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日本の財政・金融政策に対する論点整理

〜サナエノミクスの現状分析と評価〜

永濱 利廣

要旨
  • 「日本の財政悪化で円売り」は誤解。市場では日本の財政悪化を根拠とした円売りの論調が見られるが、2025年の財政赤字(対GDP比約1%)はG7の中でも最小レベルであり、客観的データに基づかない「雰囲気」による傾向が強い。
  • アベノミクスの実態は「財政引き締め」。2度の消費税増税を通じてGDP比2.5%超の税収増(家計負担)を達成したため、実態は大規模な拡張財政ではなく強力な「財政再建(引き締め)」だった。
  • 基礎的財政収支(PB)は大幅に改善。10年間の取り組みにより2025年度のPB赤字はほぼ解消しており、黒字化も視野に入っている。G7諸国内でもフローの赤字が極めて小さいことからすれば、減税や多少の金利上昇を吸収する余力がある。
  • 客観データに基づく発信(対外コミュニケーション)が必要。日銀は量的引き締め(QT)を進めており、政府も世界基準の指標(構造的PB等)を用いて実績を正確に金融市場へ伝えるコミュニケーションの改善が求められる。
目次

1.概要と問題意識

市場やメディアでは「日本の財政状況が悪化しており、円売りの根拠になる」という論調が目立つが、実際の数値やIMF等の経済見通しに照らすと、その見解は客観的事実から乖離している。

実際、日本の財政ポジションを確認すると、一般政府の財政赤字は対GDP比で約1%程度にとどまっており、G7諸国の中でも最小レベルに位置している(図表1)。実態として日本は「放漫財政」や「通貨乱発」を行っているわけではない。

図表
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2.アベノミクスの振り返りと「歳入増による財政再建」

また、アベノミクスは大規模な景気刺激策であったと語られがちだが、実際には2度にわたる消費税増税(2014年、2019年)を通じて強力な財政引き締めが実施された。実際、アベノミクス当時の家計需要への負荷を確認すると、対GDP比で2.5%ポイント以上の歳入増加が達成された一方で、消費税増税は家計需要を著しく下押す結果となった(図表2)。こうしたことから、アベノミクスは株価の上昇が強調されがちだが、実質個人消費の観点からは成果を上げたとは言い難いといえよう。

図表
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3.足もとの財政状況と将来見通し

一方、過去10年間にわたる財政再建の結果、25年度の日本のPB赤字はほぼ解消(ゼロ近傍まで縮小)している(図2)。内閣府の試算・見通し(26年7月)では税収増に伴うPB黒字化が視野に入っており、成長戦略試算時(26年6月)の赤字予測(約▲7.0兆円)を大幅に上回る進捗を示している(図1)。

図表
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そして、一般政府ベースでG7諸国との対比をすれば、米国や欧州主要国(フランス、英国等)が大きなフローの赤字を維持・拡大させているのに対し、日本のフローの赤字は極めて抑制されている(図表4)。こうしたことからすれば、名目成長やインフレが債務動態の改善を助ける限り、一定の減税策や名目金利の上昇を吸収する余力は十分存在するといえよう。

図表
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4.金融政策・為替市場への見解

一方、金融政策運営として、日銀は政策金利の引き上げを慎重・緩やかに進めつつも、相応の量的引き締め(QT)を実行しており、イールドカーブの長短期利回りに影響を与えている(図表5)。

こうした中、為替介入と市場のポジショニングとして、マクロ系投資家は過度に円ショートへ傾斜していたため、介入等の局面で梯子を外される形となったが、為替介入は弱値圏での円の下値を支える効果を持ち、財政面から見ても外為特会を通じた財政収支の改善にも寄与し得るといえよう。

図表
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5.今後の課題

以上のように、自国の財政収支の改善や構造的プライマリーバランスの実態が金融市場へ正確に伝わっておらず、「コミュニケーション不足」が市場の誤解を生んでいることからすれば、日本政府の発信・コミュニケーション改善が必要な状況といえよう(図表6)。

また、標準的なIMF型指標に基づく議論も必要であり、構造的PBの変化や財政スタンスなど、グローバル標準の客観的指標を用いて政策効果や対GDP比の債務軌道を冷静に分析・議論することが求められる。

図表
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永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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