内外経済ウォッチ『日本~ギグワーカー保護、日本の立ち位置~』(2021年8月号)

星野 卓也

目次

広がるギグワーク

街中で大きなリュックを背負い、自転車で料理を運ぶ人を見かけることが多くなった。彼らのように、定期的な雇用契約を結ばずに仕事を請け負って報酬を得る人は「ギグワーカー」と呼ばれる。主要な仕事内容は、料理宅配のみならず家事代行や記事の執筆、オンラインレッスンなど多様に及ぶ。こうした働き方は、「すきま時間で気軽に働ける」という点が支持され、オンラインでのマッチングサービスの充実や副業容認の流れとともに新型コロナウイルスの感染拡大前から徐々に広がりを見せていた。

一方で、個人事業主であるギグワーカーの報酬は雇用者と異なり、経済ショックによる需要喪失の影響を直接受ける。また、専業のギグワーカーは雇用者ではないため、雇用保険や労災保険は基本的に適用外であり、失業や業務上のケガ・病気に対する公的保障がない。健康保険は市町村運営の国民健康保険に入ることになるが、これには病気やケガで働けない際に給与の一定割合が支給される傷病手当金がない。ギグワーカーは雇用者に比べて働き方の自由度は高い反面、待遇は不安定で公的セーフティネットも薄く、新型コロナウイルス感染拡大による経済ショックの影響を受けやすかった。

過去を振り返ると、こうした流れはバブル期における「フリーター」と重なる。今でこそフリーターという言葉に対しては、ネガティブな印象を持つ人が多いだろう。しかし調べてみると、「フリーター」は当時の最先端の働き方を指す“カッコいい”言葉だったようだ。会社に縛られずに自由に働くスタイルが若者を中心に受け入れられたほか、バブル期の好況のもとで、労働市場は人手不足、アルバイトも高待遇であった。その後のバブル崩壊、デフレ、賃金下落によってフリーターを取り巻く環境は変わる。やがて、低所得・職の不安定性を象徴する言葉に変わってしまった。

各国はギグワーカー保護に舵

景気悪化によって職の不安定さが浮き彫りになる中、各国はギグワーカーの保護に動き出している(資料)。日本においても、ギグワーカーを含むフリーランスの人たちが労災保険に任意加入できるようにしたほか、発注側の優越的地位の濫用を禁じる独占禁止法の規定が適用される旨を、ガイドラインで示している。ただし、日本では基本的にギグワーカーをあくまで「個人事業主」として扱う方針だ。任意加入が認められた労災保険についても、雇用者の場合は労災保険料を企業が全額負担するが、任意加入の場合は労働者負担になる。ギグワーカーを「雇用者」とみなす方向性を打ち出す各国とはやや距離があり、日本はギグワークの「柔軟性」を重視しているように映る。

「保護」と「柔軟性」は基本的にトレードオフの関係にある。ギグワーカーを雇用者として扱うことにすれば、企業側にとってもギグワーカーの使い勝手が悪くなり、かえってその働き口を奪う可能性もある。ただし、日本にはこうした柔軟性重視の姿勢が正規雇用者と非正規雇用者との格差を生み、硬直的な日本の労働市場のもとでその固定化を招いてきた過去がある。格差の固定化を招くことなくギグワークの柔軟さを活かすにはどういった規制が適切なのか、日本を含め、各国でその答えを模索する動きがしばらく続いていくことになりそうだ。

図表
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星野 卓也

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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