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内外経済ウォッチ『欧州~ドイツ政界に吹く緑の党旋風~』(2021年6月号)

田中 理

目次

対照的な2人の首相候補

秋に連邦議会選挙を控えるドイツでは、連立政権を率いるキリスト教民主同盟(CDU)が、コロナ危機対応などを巡って、急速に支持を落としている。政権奪取の機会を窺うのが、都市部のホワイトカラー層や若者を中心に支持を伸ばす環境政党・緑の党だ。両党が首相候補を発表した4月中旬以降、両者の支持率の差が一段と縮まり、幾つかの調査で逆転している。選挙後の政界引退を示唆しているメルケル首相の後継者の行方とともに、ドイツ国政史上で初めて緑の党が主導する政権が誕生するかに注目が集まる。

与党の首相候補ラシェット氏は、最大州の州首相を務める政治経験豊富な60歳の男性。今年1月に与党党首に就任し、姉妹政党党首との首相候補レースを勝ち抜いた。党内の中道穏健派で、メルケル路線の踏襲者とされる。有権者の間には16年に及んだメルケル施政と長年の二大政党支配に倦厭感も広がっている。対する緑の党の首相候補ベアボック氏は、州首相や閣僚経験のない40歳の女性。2013年の連邦議会選で初当選し、その後めきめきと頭角を現し、2018年に党の共同代表に選出された。北西部の生まれだが、現在は旧東ドイツ地域に住む。経験不足を不安視する声もあるが、勉強熱心な政策通として知られ、変化を求める有権者の支持が追い風となっている。

資料1
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財政規律緩和への期待

選挙戦は始まったばかりで、各党の政策議論は今後本格化する。緑の党がこのままの勢いで政権交代に成功するとは限らない。選挙戦の鍵を握りそうなのが、政権のコロナ危機対応だ。ドイツでは年明け以降、新規感染者が再び急増しており、都市封鎖の強化や延長を余儀なくされている。昨年春の感染第一波ではコロナ危機対応の優等生とされたが、感染封じ込めに手間取り、英国や米国と比べてワクチン接種も遅れている。秋までにこうした状況を打開できれば、与党が盛り返すことも考えられる。変化の兆しもある。遅れて承認したワクチンの接種が開始され、4月に入って1日当たりのワクチン接種件数が倍増している。

CDU主導の政権が誕生する場合、基本的には現在の政策路線が踏襲されることになろう。緑の党が掲げる政策は、気候変動対策の加速、公共投資の拡大、財政規律の緩和、高所得層への増税、最低賃金の引き上げ、環境保護や労働者保護に関連した規制強化など。緑の党主導の政権が誕生する場合、政策運営能力への不安もあるが、歳出拡大や財政規律緩和への期待が上回る公算が大きい。ただ、両党ともに単独での政権運営は難しい。連立の組み合わせによって、政策のさじ加減が変わってこよう。どちらが第1党の座を勝ち取るかだけでなく、その後の連立協議の行方が重要となる。

資料2
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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