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2024.11.21
アジア経済
タイ経済
為替
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~タイの金融政策を巡る政府と中銀の対立は「バーツ相場」が焦点に~』(2024年12月号)
西濵 徹
足下のインフレは中銀目標を下回る推移が続く
タイでは、10月末にピチャイ財務相と中銀のセタプット総裁による会談が行われた。タイ経済はASEAN主要国のなかでコロナ禍からの回復が最も遅れる展開が続いている。他方、ここ数年のタイではコロナ禍一巡による経済活動の正常化や商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨バーツ安による輸入インフレも重なる形でインフレが大きく上振れした。よって、中銀は物価と為替の安定を目的に累計200bpの利上げに動いたこともあり、一時は約14年ぶりの水準に昂進したインフレは、商品高の一巡も重なる形で頭打ちに転じるとともに、プラユット元政権が実施したエネルギー補助金の効果も重なり下振れした。
足下のインフレは中銀目標を下回る推移が続くなど落ち着いた動きをみせる一方、国際金融市場では米ドル高を受けたバーツ安懸念がくすぶる展開が続いた。さらに、昨年の総選挙を経て発足した『タクシン派』のセター前政権がデジタルウォレットによる現金給付を公約に掲げたほか、景気の失速を警戒して中銀に利下げを要求するなど『圧力』を掛ける動きをみせた。しかし、中銀はセター前政権が計画する一連のバラ撒き政策が家計債務のさらなる増大を招くとともに、インフレ圧力を増幅させるほか、クラウディング・アウトを通じて金利上昇を招くことを警戒して利下げに及び腰の対応をみせるなど慎重姿勢を維持してきた。

「バーツ相場」の見方が金融政策を巡る焦点に
8月には、セター前首相の失職を受けて同じタクシン派のペートンタン政権が誕生したものの、ペートンタン氏もセター氏同様に早期の景気回復を実現すべく中銀に利下げを要求した。中銀はバーツ安を警戒して引き締め姿勢を維持したが、国際金融市場では米FRBの利下げ実施を受けて米ドル安が進み、バーツ相場は一転して底入れの動きを強めたため、ペートンタン政権はバーツ高が輸出や観光業を巡る価格競争力の低下を招くとしてあらためて中銀に利下げを要求した。よって、中銀は10月の定例会合でコロナ禍後初の利下げを決定するも、家計債務の増大を警戒して慎重姿勢を維持するなど、周辺国とは対照的な動きをみせている。
中銀の姿勢は政府との対立を招く懸念がある一方、足下の国際金融市場では米ドル安の動きが一巡して米ドル高が再燃し、底入れの動きを強めたバーツ相場を巡る環境に変化がみられる。こうしたなかで財務相と中銀総裁との会談が実施され、中銀は財政政策を側面支援して景気下支えに動く一方、インフレ目標の維持で合意したとされる。政府は中銀に暗に追加利下げを求めたが、その決定は中銀の判断と述べるなど『予防線』を張る動きをみせる。他方、米ドル高の再燃にも拘らずバーツ相場の調整は周辺国と比べて小幅に留まり、政府が利下げ圧力を強める可能性はくすぶる。当面はバーツ相場の見方を巡って政府と中銀の攻防戦が強まるであろう。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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