内外経済ウォッチ『米国~トランプ関税のインフレ懸念でFRBは後手に回る恐れ~』(2025年5月号)

桂畑 誠治

目次

大規模なトランプ関税発動

トランプ2.0では、一方的な関税賦課、いわゆる“トランプ関税”の発動が続いている。2月に、中国からの製品輸入に10%の関税を賦課した。3月に、中国からの製品輸入に10%上乗せした他、カナダ、メキシコからの一部の輸入製品に25%、鉄鋼・アルミニウム輸入に25%の関税を課した。4月3日に自動車に25%の関税、5日に10%の相互関税、9日に上乗せ関税を課した。これらの関税賦課に対して、中国など一部の国は報復関税や輸出規制などの対抗措置を取った。今後、相互関税の上乗せ分に関しては、交渉で引き下げられる可能性がある一方、交渉決裂によって相手国が対抗措置を取れば、米国は関税をさらに上乗せする可能性が高い。また、トランプ政権は、自動車部品、半導体、医薬品、木材、銅などへの関税賦課を予定しており、当面不透明感の強い状況が続こう。

米経済は、悪天候や不確実性の高まりを受けた採用や投資の抑制などによって減速しているものの、基調としては堅調さを維持している。労働市場は、3月の非農業部門雇用者数が前月差+22.8万人と堅調さを維持し、失業率は4.2%と低い水準にとどまった。一方、インフレは、2月にPCEコアデフレーターが前年同月比+2.8%(1月+2.7%)と下げ渋っている。

このような中、FRBは、1、3月の2会合連続で政策金利を据え置いた。トランプ2.0で不確実性が高まっていることで、様子見姿勢が適切と判断した。

図表
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FRBは労働市場の悪化後に利下げ再開か

パウエルFRB議長は、相互関税公表後の講演で「不確実性は依然として高い状態だが、関税引き上げは想定よりもかなり大幅になることが明らかになりつつある」と説明したうえで、インフレ率の上昇や成長率の鈍化が想定よりも大きくなるとの見方を示した。それでも、FRBは政策スタンスの調整を検討する前に、状況がより明確になるまで様子見できるとの見方を維持した。

パウエル議長は、「FRBの責務は長期のインフレ期待をしっかりと安定させ、価格水準の一時的な上昇が持続的なインフレの問題に発展しないようにすること」と、関税がインフレ率を押し上げ、景気を悪化させる可能性が高いが、インフレ率の上昇を一時的なものにとどめることが重要との見方を示した。

インフレ率が上昇するもとで、利下げを急げば早期に景気が強まり、高インフレが定着するリスクがあるため、今局面でFRBは予防的な利下げを実施できないだろう。このため、利下げは後手に回り、景気や労働市場の悪化後となる可能性が高く、FRBは大幅な利下げを実施せざるを得ないだろう。

図表
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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