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DXの視点『シンガポール行政アプリ「LifeSG」における官民連携』

柏村 祐

シンガポールにおける行政サービスのデジタル化が注目されている。本稿では、シンガポールにおいて利用が進む行政ポータルアプリ「LifeSG」について解説する。「LifeSG」は、2018年6月から利用が開始された。開始当初は、まず6歳未満の幼児を持つ家族をサポートする機能が提供された。その後、2019年9月に60歳以上の国民向けのアクティブエイジングメニュー、2020年6月に求職者向けの雇用サポートガイドが追加されるなど、機能が順次追加され進化を遂げている。現在では100を超える行政サービスがこの1つのアプリに集約されている。「LifeSG」の特徴は「個人に最適化された行政サービスの提供」にある。家族と子育て、健康管理、仕事と雇用、住宅と財産などのテーマ毎にグループ化され、個人属性に基づいて最適化された情報が表示される。

個人に最適化された行政サービスメニュー
個人に最適化された行政サービスメニュー

「個人に最適化された行政サービス」であることを示す例として、現在、出生登録について10人のうち7人が「LifeSG」経由となっていることを挙げることができる。以前は出生登録手続きを行うためには役所に赴く必要があったが、今では「LifeSG」上で手続きを行うことが可能であり、出生登録に費やす時間は60分から15分に短縮されている。

「LifeSG」では、以上のような国民ファーストの行政サービスをなぜ実現できているのだろうか。その要因としては、新たにサービスを実装する前に国民がサービス内容を評価するユーザーテストの存在が挙げられる。ユーザーテストは、「ハイライトテスト」、「理解度調査」、「読みやすさ調査」に分類される。「ハイライトテスト」では、テストに参加する国民に対して、有用、明確であると感じた情報には緑色で表示し、有用でない、不明瞭と感じた情報には赤色で表示するよう依頼している。次に「理解度調査」では、コンテンツを読んだテスト参加者が内容を理解できているかの質問を行い、内容が正確に伝わっているかを確認する。最後に「読みやすさ調査」では、「読みやすさ」「明快さ」「使いやすさ」「ユーザーの自信(コンテンツを読んだ後、何をすべきか自信がもてるか)」の4項目について5段階評価をつける調査を行っている。

これらのユーザーテストにもとづくアプリの開発は、行政側のみではできない、いわば国民との共創により実現されているものといえ、このような官民一体の取り組みが「LifeSG」の使いやすさ向上に貢献しているのだ。

以上のように、「LifeSG」が国民目線の行政サービスを実現できている理由は、国民と行政が一体となりサービスコンテンツを創りだしているからだといえる。日本においても昨年9月にデジタル庁が設置され、行政サービスの利便性向上が求められている中、実績のある先行事例として「LifeSG」から我々が学べることは多いのではないだろうか。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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