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「スーパー・エルニーニョ現象」が生活に与える影響

〜暖冬がマクロ経済に与える影響を中心に〜

永濱 利廣

要旨
  • 全体への影響としては、気象の極端化と供給網の混乱が発生。南米の大雨・洪水、アジアや豪州の干ばつ・熱波により、一次産業から商業まで幅広く影響。
  • 農水産物・食卓・外食への影響として、カタクチイワシ(ペルー産)が海水温上昇で激減。魚粉価格が跳ね上がり、養殖魚や食肉の価格上昇・外食の値上げにつながる。小麦(豪州産)等も干ばつで不作となり、パン・麺類・スナック菓子が高騰。タイ等の干ばつによる砂糖・米・コーヒー豆の値上げも懸念。
  • 過去(2015年・2023年)の事例として、2015〜16年は穀物・魚粉価格の急騰、国内の深刻な暖冬・雪不足が発生。2023〜24年は、ペルーのイワシ漁解禁見送り(10億ドル超の損失)、パナマ運河の通航制限による物流遅延・運賃上昇が発生。
  • 今冬の暖冬予想と経済活動として、ネガティブ材料として冬物衣料・暖房器具の不振、スキー場・周辺観光業の打撃、エネルギー需要減、鍋物食材の需要低迷が予想される。一方、ポジティブ材料として光熱費抑制による可処分所得の下支え、暖気による外出・レジャー消費の活性化に期待。このため小売・外食への影響としては、原材料高への備えと、暖冬に合わせた柔軟な在庫・商品計画が不可欠。
  • 暖冬がマクロ経済に与える影響としては、定量インパクトとして短期的にネットでマイナス。1〜3月期の気温1℃上昇で実質GDPは約▲0.6%(約▲8,547億円)、10ー12月期の家計消費は約▲0.4%(約▲2,342億円)押し下げられる計算。内訳としては、高単価な季節商品の買い控えやエネルギー消費減がマイナスとなる一方、外出増や建設工事の進捗、光熱費節約がプラス要素。今回のリスクとして、国内の暖冬による「需要減」と、国際的な原材料高による「コスト高」が重なるため、通常以上の警戒が必要。
目次

1.どのようなところに影響がある?

「スーパー・エルニーニョ現象」は、熱帯太平洋の海面水温が平年より著しく高くなる現象であり、世界規模での異常気象を引き起こし、私たちの食卓や経済活動にドミノ倒しのような影響を与える可能性がある。

そして、スーパー・エルニーニョ現象の影響は「気象の極端化」と「グローバル・サプライチェーンの混乱」の2大ルートで発生することが予想される。

具体的には、南米では記録的な大雨や洪水が起きる一方、東南アジアやオーストラリア、インドでは深刻な干ばつや熱波に見舞われる。これにより、農業、水産業、物流、エネルギー需要など、一次産業から商業にまで広範な影響が及ぶ可能性がある。

2.農水産物・食卓・外食産業への影響

世界的な農水産物の供給減少は、日本の食卓や外食産業のコストを直接押し上げる可能性がある。

まず考えられるのは、ペルー産のカタクチイワシの激減である。というのも、エルニーニョが起きると、ペルー沖の冷たく栄養豊富な湧昇流が止まり、海面水温が上昇する。これによりカタクチイワシの餌となるプランクトンが激減し、魚群が消滅または減少する可能性がある。

となると、食卓・外食への影響としては、カタクチイワシは世界最大の魚粉の原料である。このため、これが不足すると養殖魚の餌代や、養豚・養鶏の飼料価格が跳ね上がる可能性がある。結果として、スーパーの肉や養殖魚の価格上昇、外食チェーンのメニュー値上げに直結することが予想される。

また、オーストラリア産の小麦などが減少する可能性がある。というのも、オーストラリアではエルニーニョにより厳しい干ばつが発生しやすく、小麦の作柄が大幅に悪化する可能性がある。

となると、食卓・外食への影響としては、日本はうどんや菓子、パン用小麦の多くをオーストラリアや北米から輸入している。このため、国際カルテルや供給減による価格高騰が起きると、パン、麺類、スナック菓子の大幅な値上げや、外食インフレをさらに加速させる原因になりうる。その他、タイやベトナムの干ばつによる砂糖や米、コーヒー豆の価格高騰も懸念材料である。

3.過去(2015年、2023年)のスーパー・エルニーニョ時の影響

過去の強力なエルニーニョ期にも、明確な実害が出ている。

例えば、2015年〜2016年にかけては、世界的な穀物価格の高騰に加え、ペルーのカタクチイワシ漁が事実上の壊滅状態となり、魚粉価格が過去最高値圏まで急騰した(図表1)。そして日本国内では、冬場に記録的な暖冬となり、スキー場の雪不足や冬物衣料の深刻な売れ行き不振となった。

また、2023年〜2024年にかけては、ペルー政府が2023年春のカタクチイワシ漁の解禁を完全に見送るという異例の事態が発生し、10億ドル以上の輸出損失が出たといわれている。また、パナマ運河が干ばつで水位低下し、通航制限がかかったことで、世界的な物流遅延と海上運賃の上昇を招いたことも記憶に新しい。

図表
図表

4.今冬「暖冬」予想による経済活動への影響

スーパー・エルニーニョの年は、日本付近に暖かく湿った空気が流れ込みやすくなるため、暖冬になる確率が非常に高くなる。これに伴う経済へのプラス・マイナスは以下の通りとなる。

まず、ネガティブな影響としては、消費の減退・機会損失が考えられる。特に、季節商品の売れ行きとして、コート、ダウン、マフラーなどの冬物衣料や、石油ストーブ・ヒーターなどの暖房器具の動きが鈍くなり、アパレルや家電量販店の業績を圧迫する可能性がある。

また、レジャー・エネルギー産業への打撃も考えられる。特に、スキー場などのウィンタースポーツ施設が雪不足で営業できず、周辺の観光業を含めて大打撃を受ける可能性がある。また、ガスや電気の暖房需要が減るため、エネルギー会社の収益が減少することも想定される。

さらに、鍋物食材の需要減の可能性もある。というのも、冬の定番である「鍋物」の機会が減ることで、鍋用スープや特定の冬野菜の需要が落ち込む可能性がある。

一方、ポジティブな影響としては、一部の支出抑制と行動活発化がある。特に、家計の光熱費負担の軽減として、冬場の電気・ガス代が抑えられるため、物価高に苦しむ家計にとっては可処分所得が実質的に増える下支えになる可能性がある。

また、外出・個人消費の活性化として、寒さが緩むことで、冬場でも消費者が外出しやすくなり、外食、旅行、テーマパークなどのレジャー消費などが活発になる傾向がある。

以上をまとめれば、スーパー・エルニーニョは、世界的な「食料調達コストの上昇」をもたらす一方で、国内では「暖冬による消費パターンの変化」を引き起こす可能性がある。こうしたことから、外食産業や流通小売業にとっては、原材料高への備えと、暖冬を見据えた柔軟な在庫・商品の計画と管理が同時に求められる局面と言えるだろう。

5.暖冬がマクロ経済に与える影響

結論としては、「日本のマクロ経済において、暖冬は短期的にマイナス影響が勝る」というのが一般的な傾向である。かつては「冬物衣料や暖房需要の落ち込みが、春物の前倒しや外出増で相殺される」とも言われたが、近年の分析では明確にネットでマイナスに振れることが示されている。

過去の試算データや、GDP構成要素ごとの詳細な傾向は以下の通り。

(1)定量的な影響

過去30年間のデータに基づく全国平均気温(前年差)と実質GDP(前年比)の単回帰分析によると、冬場の気温上昇は以下のようなインパクトをもたらすと試算される。

実質GDPへの影響:1〜3月期の平均気温が1℃上昇すると、同期の実質GDPを約▲0.6%押し下げると試算される。そして直近データに基づく金額ベースでは、▲8,547億円程度の損失が生じる計算になる。

個人消費への影響:同じく気温が1℃上昇することで、10-12月期の実質家計消費支出(帰属家賃除く)は四半期ベースで約▲0.4%程度減少する関係がある。そして直近データに基づく金額ベースでは、▲2,342億円程度の損失が生じる計算になる。なお、GDPよりも個人消費への影響が前倒しで出現する背景としては、個人消費は冬物衣料や暖房器具などの売れ行きの影響が早めに出やすいことが推察される。

逆に、厳しい寒波になった場合は、一時的に過剰消費が発生し、短期的にGDPを数千億円規模で押し上げる「寒波特需」が生まれることがデータから実証される。

図表
図表

(2)実質GDP・個人消費の内訳

マクロ経済の動向を「個人消費」「企業活動」「純輸出」に分解すると、暖冬のプラス・マイナスがより鮮明になる。

① マイナス要因

季節性商品の売上蒸発:アパレルや家電は単価が高いため、これらの買い控えは個人消費に強烈な下押し圧力をかける。

電気・ガス・燃料消費の抑制:家計にとっては光熱費の節約になるが、マクロ経済の「支出」の側面から見ると、エネルギー産業の売上減少=GDPの減少要因となる。

食品・流通セクターの停滞:冬野菜の豊作による価格暴落や、鍋物用食材・総菜の需要減が響く。

② プラス要因

外出機会の増加:雪や厳しい寒さが少ないため、冬場の旅行、テーマパーク、外食、あるいは自動車の購入といった「サービス支出」や「大型耐久財」へのアクセスは良くなる。

建設投資の進捗:降雪や凍結が少ないと、屋外の土木・建築工事が予定通り進むため、GDPの「公的固定資本形成」や「民間住宅投資」などにはプラスに働く。

可処分所得の実質的な下支え:光熱費の負担軽減は、春先以降の他の消費への「原資」に回る可能性があるため、中長期的にはマクロ経済のクッションになる。


以上の通り、国内の暖冬単体でも実質GDPに数千億円規模のマイナス影響を与える可能性があるが、今回は「スーパー・エルニーニョ」である。

前述の通り、海外からの農水産物や原材料の供給ショックが同時に発生するため、国内の個人消費は「暖冬による冬物消費の買い控え」と「食料品や飼料価格の高騰による生活防衛」の二大リスクに直面することになる。

このため、マクロ経済の観点からは、通常の暖冬以上に個人消費の動向を慎重に見極める必要がある局面と言えよう。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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