家計には満足、でも幸せではない?

~G7比較で読み解く日本のファイナンシャル・ウェルビーイングとウェルビーイング実感ギャップ~

村上 隆晃

要旨
  • ギャラップ世界世論調査によると、日本で「ウェルビーイング実感が高い人」の割合は、2019年の26%から2024年には33%まで上昇し、2025年は28%に低下したものの、コロナ前と比べれば改善局面がみられる。一方、2025年のG7比較ではアメリカ56%、カナダ47%、ドイツ46%などに対し、日本は28%にとどまり、絶対水準の低さが際立っている。日本のウェルビーイング実感はコロナ禍以降やや改善したが、G7では依然最低水準といえる。

  • ファイナンシャル・ウェルビーイングは、経済面において安心感を得ながら、多様な幸せを実現できる状態とされ、「家計満足度」はその代理変数といえる。日本では、2008~2025年の家計満足度と「ウェルビーイング実感が高い人の割合」の相関係数が0.692となっており、中長期的には両者が連動する傾向が確認されている。家計満足度は、日本人のウェルビーイング実感と比較的強く結び付いている。

  • 家計満足度とウェルビーイングの関係は国によって大きく異なる。両者の相関係数は、イタリア0.800、カナダ0.752、フランス0.719、日本0.692と比較的高い一方、ドイツは0.227、アメリカ▲0.075、イギリス▲0.081となっている。このため、「家計が良くなれば同じ程度に幸福感も高まる」という関係がすべての国に共通するわけではない。

  • 日本の核心的課題は「家計満足度とウェルビーイング実感の相関が強いにも拘わらず、押し上げ効果が十分ではない」ことにある。2025年の日本の家計満足度は3.17で、フランス3.04、イタリア3.05、カナダ3.12を上回り、イギリス3.22にも近い水準にある。にもかかわらず、ウェルビーイング実感が高い人は28%とG7で最も低くなっている。家計満足度からウェルビーイング実感へ至る間に、何らかの「目減り」が生じていると考えられる。

  • この「目減り」について、筆者は①現在の家計満足度と老後・医療・介護などへの将来不安の併存、②長時間労働や孤立、健康不安、ケア負担などにより、経済的余裕を生活上の選択肢へ転換しにくいこと、③主観評価に関する文化差、という仮説を挙げている。そのため政府・企業・金融機関には、所得や資産の増加だけでなく、家計の見える化、生活防衛資金、長期資産形成、相談支援、働き方やキャリア支援などを通じて、「お金によって安心、時間、選択、参加、希望を得られる状態」をつくることが重要と指摘している。

目次

1. G7諸国のウェルビーイング実感の推移

毎年3月20日、国際連合が定める国際幸福デーに公表される「世界幸福度報告」(以下「報告」)では、各国の幸福度がランキング形式で示される(世界幸福度ランキング)。

世界幸福度報告で用いられる生活評価データは、アメリカGallup社が実施する「Gallup World Poll(ギャラップ世界世論調査、以下GWP)」から提供されている(注1)。2005年より毎年実施されているこの調査は、世界最大の世論調査として広く知られている。このGWPのデータが国連の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」やオックスフォード大学Wellbeing Research Centerに提供され、毎年報告が作成されている。

GWPではウェルビーイングについて、いわゆる「カントリルの梯子」と呼ばれる「二つの簡潔な質問」を用いて測定している。これは、梯子を想像し、最上段の10段目を最も理想的な生活、最下段の0段目を最悪の生活として、現在の生活が何段目にあるか、そして5年後(将来)の生活が何段目にあると思うかの生活評価を尋ねるもので、国際比較で広く用いられている手法である。GWPではこの2つの質問の結果を用いて、「ウェルビーイング実感」という指標を算出している。ウェルビーイング実感については、生活評価への質問に対する回答で「現在7点以上かつ将来 8点以上」をウェルビーイング実感が「高い人」、「現在4点以下かつ将来4点以下」を「低い人」、それ以外を「中程度の人」と分類している。以下で用いる「ウェルビーイング実感が高い人の割合」は、世界幸福度ランキングとは異なる指標である点に留意されたい。

本レポートではGWPのデータを基にウェルビーイング学会(注2)で算出した計数を加工して、コロナ禍前後のG7諸国の「ウェルビーイング実感が高い人の割合」の推移を比較した(資料1)。このグラフをみると、枠で囲ったコロナ禍以後のウェルビーイング実感について、日本はG7の中で特徴的な動きを示している。

コロナ禍からその後にかけて、多くのG7諸国でウェルビーイング実感が低下、あるいは改善がみられない中、日本とイタリアは横ばいから上向いている。直近は低下しているものの改善傾向が確認される。日本の変化をより長い時系列でみると、この特徴がさらに分かりやすくなる。日本で「ウェルビーイング実感が高い人」の割合は、2019~2023年は27%近傍で推移した後、2024年には33%へと上昇している。2025年は28%に低下しているが、少なくともコロナ前の2019年と比べると、コロナ期からその後にかけてウェルビーイング実感が上向く局面が確認できる。

これに対して、他のG7の主要国ではそれぞれ異なる動きがみられる。たとえばカナダでは2019年57%から、2024年44%へと低下している。イギリスでも2019年の61%から2022年の43%へと大きく低下し、その後も42%程度で推移している。この二か国では、コロナ禍を境にウェルビーイング実感の低下傾向がかなり明確といえる。

一方、フランスは2019年の37%から2025年38%と、大きな方向性を示さず比較的横ばいに近いといえる。

アメリカの傾向は異なり、2020年の56%から2023年の46%まで低下したものの、その後2025年56%へ回復しており、コロナ後に低下した後、持ち直すという振幅の大きい推移になっている。ドイツも変動が大きく、2019年49%から2020年には60%まで上昇したものの、2021年には40%へ急低下した。それ以後40%程度で推移していたが、直近は46%に上昇した。

日本を中心に整理すると、ポイントは次の3点である。

図表
図表

したがって、日本の特徴を一言で表すなら、コロナ禍を契機にウェルビーイング実感の水準は相対的に改善したが、絶対水準にはなお大きな国際差が残っているということになる。

図表
図表

2. ウェルビーイングを左右するファイナンシャル・ウェルビーイング

日本のウェルビーイング実感の改善を考える手掛かりがファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)である。FWBとは、金融経済教育推進機構(J-FLEC)によると、「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」を指す。

FWB度とウェルビーイング度の関係について、村上(2026b)で述べた通り、「FWB度が高い層は低い層に比べて、ウェルビーイング実感が高い人の割合が約16倍に跳ね上がる」。この結果は、FWBが、ウェルビーイング実感と強く結びついていることを示している。もちろん、ウェルビーイングはお金だけで決まるものではない。しかし、お金に関する不安が大きいと、健康、人間関係、キャリア、学び、余暇、地域参加など、他の領域にも悪影響が及びやすい。逆に、一定の経済的安心感があれば、人は将来に向けて投資し、挑戦し、他者との関係を深め、より自律的な人生設計を行いやすくなる。

GWPには直接FWBを測定する質問項目は含まれていないが、その代理変数といえる家計満足度(本稿では現在の世帯所得でどの程度暮らしていけるかを尋ねた回答の平均値を「家計満足度」と呼ぶ)の質問項目がある(注3)。村上・高宮(2025)によると、FWBが高いほど家計満足度が高い傾向があり、両者に正の相関があることが示されている。

そこで日本の2008~2025年のウェルビーイング実感が高い人の割合と家計満足度の推移をみると、両者の相関係数は0.692となっている(資料2)。例えば、家計満足度は2019年の3.12から2020年に3.21へ上昇し、2021年、2022年ともコロナ前を上回った。同じ期間のウェルビーイング実感も2020年以降コロナ前を上回る水準で推移している。2024年にはウェルビーイング実感が33%まで高まった後、2025年には28%となっており、毎年同じ方向に動くわけではないが、中長期的には両者が連動する傾向が確認できる。

図表
図表

これは、日本の生活者にとって家計が単なる一分野ではなく、生活全体の評価を左右する重要な基盤であることを示唆する。ただし、相関は因果を意味しない。景気、雇用、健康、社会関係、行動制限などが、家計満足度とウェルビーイング実感の双方を同時に変化させた可能性もある。

したがって、「家計満足度を上げれば自動的にウェルビーイング実感が上がる」とまでは言えないものの、FWBを改善する施策には、ウェルビーイング実感全体を底上げする有力な波及経路があると考えられる。

3. 家計満足度とウェルビーイング実感の関係は国によって異なる

国ごとの相関係数を見ると、関係の強さは一様ではない。日本の0.692に対して、アメリカ▲0.075、カナダ0.752、フランス0.719、イギリス▲0.081、ドイツ0.227、イタリア0.800である。

カナダ、フランス、イタリアでは強い正の相関、日本はそれに次ぐ比較的強い正の相関がみられる。ドイツは弱い正の相関であり、アメリカとイギリスでは、少なくともこの期間の相関関係は確認できない。

図表
図表

この差は、FWBの役割が各国で同じではないことを意味する。家計への満足が生活全体の評価と強く連動する国では、所得の安定、物価負担の軽減、債務管理、緊急予備資金の形成といった金融面への支援が、ウェルビーイング実感の改善にも結び付きやすい。

他方、相関の弱い国では、家計以外の要因がウェルビーイング実感の変動をより強く左右している可能性、あるいは家計満足度という一つの側面では、金融面の安心や不安を十分に捉えられていない可能性がある。

重要なのは、相関の高低を「金融の重要性」の単純な順位と解釈しないことである。相関が低くても、家計が生活の前提条件であることに変わりはない。家計満足度が比較的安定している一方で、健康、孤立、政治・社会への信頼、仕事の質などが大きく変動すれば、両者の相関は低くなる。

また、同じ質問への回答でも満足を表明する基準や尺度の使い方は文化によって異なる。国際比較では、客観的な家計状況と家計満足度のような主観的な回答を併せて検討する必要がある。

4. 2025年の国際比較でみる日本の家計満足度~ウェルビーイング実感ギャップ

2025年の国際横断比較は、日本の特徴をさらに明確にする。資料4では、日本の家計満足度は3.17、ウェルビーイング実感が高い人の割合は28%である。これに対し、アメリカは3.31・56%、カナダは3.12・47%、イギリスは3.22・42%、ドイツは3.31・46%、フランスは3.04・38%、イタリアは3.05・41%である。

日本の家計満足度はフランス、イタリア、カナダより高く、イギリスにも近い。それにもかかわらず、ウェルビーイング実感はG7で最も低い。

この状況を一言でいうと「家計満足度の高さをウェルビーイング実感に十分結び付けられていない日本」といえるのではないか。実際、日本を除く6か国で、家計満足度とウェルビーイング実感の関係について回帰分析を行うと、調整済み決定係数が0.440であるのに対し、日本を含めると0.085(図表からは省略)まで低下する。観測国数が少ないため統計的な安定性とその解釈には慎重さが必要だが、日本が国際的な関係から大きく外れた位置にあることは明瞭である。

ここで、日本国内の比較的高い時系列相関と国際横断比較の結果は矛盾しない。日本の中では、家計満足度が上がるとウェルビーイング実感も上がりやすい。しかし、同程度の家計満足度を持つ他国と比べると、日本のウェルビーイング実感の水準は低い。

言い換えれば、家計改善には国内のウェルビーイング実感を押し上げる力がある一方、現在の家計評価だけを改善しても国際的なウェルビーイング実感の格差の全ては埋まらない。日本では家計満足度からウェルビーイング実感へ至る間に、何らかの目減りが生じていると考えられる。

5. 考えられる要因と検証すべき仮説

本レポートではこの目減りの原因を直接検証できていない。したがって、以下は仮説であり、追加調査が必要と考えている。

第一は、現在の家計満足度と将来不安の併存である。日々の収支には一定の満足があっても、老後、医療・介護、教育、住宅、雇用継続などへの不確実性が大きければ、生活全体を「良い」と評価しにくい。FWBは現在の支払能力だけでなく、将来に対する予見可能性と回復力を含むため、現在の家計状態を評価する家計満足度の単一指標では捉え切れない可能性がある。

第二は、金融面の安心を生活上の選択へ転換する経路の弱さである。資金的に困窮していなくても、長時間労働、休暇の取りにくさ、孤立、現在の健康上の問題や将来の健康不安、家庭内のケア負担などによって、時間や行動の自由が乏しければ、家計上の余裕はウェルビーイング実感へ十分に波及しない。お金はそれ自体が最終目的ではなく、安心、選択、参加、挑戦を可能にする手段である。日本では、この手段から価値への変換を阻む非金融的な要因を同時に改善する必要があると考えられる。

第三は、主観評価の文化差である。「満足している」「ウェルビーイングが高い」と回答する基準、肯定的な自己評価の表明の仕方、回答尺度の端を選ぶ傾向は国によって異なり得る。日本の低さの一部が、実態差ではなく回答様式に由来する可能性は否定できない。村上(2022)で述べた通り、カントリルの梯子について「日本を含む東アジア圏では中間的な回答が好まれ、結果として低い数値の出る傾向」が指摘されている。ただし、文化差を理由に結果を無効とするのも適切ではない。同じ尺度で継続的に測れば国内の変化は追跡できるため、国際的な水準差と国内の時系列変化を分けて読むことが実務上は有効と考えられる。

6. FWB向上への実務的示唆

前項の仮説を前提とすると、現在の家計満足度だけではなく、将来を見据えた家計不安の解消も求められるといえよう。村上(2026b)で述べた通り「家計の見える化」「生活防衛資金の確保」「負債と保障の点検」「長期資産形成」「経験・人間関係への予算化」「定期的な見直し」という個人FWBを高めるための6つのステップを実践することが有効と考えられる。

国や地方自治体に求められる政策としては、所得や資産額を増やす施策に加えて、前記の6つのステップの実践をサポートする施策が求められるだろう。村上(2023)で述べた通り、FWBの向上に国として取り組む欧米の事例を考慮すると、金融経済教育の提供による個人の金融リテラシー向上、利用しやすい相談支援、過度な債務負担を予防する仕組みなどを一体として設計するのが効果的と考えられる。これらの政策を評価する指標を設けるとすれば、客観的な平均所得や貯蓄額だけでなく、「月々の家計管理ができているか」「急な出費や収入の途絶に対応できるか」「生活の選択肢に自由度があるか」「将来の夢や目標に向けた見通しがあるか」など主観的な項目を加える必要があるだろう。

企業の視点では、賃金と福利厚生を別々に扱うのではなく、従業員が実際に感じる安心と裁量を中心に再設計することが考えられる。適正な報酬に加え、本人や家族の病気、育児、介護などの際の緊急時支援、退職後の準備(退職金や企業年金などへの理解度向上を含む)、公的な医療や年金など社会保障への理解促進、個別相談を組み合わせるとともに、メンタルヘルス、キャリア形成、働く時間の柔軟性と接続することが重要である。日本の課題が「家計満足度からウェルビーイング実感への変換」にあるなら、金融経済教育だけを提供して終えるのではなく、学んだ内容を生活上の実践や経済的な不安の解消に活かせるところまで整える必要がある。

金融機関には、顧客の状態改善を成果とする発想が求められる。家計管理、債務返済、生活防衛資金、長期積立を、顧客のライフイベントと不安に沿って支援し、「いくら保有しているか」に加えて「どれだけ安心して意思決定できるか」を測るべきである。村上(2025)では生命保険を例にとり、「生命保険の提供に当たって、①各顧客の生活設計に照らして十分な保障内容を提案するとともに、そうなっていることを顧客に十分に納得してもらう、②その結果として、加入している生命保険に対する顧客の総合的な満足度を上げていくことが、実は顧客のウェルビーイング向上につながっている」ことを述べている。

7. おわりに

G7比較からみる日本のFWBには、明確な可能性と課題が同居している。日本国内では家計満足度とウェルビーイング実感が連動しており、現在の家計満足度を高めることには十分な意義がある。一方、国際比較からは、同程度の家計満足度を持つ国々よりウェルビーイング実感が著しく低く、現在の家計満足度の改善だけでは不十分である。

今後求められるのは、「お金を増やす」政策に加えて、「お金によって安心、時間、選択、希望を得られる状態をつくる」、すなわちFWB政策の実装である。G7諸国の中で既に中位に位置する家計満足度をさらに高めるとともに、それを生活全体のウェルビーイング実感向上へ結び付けていくことが、日本のFWB政策の中核となるだろう。


【注釈】

  1. Gallup World Pollの調査概要については以下の通り。

図表
図表

  1. ウェルビーイング学会は、ウェルビーイングに関する研究結果の公開や学術集会の開催などを通じて、分野横断的なウェルビーイング研究の進化と交流を推進するため2021年に設立された学会。

  2. GWPでは家計満足度について次の質問で聴取し、①~④から一つ選択。回答結果から平均点を算出。
    Q.現在のあなたの世帯所得に関して、実感に最も近い表現は次のうちのどれですか?
    ①現在の所得で快適に暮らしている(4点)、②現在の所得でなんとかやっていける(3点)、③現在の所得で暮らすのは難しい(2点)、④現在の所得で暮らすのは非常に難しい(1点)

【参考文献】

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。