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2024.09.18
米国経済
米国経済見通し
米国金融政策
四半期見通し『米国~FRBの金融緩和がソフトランディングを支援~』(2024年10月号)
桂畑 誠治
米経済は減速傾向を辿るなか労働市場の急変警戒
米国では、24年4-6月期の実質GDP成長率(2次推計)は、個人消費や設備投資の加速のほか、在庫投資の押し上げ等により、前期比年率+3.0%(前期同+1.4%)と加速した。7-9月期入り後の経済情勢をみると、企業景況感を示すISM景気指数では、8月の製造業が47.2(前月46.8)と50を下回って推移しているが、過去の景気後退局面時の水準を上回っている。さらに、7月の非製造業が51.4(前月48.8)と前月比2.6%ポイント上昇し、米景気の秩序だった減速を示している。
労働市場では、7月の非農業部門雇用者数が前月差+11.4万人(前月同+17.9万人)と減速した。ただし、3カ月移動平均で前月差+17.0万人(前月同+16.8万人)、6ヵ月移動平均で前月差+19.4万人(前月同+21.8万人)と堅調さを維持し、米経済成長が巡航速度に向けて鈍化していることを示している。一方、7月の失業率は、4.3%(前月4.1%)と上昇し、景気後退懸念が台頭した。ただし、労働参加率が62.7%(前月62.6%)と上昇する形で上昇しており、仮に参加率が6月と同率であれば、失業率は4.1%にとどまっていた。また、悪天候のために仕事をしなかったと答えた⼈数が例年を大幅に上回る水準に急増したことから、ハリケーン「ベリル」の襲来、洪水、停電、熱波によって失業者数が押し上げられた可能性があり、労働環境が急激に悪化した訳ではないと判断される。
インフレでは、7月のPCEコアデフレーターの上昇モメンタムをみると、6カ月前対比年率+2.6%(前月+3.3%)と高い伸びにとどまっており、中期的なインフレ圧力の根強さを示している。しかし、3ヵ月前対比年率で+1.7%(前月+2.1%)と短期的なインフレ圧力が一段と緩和しており、インフレが2%の目標に向けて低下を続けるとFRBが確信できる状況に近づいたと判断される。

FRBは利下げ開始準備
FRBは7月31日のFOMCで政策金利であるFFレート誘導目標レンジを、8会合連続で5.25~5.50%に据え置いた。パウエルFRB議長は、8月23日の講演で、「インフレが2%への持続可能な軌道に乗っているという私の自信は高まった」とインフレが落ち着きを取り戻したとの判断を示した。また、労働市場に関して「FRBは、労働市場の一段の冷え込みを期待せず、歓迎しない」と一段の鈍化に懸念を示した。リスクについて「インフレの上振れリスクは低下している一方、雇用の下振れリスクは増加している」との見方を強調した。そのうえで、「政策を調整するときが来た。方向性は明確であり、利下げのタイミングとペースは、今後入手されるデータ、変化する見通し、リスクバランスによって決まる」と事実上の利下げを予告したが、利下げ幅などはデータ次第であることを強調した

24年の米経済は減速も底堅く推移する公算
24年の個人消費は、資産残高の増加、内外での人の移動の活発化等に支えられるものの、雇用・所得の増加ペース鈍化、消費者マインドの低下、借入コストの上昇等を背景に、減速すると見込まれる。住宅投資は、供給不足を背景に3年ぶりに拡大するが、高いモーゲージ金利、人手不足の影響等によって小幅の増加にとどまると予想される。
また、設備投資は、金融環境の引き締まり、経営者マインドの悪化など、景気に対する慎重な見方の高まりによって、鈍化すると予想される。ただし、エネルギー・環境関連、国防関連の強い需要によって底堅く推移すると想定される。バイデン政権で策定された「21年インフラ投資・雇用法」、「22年インフレ抑制法」、米国内の半導体産業振興を目的とした「CHIPS法」によって、関連需要の拡大による下支えが見込まれる。さらに、ねじれ議会による歳出抑制を背景に政府支出が鈍化すると予想される。
以上より、米国の24年年間の実質GDP成長率(年内成長率)は+1.1%(23年+1.8%)と鈍化すると見込まれる。ただし、23年後半の成長率が高かった影響で、24年への下駄が+1.4%(23年+0.8%)と高くなっているため、24年平均の実質GDP成長率(年内成長率+下駄)は、前年比+2.5%(23年同+2.5%)と前年並みの成長が予想される。
インフレは鈍いながらも低下傾向維持へ
インフレに関して、サプライチェーンの問題は、米中ハイテク戦争や経済安全保障の強化によって規制が強まっている一方、供給制約の緩和等によって 、収束傾向を維持するとみられる。また、ドルの高止まり、財からサービスへの需要シフトが続くとみられ、財価格は低い伸びにとどまると予想される。サービスでは、労働市場の逼迫緩和に伴って賃金上昇率が緩やかに低下し住宅関連以外のサービス価格を低下させるほか、新規の賃貸料の低下の影響が続くことで、インフレ統計の帰属家賃、賃貸料も緩やかな低下を続けると見込まれる。以上より、PCEコアデフレーターは緩やかな低下にとどまり、FRBの目標である前年比+2%の達成は25年までかかると予想される。
FRBの利下げは段階的もリスク次第で大幅に
FRBは、景気や労働市場が緩やかな減速基調を辿るなか、コアインフレの低下傾向、労働市場の悪化リスクが高まっていることから、引き締め的な水準にあるFFレートを9月に25bp引き下げ、25年末にかけて段階的に4.0%程度に引き下げると予想される。
ただし、失業率が労働参加者の増加のない状況でさらに上昇すれば、50bp以上の大幅な利下げを継続すると予想される。また、株価の大幅な下落が続けば、マインドの悪化、信用コストの上昇を通じて、家計と企業の需要が急激に落ち込むリスクが高くなるため、FRBはFOMCでの大幅利下げを早期に市場に織り込ませる形で、金融市場の安定を目指すとみられる。
FRBは、リスク回避のために積極的な利下げを実施すると予想され、市場金利の大幅な低下や株価の持ち直し、マインドの改善によって、深刻な景気後退は回避される公算が大きい。

桂畑 誠治
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 桂畑 誠治
かつらはた せいじ
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経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済
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