米国:イラン・中東情勢の混乱も拡大ペース加速(3月ISM製造業)

~供給網の混迷と高まるコスト増圧力~

桂畑 誠治

要旨
  • 26年3月のISM製造業景気指数(季節調整値)は52.7(前月52.4)となり、市場予想中央値(52.3)および筆者予想(52.3)の低下予想に反して、前月比0.3ポイントの上昇となった。拡大・縮小の分岐点である50を3カ月連続で上回り、米製造業部門が拡大基調を維持していることが示された。トランプ政権の関税政策による不確実性やコスト増が引き続き抑制要因となっているものの、堅調な国内需要を背景とした在庫補充に加え、関税やイラン攻撃に伴う将来的な価格上昇を見越した発注の増加が指数を下支えした。
  • パネリストのコメントからは、製造・輸送業界がイラン・中東情勢の混乱に伴う地政学的リスクに強く翻弄されている現状が浮き彫りとなっている。エネルギー価格の高騰、物流の遅延、サプライチェーンの脆弱化に直面し、一部の企業は投資や購買戦略において慎重な姿勢を崩していない。業界別では二極化が進んでおり、輸送市場がコスト高で停滞する一方、建設市場の活況による機械需要増や、最高裁の関税無効判決(国際緊急経済権限法:IEEPAに基づく関税の違憲判決)による砂糖輸入の改善などが報告されている。 今月は、上述の最高裁判決にもかかわらず、イラン戦争が事業に新たな悪影響を及ぼしていると言及された最初の報告となった。米国経済政策の不確実性も依然として続いており、コメント全体の64%が否定的な内容だった。このうち、約20%が関税を、約40%が中東戦争を懸念材料として指摘している。関税の変化や金属・メモリ等の価格上昇に対し、供給網の再編や南北アメリカ大陸への調達先変更など、予測不能な事態への適応作業を継続している。
  • 3月の総合景気指数を項目別に分析すると、新規受注の拡大鈍化や雇用・在庫の減少幅拡大が押し下げ要因となった一方、生産の加速とサプライヤーの入荷遅延が全体を押し上げる結果となった。仕入価格指数が高い水準に達しており、製造業におけるコスト増圧力が急激に強まっていることが浮き彫りとなっている。
  • 新規受注は53.5(前月55.8)と拡大圏内ながら低下し、需要鈍化が示唆されている。拡大した業種数は18業種中11業種(同12業種)に減少し、縮小は3業種(同2業種)に増加した。
  • 雇用は、48.7(同48.8)と50を下回る水準で低下し、減少幅が若干拡大した。雇用の増加した業種は、7業種(同7業種)にとどまった。企業は不透明な需要動向を背景に、レイオフや採用凍結を通じた人員削減・調整を優先する姿勢を継続している。
  • 在庫は、47.1(前月48.8)と縮小圏で低下し、縮小ペースが加速した。不確実性の高まりから企業は慎重な姿勢を崩していないが、在庫の減少や顧客側の在庫不足感の強まりを背景に、今後は生産が緩やかな拡大を継続する公算が大きいと考えられる。
  • 生産は、55.1(同53.5)と上昇し、拡大ペースの加速が示された。拡大した業種数が10業種(同9業種)に増加し、縮小した業種は4業種(同4業種)で横ばいだった。新規受注と受注残が拡大水準を維持していることから、生産拡大が持続する可能性は高いとみられる。
  • 入荷遅延は、58.9(同55.1)と上昇。港湾での停滞やトラック輸送の制約、悪天候に加え、イラン・中東情勢の混乱がサプライヤーの納入期間を長期化させる要因となった。
  • 3月に拡大した業種は、全18業種のうち13業種(前月12業種)に増加
  • インフレの動向を示す仕入価格指数は、78.3(前月70.5)と7.8ポイント急騰。22年6月の78.5以来の高水準を記録し、極めて強いコスト増圧力を裏付けた。3月に仕入価格の上昇を報告した業種は、17業種(前月14業種)に及び、商品別では、アルミニウム、銅、鉄鋼、銅製品、鉄鋼製品、電子部品、貴金属、ステンレス鋼、ポリプロピレン、樹脂、天然ガスなど広範囲な品目での価格が上昇した。また、供給不足品目には、電子部品、電気部品、希土類部品、メモリ、半導体、ベアリング部品が挙げられ、需給のひっ迫が継続している。
  • 今後の製造業の業況について、短期的には米国とイランの軍事衝突に伴うエネルギー価格や物流コストの上昇、および不確実性が足かせとなり、一時的な指数の低下が予想される。しかし、11月に中間選挙を控え、ガソリン価格高騰に伴うトランプ大統領の支持率低下が顕著となっていることから、大規模な軍事行動は遅くとも5月中に終了する可能性が高いと推測される。 中期的には、①半導体、医薬品、重要鉱物等への分野別関税によるインフレ波及が限定的となる蓋然性が高いこと、②減税や給与所得・資産価格の上昇を背景に国内需要が堅調を維持すること、③低水準の在庫が生産を誘発すること等に支えられ、製造業は26年を通じて拡大の勢いを保つ公算が大きい。
こちらのレポートについては、PDF形式によるご提供となっております。
右上にある「PDF閲覧のアイコン」をクリックしてご覧下さい。

本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ