことができずに支持率が急落している。スターマー首相の辞任も時間の問題とみられている。保守党と労働党の二大政党に対する失望が広がるなか、移民抑制や反エリート主義を掲げる右派ポピュリスト政党・リフォームUKが政権奪取の機会を窺っているほか、左派や環境主義者の受け皿として緑の党が勢力を伸ばしている。
離脱後の英国経済は地盤沈下が進んでいる。離脱に際してEUと交わした貿易協力協定(TCA)に基づき、EU諸国との間で関税なしの物品貿易を続けているが、原産地規則の確認、動植物の検疫、各種認証手続きなどが必要となり、企業の事務負担やコストが大幅に増加した。中小企業の間ではEUとの貿易取引を断念するケースもみられる。離脱前の英国は、欧州市場への玄関口として多くの多国籍企業が進出していた。規制調和や単一免許(シングルパスポート)の特権を失った結果、一部の企業はEU市場へのアクセスを重視し、EU域内に拠点を移した。
もっとも、離脱後も英国の金融業や専門サービス業は一定の競争力を保っており、高い専門性、人材の厚み、英語圏であるなどの強みを活かし、EU域内・域外の双方向けに高付加価値のサービスを提供し続けている。離脱後の英国は、EU以外の国・地域との貿易関係の強化にも取り組んでいる。日本も加わる環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)への正式加盟を果たしたほか、オーストラリア、ニュージーランド、インドなどとも新たに貿易協定を締結した。EUが手薄だったアジア太平洋地域での貿易プレゼンスの拡大につながる取り組みとして評価できる。ただ、EUもその後、これらの国の多くと貿易協定を締結し、英国がEUよりも有利な条件で貿易活動を行う余地は限られよう。
離脱前の英国は、単一通貨ユーロ導入の適用除外(オプトアウト)、EU予算拠出金の一部減額(還付)、一部のEUの政策の部分参加などの特別扱いが認められていた。EUは英国の再加盟を歓迎するとしながらも、特別扱いはしないと明言している。英国民の半数以上がEUへの再加盟を支持しているが、離脱以前の特別扱いなしのEU再加盟を支持する割合は30%台にとどまる(図表3)。また、EU再加盟により英国の貿易活動、企業活動、安全保障、世界での影響力などが改善するとの見方が多い一方、移民の更なる流入増加を警戒する声も根強い(図表4)。次期首相に就任する可能性が高いバーナム氏はEU再加盟を支持するが、具体的な時期を明言することは避けている。労働党支持者の15%はEUへの再加盟に反対している。安易にEU再加盟を進めれば、次の総選挙に向けてリフォームUKを勢いづかせることにもなりかねない。EUへの再加盟を求める世論が高まっているが、その道のりは険しい。




田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

