内外経済ウォッチ『アジア・新興国~「V字回復」の豪州が直面する課題~』(2021年4月号)

西濵 徹

昨年の豪州経済は、新型コロナウイルスのパンデミックによる世界経済の減速や国際金融市場の動揺を受け、実体経済や金融市場に下押し圧力が掛かった。同国でも感染は広がり、全土で外出禁止を実施する都市封鎖に追い込まれ、幅広い経済活動に悪影響が出た。また、同国では一昨年末から史上最悪の被害を招いた森林火災が発生したため、昨年前半の豪州経済は2四半期連続のマイナス成長となる景気後退局面(リセッション)に陥るなど、1991年半ば以降『世界最長記録』を更新してきた景気拡大局面は幕を下ろした。しかし、強力な対策により感染者数は鈍化し、その後は行動制限を段階的に緩和するなど経済活動の正常化が進められた。さらに、世界経済の回復に加え、国際金融市場も落ち着きを取り戻したことで、豪州には内・外需双方の底入れが期待された。

なお、昨年半ばには感染再拡大により行動制限が再強化されたものの、その後は新規感染者数がほぼ10人未満で推移するなど概ね感染は収束している。結果、昨年後半以降の企業マインドは幅広く底入れしてきた。2月末にはワクチン接種が開始されており、今後はワクチンの国内生産による供給拡大を通じてワクチン接種の加速化を図る見通しである。よって、今後はワクチン供給の大幅な前進も期待されることで目標前進の後押しが見込まれるなど、新型コロナウイルスの『克服』に向けた動きが進むと予想される。

資料1 新型コロナの新規感染者及び死亡者数(累計)の推移
資料1 新型コロナの新規感染者及び死亡者数(累計)の推移

内・外需はともに昨年半ばを境に底打ちする一方、中国との関係悪化や、国際金融市場の活況に伴う豪ドル高は景気回復の足かせとなると懸念された。しかし、企業マインドの堅調さが示唆するように昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+13.11%と前期(同+14.33%)から2四半期連続の二桁成長となるなど底入れが進んだ。世界経済の回復に伴う外需の押し上げに加え、行動制限の緩和やペントアップ・ディマンド発現も重なり家計消費も堅調に推移したほか、企業による設備投資や家計の住宅投資の活発化は固定資本投資を下支えするなど、内・外需双方で景気が押し上げられている。昨年通年の経済成長率は▲2.5%と29年ぶりのマイナス成長となったが、足下の景気は『V字回復』の様相を強めている。

新型コロナウイルスの感染収束が進むなか、中銀は利下げや量的緩和を通じて景気下支えを進める一方、足下では『カネ余り』を背景に不動産価格が上昇基調を強めるなど『副作用』も顕在化している。また、国際金融市場の活況に伴う資金流入を追い風に長期金利や豪ドル相場は上昇傾向を強めて景気回復の足かせとなる懸念があり、中銀は景気下支えの観点から金融緩和の手綱を緩めることが難しい状況に直面している。中銀は追加緩和の可能性を匂わせるが、そのハードルは高いことを勘案すれば、当面の豪ドル相場は長期金利の高止まりと共に底堅い展開が続くであろう。

資料2 豪ドル相場(対米ドル)と長期金利の推移
資料2 豪ドル相場(対米ドル)と長期金利の推移

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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